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東方幻想入り  作者: コノハ
最後の反乱
108/112

夢の国と私

「いらない。こんなところに呼び出した目的は何?」

 リュカが訊いた。パパは肩をすくめて、飄々とした態度で答える。

「いやぁ、ここ、広いし色々あるし子供山ほどいるしで、拠点にすることにしたんだ」

 確かに、ここは広い。中央にある広間だけでも小学校が二つ三つ入るくらい。東西南北それぞれのブロックには、見るだけで胸が跳ね心躍るアトラクションが山のようにある。ここを、パパの汚れきって真っ黒の欲望で埋め尽くすの? そんなこと、させやしない。

「そう。でもそんなことできやしない」

 リュカは力強く言った。

「できるさ。大人の方は多すぎて、二百人くらい殺しても問題なしだから、周りを脅すのに使うよ。というかもう使った後だしね! そうでなきゃここ、こんなに空いてないよ?」

「そう。でも、これ以上脅すことも、できない」

「へえ、どうしてだい?」

 リュカは、手に巨大なハンマーを作り出した。

「私たちがお前を止めるから」

 リュカが言うと、パパは楽しそうに大笑いした。

「あはははは! 止めてご覧よ!」

 パパがそう言うと、パパの周りに赤い光と共に三人の男女が現れた。

 男が二人、女が一人。

 光が収まると、彼らの姿がよくわかった。

「紹介するよ、これが僕の右腕、『ありとあらゆる場所に転移できる程度の能力』の、持ち主、優斗だ」

 パパは腕を優斗の肩に乗せ、親しげに紹介してきた。

「よろしくな、嬢ちゃんたち。せいぜい楽しませてくれよ?」

 ゾッと、背筋に冷たい汗が流れる。どこにでもいそうな普通のお兄ちゃんだけど、でもやっぱりパパに肩を組まれても平気でいられるくらい、同類なんだ。

「んで、こっちが僕の左腕、シード」

「うっすガキども!」

 ニコニコと、笑顔で、茶髪の十三歳くらいの男の人が手を上げた。

「こいつは『他者に能力を与える程度の能力』を持ってる。めちゃ使えるぜ?」

「旦那、俺は道具じゃないっすよ~」

「ごめんね、言い方が悪かった。めちゃいい奴だよ」

「おう! 捕まえたら壊れるまで遊んであげるから楽しみにしてろよ!」

 私とリュカ、二人で身震いする。

「で、この人が……ミオ、君の新しいお母さんだ。今日結婚した」

 私の心が、凍った。

 新しいお母さん?

「私、御陵優奈といいます。臣様の妻になりました。これからよろしくお願いしますね、澪、リュカ」

 そう言って頭を下げたのは、どう見ても世間知らずのお嬢様っぽい女の人だった。すらりとした体型に、パパ好みの童顔。彼女の瞳は誰が見ても明らかにパパに惚れている色をしていた。

「優奈さん、今ならやり直せる、パパと別れて!」

「臣様の嗜好は理解しています。ですが、受け入れます」

「パパの趣味知って結婚したの!? おかしいよ!」

 信じられない。騙されてるって風には見えないけど……。

「実はね、ミオ、リュカ。優奈は僕の三号なんだ」

「……」

 いきなりとんでもないことを言ってくるパパ。

「一号は君のママ。二号は君。ステキでしょ?」

 おぞましすぎて、お腹から熱いものがこみ上げてきた。

「ふふふ、いや、三号はやっぱり……望かな?」

 パパは視線を望君に向けた。それだけで望君はカエルのように動けなくなった。

「パパ。それ以上喋るな!」

「残念。もう僕に命令は聞かないんだよ」

 どうして?

「さあ、どうしてだろうね。お薬が関係してるんじゃないかな?」

 永琳の薬? まさか!

「冗談冗談。ウチのグループに薬を作るのが得意なのが一人いて、さ。

 おしゃべりはここまで。楽しかったよ、ミオ。

 そういえばみんな、幻想郷は今どうなってるだろうね?」

 幻想郷? なんで今、幻想郷に?

「臣様、そろそろ種明かししてあげましょうよ。可哀想です」

「ん、そうだね。霊夢」

 呼ばれた霊夢は、嫌悪感丸出しにして、パパを見た。

「私に話しかけないでくれる、人間のクズ。あなたが喋れば大気が汚れるわ」

「ふふふ、僕は地球さえ汚せるのか。素晴らしいね、人間のポテンシャルって」

「あら、塵にも劣る存在が何か言ってるわ。聖書だったっけ、こっちの神様の聖典。そこにも書いてあるじゃない。

『ash to ash dust to dust』

 塵は塵に、灰は灰に、ってね。ほら神様が言ってるわよ、死ねって」

「おや? 引用する聖書、間違ってやしないかい? ヴァンパイア教教祖、御陵臣はおっしゃった。

『バケモノ怪物有象無象、種族性別関係なし。正義気取りの聖人どもをぶっ殺せ!』ってね! 死ぬのは君じゃない? あはははは!」

 パパのふざけたものいいに、霊夢はこめかみを引きつらせた。

「うっとおしいわね、あなた」

「可愛らしいね、君は。捕まえてみんなで一緒に楽しもうね」

「はん! 私に触れたら粗末なモノ噛みちぎってやるわ」

「おやおや。そのときに噛む歯が残っているといいね?」

 パッと、フラッシュバックするみたいに私はママを思い出す。ママは若かったけど、総入れ歯だった。パパが、そんなにしたんだ。

「へえ、言うじゃない。歯なしが好きなんて、変態なのね」

「あはは。何言ってるのさ、君は歯なしの良さがわからないの?

 女の人にはわからないよね、モノがないもの。あはははは!」

 我慢の限界が近づいていた。でも、パパのまわりには実力が未知数の人間が三人もいる。捕まったら終わりなのに、危険を冒すなんてできやしない。

「そろそろやめにしよう?」

「あなたの人生をかしら」

「君らの幻想郷をだよ」

 霊夢の顔が、少し青くなる。

「優斗の転移能力は素晴らしい。誰にもできないことを平然とやってのける。

 つまり、君らのなんだっけ? スキマ? そんな不便なものと違って幻想郷とこの世界との境界に影響がないんだよ。面白いよね」

 パパらしくない、優しさだった。

 なんで?

 私が霊夢を見ると、彼女は何かに気付いて顔を青くしていた。

「……まさか」

「お、気付くか。うちの勘が悪い娘に教えてあげてよ、この能力でどんなことができるか!」

「……ふん。ここであんたを仕留めれば問題なしよ」

 パパの言葉を無視して、霊夢が幣を構える。

「いいかい、ミオ。僕らが移動するたびに、君らは幻想郷と外の世界を行き来しないとしけない。どうせ、霊夢は僕をなんとかする方法、知ってるんでしょ?

 だから我々が行くところに君らはついてこなければならない。で、僕らは違う世界に移動して、好き勝手暴れまわる。君らが来たら移動して、というのを延々繰り返すとどうなるか?」

 どうなるの?

「……どうなると思う、紫さん?」

 紫は嫌そうな顔をした。

「境界が、どんどん壊れていくわ」

「そう! だから我々は世界を壊すのさ! そして移動すれば移動するほど、外と幻想郷との隔たりは壊れていく。壊すのは、君たち! 我々じゃあない!そして、ミオたちと、望、他の幻想郷の住人全員を、我々の奴隷とする! そして、国教ヴァンパイア教、専制君主制、貴族主義社会のヴァンパイア国を打ち立てるのさ! 我々の安住の地を、我らが手に!」

 そうパパが言い切ったあと、パパの顔面に巨大なハンマーが命中し、頭部を吹き飛ばした。

 怒りの表情を露わにしたリュカが、ハンマーを投げきったあとの体制で、息を切らしていた。

「はぁ、はぁ、わ、私にあんなことしただけじゃ、飽き足らず……みんなに、手を出そうなんて! 許さない!」

 パパが、回復した。手の先から高速で何かを射出し、その何かはリュカの頭を貫通した。リュカはあおむけに倒れ、動かなくなる。

「リュカ!」

 私はリュカに駆け寄る。額が撃たれたみたいに赤い穴が空いている。だ、大丈夫、だよね?

「飽き足らないよ。君だけじゃだめ。アリス、魔理沙、それからヤブ医者永琳。輝夜。それから美沙。みんなみんな、我々の隣で我々に尽くすことだけを考える人形にしてあげる」

 私は両手から剣を生み出した。

「そんなこと、させない」

「じゃあ君らが身代わりになる? そうしたら、幻想郷のみんなは助けてあげてもいいよ?」

「わかった、私が奴隷に」

 みんなを守れるなら、この身体なんて安いものだ。

「ミオちゃん!」

 望君が、私の前に立って、パパと対峙した。

「ミオちゃん、ダメだよ。この人のいう事を信じるの!?」

 ハッとなる。そうだ。なんで私はパパが約束を守るなんて思っていたんだろう。

「おやおや。えらっそうに説教くれて、望、君はミオのなんなんだい?」

「御陵臣、僕はお前からミオちゃんを解放する! もうミオちゃんの視界にも入るんじゃない!」

 パパは高らかに笑った。

「あはははは! 知らないの? ミオ、僕にぞっこんなんだよ? 嬉しそうに腰振って、気持ちいい、って叫んでたんだから」

「パパ、やめて」

 お願い、教えないで。望君、聞かないで。お願い、お願い。

 知らないで。


 知らないで!

 

「いやぁ、びっくりだよ。泣いてたのは最初だけ、二日も経てばもう淫乱のできあがりだよ。望は中古抱いて嬉しいかい? 僕の使い古しだよ?」

「ミオちゃんは道具じゃない! 使うとか、そんなこと言うな! 淫乱云々だって、そんなのお前が脅してたんだろ! お前が好きなんてミオちゃんの口から聞いてない! ミオちゃんが好きなのは、僕だ! 僕だけだ!」

 信じてくれた。

 絶対に誰にもわかってくれないと思っていたのに。絶対に、知られたらその瞬間に終わると思っていたのに。それなのに、信じてくれた。好きなのが望君だけだって、望君が、言い切ってくれた。

「へえ、へえ。そうかい、すごいねぇ。でも、君の彼女、実はね、吸血鬼になる前からバケモノなんだよ?」

「……どういう」

「君の彼女はね。自分の母親を」

 パパの口を塞がなきゃ!

 そう思ったけれど、もう、遅かった。今からでは、どんなに頑張っても間に合わない。

「食べてるんだ」

 今度こそ、私の思考は停止した。

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