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東方幻想入り  作者: コノハ
最後の反乱
110/112

パパの最期と私

 私達が出たのは、博麗神社の境内だった。私たちは鳥居に近いところにいる。

 境内の中央で、パパが一人で立っていた。

「やあ、二人とも。霊夢、よくもやってくれたね」

 パパは珍しく、機嫌が悪そうだった。

「あの忍者のことかしら? それとも、転移封印のことかしら?」

「どっちもだよ。まさか宗がしくじるとは思わなかった。どうやって気付いたの?」

 そう言ってパパは、血の力を使って、アイスピックを作り出した。

「答える義理はあるかしら」

「ふん。秘密主義ってやつかい。ムカつくね、偉そうに」

 パパの怒気に、知らず知らず、体が緊張して、僅かな恐怖が私の心をゆさぶる。

「違うわよ。あなたに私のことを少しでも知られるのが嫌ってだけ。あんたじゃなきゃ喋ってたわ」

「おやおや……嫌われたものだね」

「好かれるとでも思ってんの?」

「いいや? でも、やっぱり人の輪は会話から始まるんだと思うよ」

「その輪を根っこごと壊すヤツが、何を」

「壊すんじゃない。我々色に染め上げて、狂わせて、我々が住み良いように変えるだけだよ」

「それを壊すって言うんだけどね。さて、リュカと望はどこかしら」

 霊夢は嫌悪感や憎悪、殺意をなんとかこらえてそう言った。

「今は保護してるよ」

「へえ、殊勝な心がけじゃない」

「ったく、うちのメンバーはみんな幻想郷の連中とやりあってて、二人を虐める人間がいないんだよ。全く、忌々しい。なんで転移を封印できるんだい。事象まで封印できるなんでおかしいじゃないか」

「あんたの趣味嗜好に比べれば、マシよ」

 まあいいや、とパパは言った。

「じゃ、ミオ。僕の仲間になれ」

「ことわ」

「断ったら、リュカを犯して望をめちゃくちゃにするよ?」

「……」

 私は、何も答えることができなくなった。望君とリュカが、人質?

「は? 手一杯なんでしょ? 二人をやれるわけがないわ」

「そうだね。でも君がそう思う理由はなに?」

 理由? それは、パパが言ったから。

「……そうか」

 霊夢はそうつぶやいた。

「その通り。さすが察しのいい巫女さんだ」

 パパが嘘を言っている。本当は、今にでも、リュカと望君にひどい事する準備が万端なのかもしれない。

「……」

 私はどうすればいいんだろう。

「決断しないなら、まずリュカの悲鳴から聞いてもらおうか」

 賽銭箱の奥、本来なら御神体か何かが置かれている襖が、開いた。

「……」

 私は、絶句した。

 リュカが裸で捉えられていて、彼女の周りには沢山の男性が立っている。。望君も裸に剥かれて、武器やおぞましい道具を手にした人たちに囲まれている。二人の顔は恐怖に歪み、望君もリュカも気が動転して吸血鬼の力を使えないようだ。二人は私が首を振るだけで与えられるであろう苦痛に怯え、カタカタと震えていた。まだ傷付けられていないし汚されてもいない。けど、こんなのっ。

「仲間になるなら、二人への処刑をやめてあげる」

「わ、わかっ……」

 言いかけて、止まる。待て。

 なぜ私はここでパパに従順でいようとする? なぜパパに従う?

 そもそも、私は弱い吸血鬼のままでもよかった。だってもう平和で、力なんて必要なくて。でも力が欲しくなった。強くなりたかった。まるで修行するようにレミリアに喧嘩ふっかけたりフランと遊んだりリュカと殺し合いをした。まるで、力を上手く使うための練習であるかのように。

 なぜ、強くなろうとした?

 答えは、驚くほど単純。こういうときのために、大切な人を、守るため。そう、実際一度はパパからリュカを救い出す事に成功した。成功したんだ。

 だから私が選ぶのは従うことじゃない!

「わかるもんか、信じられるもんか、パパの理屈なんて!」

 両手に剣を生み出して、リュカ達を囲う人間達を目指す。私の速度は、風に等しい。普通なら肌が裂けて激痛が走るようなことでも平然とできる。

 なぜなら私はバケモノだから。みんなを守る、怪物だから!

 ほとんど一瞬で、私はパパの後ろに回り込んだ。

「まさか……!」

 私が初めて見た、パパが驚く顔だった。

「じゃま、させない!」

 パパの身体が、ずれて行く。

 私が吸血鬼の力を全開にして、すれ違いざまにパパを刻んでいたからだ。血の塊になったところで、駆け出す。

「どいて! どけ! 切り刻むよ!?」

 剣を振るって威嚇しながら、神社に乗り込む。周りの人間は吸血鬼化していないのか、私の剣を見て恐れをなして離れた。

 私は血を使って、何本か腕を新たに作る。その新しい腕で、リュカと望君を縛っている枷をほどき、救出すると、霊夢のところまで一気に跳ぶ。

「霊夢、私、やったよ! 守った! 守れた!」

 私は二人を優しく地面に横たえると、血の腕を身体の中にしまい、二人を守るように一歩前に出て剣を構える。

「二人とも、無事だよね!」

「う、うん。僕は、無事だけど。ごめん。結局僕は、足手まといで」

「ううん。パパの前に立ちはだかってくれた時、本当にうれしかった。ありがとう。望君のおかげだよ。リュカ、無事?」

「もうダメかと思った。でも、問題なし」

 よかった。ショックも少ないみたい。

「よし! よくやったわ! さあ、観念しなさい、御陵臣!」

 その時、極太の魔法光線がパパの仲間のいるところに降り注いだ。神社ごと、魔法光線はパパの仲間を覆う。

「これで最後! すまん、遅れた!」

「遅いわよ魔理沙! ヒーロー役はもう取られちゃったわよ?」

 箒に乗って颯爽と現れたのは、リュカの片想いの人、魔理沙だった。

「いいんだよ、私はリュカのヒーローになっちゃいけないんだ。振ったオンナへの優しさは、冷たいことよりも罪深いんだぜ?」

「ふ、そうかもね」

 マスタースパークに撃たれた人たちは、気絶しているようだ。死んではいないと思う。

「こんにちは御陵臣。あなたにはウチの妹が世話になったわね。死ぬほど後悔させてやるから覚悟しなさい」

 甲冑、鎧、古今東西様々な防具武具を装備した人型の人形の軍勢を従えて、アリスが神社の階段を登ってきた。 ゆっくりと、まるで将軍がするように。

 人形の数は、もはや数えきれないほどだった。

「あ、アリス? 本気は出さない主義じゃなかったの?」

 人形の数に、付き合いの長い霊夢も驚いているようだった。

「ここで本気を出さずにいつ出すの? それから霊夢、ゴミクズの集団は全員吸血鬼化してるから、殺そうとするよりも気絶させたほうがいいわ」

「そ、そう。情報ありがと」

「驚いてるわね、霊夢。

 いやいや、大変だったわよ、本当に。鬼のように強いアリスを抑えるのが。ま、革命団とかいう有象無象はそうでもなかったけど」

 何時の間にか、私の肩には紫の手があった。上半身から先をスキマから出して、飄々と笑っている。

「……紫?」

「もう大丈夫よ」

 そう言って紫が私を撫でようとしたとき、スキマの奥から輝夜と永琳が現れた。

「御陵臣! もう逃がさないわ!」

「封印する前に一発殴らせなさい! 親友の仇、この手で取ってやるわ!」

 永琳も輝夜も、爆発寸前だった。

「……ちっ。最終手段か。キア!」

 え?

 私が疑問に思っていると、神社の中から、キアが現れた。

「幻覚使い……」

 霊夢が、苦々しく呟いた。

「さあ、キア。逃げよう。早くこいつらを適当な幻覚見せて逃がしてよ」

 私は、こぶしを握りこんだ。キア……。あなたは、裏切るの? 裏切らないの?

「わかっています、臣。私は、私の成すべきことを成します」

 みんな、攻撃しようと次々に武器を構える。

「ま、待って!」

 なんで、私は止めているのだろう。信じているの、キアを?

 で、でもキアは『好きにしてもいいよ』って言ってもなにもしなかった。

 でもそれ自体がパパの仕込みかもしれないのに?

「……わかったわ」

 意外なことに、霊夢は頷いてくれた。

「ふ。バカだね。さ、逃げてまたやり直そう。また地獄を作ろう、キア、君となら」

「いいえ。次はありません」

 ピクリと、パパがこめかみを引きつらせた。

「この状況、わかってるの? シードも優斗も優奈もみんな捕まった。このチャンスを逃せば終わりなんだよ? キア、目の前を見なよ? 全部僕らに向かってくるんだよ? 逃げなきゃ死ぬより恐ろしい目に遭わされるんだよ?」

 キアは首を振った。

「いいえ! もうあなたにはついていきません! この恐怖も、畏怖も、あなたへの恋心も! 全部あなたが作ったんです! もう私は、作られた感情に惑わされない! 私は、マスターのものなんですから、マスターの言葉に、従います!」

「そのマスターは何も言ってないんだ! 命令される前に早く!」

「私は命じられなくとも、マスターの喜ぶことがしたいです!」

「あんなガキに何を恩義感じてるんだ! とっとと幻覚作って逃げる算段つけなきゃこの場でぶっ殺す!」

 一瞬だけ、キアは怯んだ。でも、気丈にパパを睨みつけた。

「やってご覧なさい! いくら私を犯そうと、身体を弄くり倒そうと感情を引っ掻き回そうと、私はもう揺らぎません! マスターが否と言ったのなら、私は否と叫んでみせます!」

「そんな忠誠示してどうなる!? このまま赦されるとでも思ってんの!? 俺と同じように、封印されるんだぞ!」

 キアは、負けじと叫んだ。

「構いません! 永遠に囚われる? それくらいが私に相応しい罰です! ならば、罪の上塗りをする方が愚かです!」

「このゴミ! 拾ってやった恩も忘れて!」

「忘れました! でもそれってあなたが私にしたことよりひどい事ですか!?」

「恩義忘れて人の世渡っていけると思うなよ!?」

「渡る必要はないんです、このあと私は封じられるのですから!」

 ぐ、とパパはついに何も言わなくなった。

「いつか言いましたよね、こうなったときはマスターと共に私の幻覚が襲いかかるって!」

 そう言った時、パパの様子が変わった。そして、それが。

 それが、パパの最期だった。


 キアの手が光った!? 光って、それでなんだ。それがなんだ!

「それで終わりか!? それで終わりか、犬っころ!」

 キアに向かって、吠える。何も変わらない、何も変わっちゃいない。幻覚? そうさ、幻覚だから何だってんだ! これから目の前の澪にしっぽ振る犬っころを壊して、ここから逃げて、それからどっかに身を隠して、水面下で動いて人を集めて洗脳して、それから、今度はもっとマシな奴隷を作って、今度こそ幻想郷を地獄に作り変えて、そこで俺は王になってやる! 王になって、毎日毎日、澪やキアで楽しんでやる! 澪にさせたい格好や言わせたい台詞はまだまだ山ほどあるんだ! 四年じゃ全然足りない! あいつの一生を俺のために浪費させてやる! 歪み? 狂気? それがどうした! 澪を、幻想郷を、世界を、俺のために作り変える!

 と、そのとき。俺は異変に気付いた。周りは何も変わっていない。だからこそ、異変に気付いた。

 どれだけ俺は考えていた? ちょっと待て。おかしい。なんであいつら、何もしてこない? なんで全員がぼうっと見てる? なんでキアが悲しそうな目で俺を見る?

 そのとき、ようやく、キアの幻覚が、切れた。いや、違う。キアが切ったんだ。

 つまりキアの幻覚は、周りの人間が動かない、静観しているという幻覚。そして、正気に戻った時にはすでに、八方ふさがりの状況だった。時間感覚さえ狂わされていたのかもしれない。

 キアの手で詰まされて、ようやく悟る。

 ――はっ。俺は間違えた。キアにだけは、優しくしとかなきゃいけなかったんだ。キアだけは、別格だった。まさかこんな、自分に使われて初めてヤバさがわかるとはな。

 俺の体は、動かなくなっていた。幻想郷の――今までゴミかクズか、それ以下にしか見てこなかったやつらが、俺を見ている。哀れむような目で。そして、目の前には青い服を着て閻魔がもつような錫を手にしているガキが、俺を見下している。何時の間に?

 俺になにをした!?

 叫ぶことすら、できない。

「あなたの判決を、述べます」

 目の前のガキが、冷酷な声で言った。

「判決、黒。幻想郷の決まりに乗っ取り、封印。以上です」

 それだけだった。

「ふふふ、身体、動かないでしょ? あなたが身体を動かそうとするための必要意思を、極限以上に引き上げたから……限界を越えようと頑張って身体を動かそうとして、ようやく小指がチョコっと動くくらい? キアの幻覚のおかげで、準備が楽だったわ」

 ……準備だと? なんの準備?

 ガキとババアがどいて、俺の視界を広くする。俺から離れたところに、澪ともう一人の澪が立っていた。

「パパ。バイバイ」

「御陵臣。さようなら」

 それだけで、二人は俺から背を向けた。

 まてよ、それだけかよ! もっとあるだろ!? もっと言いたいことあるだろ!? 泣けよわめけよ! その顔が見たくて俺は虐めてたんだぞ!? なんで。

「御陵臣。お前には、永遠の牢獄こそが、相応しい」

 巫女が俺を見下している。

 幣を構えて、周りには七色の球が浮いている。これが、俺を終わらせる光。

「これで、終わりよ御陵臣! 霊符『夢想封印』!」

 球が俺にぶつかって封印される直前、俺は紫の束縛から逃れた。でも、こんなところで解けても意味はない。せいぜい一言遺言が遺せるくらいだ。

 だから言おう。

「澪」

 愛しい我が娘。もっとお前で楽しみたかった。もっともっとお前を愛したかった。もっともっともっとお前と交わりたかった。もっともっともっともっとお前を壊したかった。

 そしてそう思った次の瞬間、俺は封印された。体が動かなくなって何も見えない何も聞こえない何も感じない、そんな状態になる。

 ――ちくしょう、しくじったなぁ。はあ。

 でも、楽しかったし、まぁいっか。

 俺はそれから悠久の時を、澪と過ごした時間を思い出して過ごした。

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