生殖のような行為と私
「望君。私、本当にこんなことしたくないの」
神社の一室で、私と望君は向かい合っている。霊夢と紫、それからリュカは外で待ってくれている。これからのことを話し合っていると言ったけれど、気を利かせてくれたのだろう。
パパの反乱は、怒涛の勢いで進んでいる。逃げたと思ったその当日に、パパは本格的に行動を開始。遠くから聞こえたパパの叫び声を聞き取れていなければ、二人に置いていかれたかもしれない。
でも、望君の登場はパパの反乱以上に予想外だった。
望君には悪いけど、彼は非力で、肉体的に弱くて。だからパパと戦う、盾になると言ったとき、私は心臓が信じられないくらい熱くなるのを感じた。
望君が死んでしまうのではないか。そう思ったからだ。
不死だとか関係せずに、私は望君の体を心配した。でも彼は私の心配を振り切って、吸血鬼になってでも肩を並べたいと言ってくれる。
今私が感じているのはわがままを言う望君に対する失望だろうか。
それとも、一緒になってくれるという歓喜だろうか。
「うん、わかってる。ごめんね」
緊張だろうか、恐怖だろうかで震えている彼をぎゅっと、抱き締める。
「今なら、引き返せるよ」
「ここで引くような男は、君にふさわしくないよ」
かあっと、顔が赤くなるのを感じた。
「ば、バカ。私そんなにすごくないよ」
照れ隠しに、ちょっとバカにしてしまう。嫌われちゃう、かな。
「すごいよ。眩しいくらいに」
「……買いかぶりだよ」
そう言って、私は望君の首筋を撫でる。
「ひゃっ」
かわいい。
つつつ。
「ひゃぁっ!」
可愛い可愛い超キュート。
でも、そんな評価を口にしたりはしない。望君も、私と同じなんだから。可愛いって言われたら嫌だろう。
「望君。いいの?」
「いいの。お願い、ミオちゃん」
望君は、もう引き返したりはしないだろう。私は頷いて、望君の首筋を甘噛みする。
「んっ……」
「望君、力をあげる。一緒にパパを倒そう」
「う、うん」
そう言って、噛み付く。そして、彼の血液を吸い上げていく。
私と同じに。私と同じ吸血鬼に。共に永遠を歩もう、望君。
「ん、あぁ……ミオ、ちゃん……」
望君の甘い声に、ドキドキする。大切な人が、大好きな人が気持ちよくなってくれている。その充足感。
「ミオ、ちゃん」
ゴクリ、ゴクリ。彼の血は、極上だった。好きな人のものだから、かな。わからないけれど、とても美味で、いつまでも飲んでいたい。
「ミオ、ちゃん……」
「あ、の、望君!?」
望君の息がか細くなってきて、慌てて口を離す。
「う、うん、大丈夫」
私を見る目は、もう紅く染まっていた。真っ赤な血の色をした、吸血鬼色に。
「の、望君。確認するね」
「え? あ、うん」
眷属にしたかどうかの確認をしないと。もし、間違って眷属にしちゃってたら、どうしよう。
「さ、三回回ってワンって言え!」
望君は、動かなかった。三秒でも四秒でも、彼は彼のままだった。
よかった。間違わなかった。
「よかった!」
私は感極まって、抱きついた。望君も、抱きしめ返してくれる。
「うん、本当に、よかった。
……行こう、ミオちゃん。頑張ろう!」
私は望君から離れて、頷く。
「うん!」
私は望君とお手てを繋いで三人がいる境内へと向かった。
「アツアツじゃない」
紫にいきなり冷やかされた。
「からかわないでよ! もう」
「からかうなってのが無茶よね。全く、イチャイチャしちゃって。
……神社の中でヤらなかったでしょうね?」
「僕らはそんなことしない!」
「でも、吸血鬼にとって吸血って生殖行為に近いよ?」
リュカが余計なことを言おうとしてる。
「え? どういうこと?」
「エッチなことしてるのと変わらないってこと。気持ちよかったでしょ?」
リュカが聞くと、望君は顔をみるみる紅くしていく。
「もう、妬けるわね。じゃ、時間もないし行きましょう。霊夢から順に」
「ええ。幻想郷の不可侵を破った落とし前はつけさせるわ」
紫がスキマを開くと、霊夢が迷いもせずに飛び込んだ。
それにしても霊夢、ヤクザ屋さんみたい。
「私が先に行くね。ミオ、望。頑張ろうね」
次にミオがスキマに飛び込んだ。
「行こう、ミオちゃん」
「うん」
そして。最後に私達が、スキマに飛び込んだ。
周囲に無数の目が浮かんでいる不思議て不気味な空間に、私たちは浮かんでいる。
「ここが、御陵臣が外に出て最初に訪れて、しばらくいた場所よ。まずはここで手がかりを探しましょう」
紫の声が、スキマの中全体に響いたあと、私達は、落ちた。
「きゃっ」
ドサドサドサ! と音がする。周りを見ると、霊夢やリュカ、そして望君が尻餅をついていた。
「私は御陵臣を探すわ。他のみんなはここをお願い」
「ここってどこなの?」
早くもスキマの中に消えようとした紫に、霊夢が聞いた。
「ここ? さあ? でも御陵臣がちょっとの間ここにいたってだけの場所。もしかしたら計画書とかあるかも。それじゃあね」
紫はそう言って、消えてしまった。
改めて、周りを見る。壁に道具を掛けるフックが何十個とある以外は。思ったより、ふ、つう……。
「……」
気付いて、自分の血の気が引いていくのを感じた。私は駆け出して、部屋の位置を確認する。寝室、お風呂、トイレ、拷問部屋に、パパの部屋。
間違いない、ここは。
「どうしたのよ走り回って」
霊夢が聞いてくる。私は震える声で、答えた。
「ここ、私の家だ」
みんなが固まったのを、感じた。