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東方幻想入り  作者: コノハ
最後の反乱
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貫く意志と私

 私は幻想郷で新たに行動を開始した不穏分子に頭を悩ませていた。

 ミオと話をしたあと、私は博麗神社に戻り、寝転がりながらうんうん唸っていた。彼女は家に戻って連絡を待つそうだ。あの子は本当にできた子供だ。御陵臣に歪んだ教育を施されているせいで思考回路が少し変だけれど、それでもヤツの娘とは思えないくらいまともな子だ。

「パパを殺さないといけないの?」

 そう言ったときのあの子の顔は、忘れられない。不安で、悲しそうで寂しそうで、親に捨てられそうな、そんな表情だった。

 子供は、どのような親でも大切で、大好きなのだ、と慧音は言っていた。彼女は虐待されて育った子を見たことがあるそうだが、ほぼ間違いなく、両親を求めるそうだ。ミオもそんな彼らと同じで、憎いだの壊すだの言っていたけれど、やはり本心ではヤツと仲良くしたいのだろうか。

 それなら、一番の不確定要素は彼女ということになる。彼女に裏切られたら本当にどうしようもなくなる。力そのものもは大したことなくとも、あの子は倒すことができない上に、無間地獄に行くときに私の術をかけてしまったから、私の封印術が効かない。ようするに、防ぐ手立てはないということだ。攻撃だって発展途上というだけで、潜在能力はめちゃくちゃ高い。捕まえて常にぐちゃぐちゃのペースト状にでもしておけば動きは封じることができるだろうが、そんなことをしようと思える人間は、この幻想郷にいない。

 ……はぁ。私、協力者を疑ってなにやってんだろ。

 博麗の巫女ともあろう私が、らしくもない。こんな姿、誰にも見られるわけにはいかない。

 かつて、ミオは私の不安と恐怖を読み取ったように、私は不安だらけだ。横柄にそして尊大に振舞うようにはしている。けれど、私はいつも成功できるかどうか不安なのだ。

 特に今回は、失敗できない。なぜなら、今回の火種はあの狂人御陵臣なのだ。バケモノ。怪物。この評価が生身の人間だったころからのものなのだから、恐ろしい。

 彼の目的は、享楽。他者を虐げ地獄を作り、その頂点で笑うこと。

 許すわけにはいかない。

「霊夢」

 天井を見上げていると、スキマが生まれ、その中から紫が顔を出した。

「ん? 何か用?」

「慧音が早く護衛を、だってさ」

 護衛、か。誰が適任だろう。ミオ……は、人里に近づけちゃダメだからなしとして。

「魔理沙あたりが適任じゃない?」

 人里とも繋がりがあるし、あいつが空を飛び回っていても、人里の人たちはいつものことかで済ませるだろう。

「ま、そうかもね。ミオとかでもありじゃない?」

「なしよ」

 紫だって事情を知ってるだろうに、意地の悪い。

 彼女は知らないし、知られないようにしているが、人里に彼女の居場所はない。

 幻想郷の英雄も、今は昔。今の彼女の称号は、疫病神。そうでなくとも、ミオの父親が御陵臣だとわかった時点で、評価は反転したのだ。望に寺子屋へのお誘いがきて彼女に来なかったのは、そういう理由があるからだ。

 それに、人里の中には、ミオを御陵臣と同じように憎む人だっている。

「そう? 人里に馴染ませるのもいい手だと思うんだけど」

「そうね。全部解決したらそうしましょう」

 紫はイタズラっぽく笑うと、スキマの奥に消えた。全部解決してもきっと、彼女は寺子屋にさえいかないだろう。

 何考えてるんだか。紫の式神が一体やられたって言ってたし、紫の動きには注意しておかないと。単独行動取られたら移動が大変になる。

「……」

 溜息をついて、さっきまで考えていたことを再び考える。御陵臣。吸血鬼になって、力を手に入れた。たぶんミオやリュカとは違って加速度的に技術を上達させていくだろう。

 そして、ヤツには厄介なことに三つも力があることになる。

 人に感情の芽を植え付ける程度の能力。

 これと相乗させて、御陵臣は先の解放異変を起こした。大量の人間を狂気に走らせ、その集団のトップで笑っていた。

 次に、人の本性を暴く程度の能力。

 この力は、未知数。人の本性をさらけさせる能力だそうだが、これは個人によるからそう多用はされないだろう。

 そして、あらゆる能力を増幅し、その後耐性を得る程度の能力。

 これが、一番厄介だ。私の封印術も神の奇跡も全て一度きりしか効かない。ミオからこの力をもらう時に強化されているようで、さらに強力になっている。

 一度きり? 通常弾も牽制もなしの、一発勝負で、失敗したら打つ手なし?

 いや、もし失敗しても捕まえて何もする気がおきないくらいに痛めつければいいだけだ。

 ……でも、そんなことできるのなんてそれこそミオかリュカくらい。

 子どもにそんなことさせるの?

 いいや、させられるものか。ということは、つまり、私は失敗してはいけないということだ。一度きり、そして失敗は許されない。

「……」

 幻想郷中を、守らないといけないのに。それなのに私は、あまりの重圧に潰れそうになる。

 失敗したら幻想郷が地獄になる。彼が作る地獄は、私の想像が及ぼないほど凄惨なものに違いない。森の拷問小屋の中を見たことがあるが、そのあと一週間は肉が食べられなくなった。娘の内臓を取り出して床にぶちまけるなんてことを笑ってできる人間と、私は戦わないといけない。

 重い。辛い。

 怖い。

 本気を出せば私が勝つ。でもただ本気を出すのではだめなのだ。一発で決めないといけない。決めなきゃ幻想郷が終わる。

 ……怖い。

 けどやらなければならない。

 私は博麗の巫女だから。それだけの力があるのだから。

 ミオやリュカが必死に頑張ってるのに私だけ逃げれるか!

「よし」

 私は立ち上がって、境内から空に上がる。

 やってやる。そして、御陵臣。お前には二度と太陽を拝ませさせやしない。悠久のときを封印されたまま過ごさせてやる!

 決意あらたに、私は空をかける。

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