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東方幻想入り  作者: コノハ
最後の反乱
101/112

謝罪された望君と私

 次の日の昼、私はキアを連れて永遠亭に足を運んでいた。

 目的は、二つ。

 一つは、キアの精神状態を永琳に診てもらうこと。

 もう一つは。

「大切な話って、なあに?」

 診察室の前で、私は望君と会っている。木の廊下は吹き抜けとなっていて、すぐ外には庭がある。庭の向こう側には、居間の縁側が見える。私達は廊下に隣り合って座っていた。

「キア、って人、知ってる?」

「うん。ミオちゃんの眷属、だよね?」

 彼女を、望君は見ていない。それはそうだ。今日、私が念を入れて、彼女を望君の目に入れないようにしていたのだから。

「……望君、解放団で誰にされたか、覚えてる?」

 彼の顔が目に見えて不機嫌になった。

「なんでそんなこと聞くの?忘れられたら忘れてるよっ!」

 はぁ、はぁ、と彼は肩で息をしている。まだ、傷は塞がっていないようだった。

 ……キア、生き地獄コースかな。そんなことを漠然と考える。それなら別に診せに来なくてよかったかも。どうせ自分が誰かわからなくなるくらい痛めつけるんだし。

「キアが、望君を痛めつけたヤツだよ」

「!」

 目を見開いて、望君は私を見る。

「で、でも。僕を酷いことしたのは、何も彼女だけじゃ……」

「でも、キアだって仇の一人だよ」

 私は望君の耳に口を寄せる。

「今、彼女は私の言いなりだよ。絶対に抵抗させないよ。だから、復讐する?」

 彼は、何度か口をパクパクさせた。

「……今、キアは永琳のお世話になるくらい、酷い目にあったんでしょ?」

「それでもパパに一晩ヤられただけだよ。踏ん切りつかないんなら、私がやるよ?」

 ぎゅっと、抱き締められた。

「いいんだよ、復讐なんて。そうだよ。もう僕にはミオちゃんがいるんだ。復讐しても僕の記憶は変わらない。でもミオちゃんがいれば、僕はあのときのことを、忘れていられるんだ。だから、復讐なんてするよりかは、ミオちゃんと一緒にいたい」

 私は、望君を抱きしめ返す。

「優しいんだね、望君。そんな望君も、ステキだよ」

「ありがとう。ミオちゃんだって、可愛い」

 望君に言われても、その言葉は恐怖をもたらす。でも、私はその恐怖をさらに力強く抱きしめることでやりすごした。

「……ミオ、終わったわ。って、何やってるのよ」

 ばっと、私たちは一気に離れた。

 あはは、と二人して笑い合う。

「それで、キアは?」

「身も心もあなたの眷属だってことはわかったわ」

 そう言って、永琳は私の前に彼女を連れてきた。

「ありがとう、永琳」

 あ。

「……あ、あなたは」

 キアが、驚いたように望君を見る。

 望君は、顔を真っ青にして、蛇に睨まれている見たいに動かない。

「望様、あの」

 一歩、キアは望君に向かって踏み出した。ビクリと、望君は一際大きく震えた。怯えてる。

「キア、動くな!」

 私が命じると、キアは第二歩を踏み出し始めた格好のまま固まった。

「望君、大丈夫?」

 震える望君の手を取る。ぎゅっと握りしめて、私のぬくもりを伝えようとする。

 お願い、伝わって。

「……み、ミオちゃん」

 しばらくして、ようやく望君の金縛りが解けた。

「大丈夫だよ、望君。私がいるよ」

 望君が、私の手を握り返した。

「ありがとう、ミオちゃん」

 それから、キッとキアを睨んだ。

「……お前は、御陵臣の仲間なのか? お前もミオちゃんに酷い事しようとしてるの?」

「キア、答えて。もう動いていいよ。でも攻撃しちゃダメだよ」

 キアも、拘束から解かれ、バランスを崩して体をふらつかせる。キアは望君の前で正座をした。

「私はもう、マスターの下僕です。マスターの喜ぶことならなんでもいたします。マスターに危害を加えるなど、微塵も考えていません」

 望君はいきなりの隷属宣言に少し面食らっているようだった。

「望様、申し訳ありませんでした。いかような罰でもお与えください」

 そう言って、床に手をついて、頭を下げた。

「……今はまだ判断がつかないよ。そんな、急に謝られても」

「……」

 望君は迷っているようだった。それもそうか。

「……でも、僕はね、少なくとも、絶対に許せない、ってほど、お前を恨んではいないから」

 そう言って、望君はぎこちなく笑った。

「絶対に許せないのは、御陵臣だけ」

 でも、と望君は続けた。

「二度と僕の前に姿を見せないで。お前を見てると頭の奥がチリチリ痛むんだ!」

 望君は駆け出した。

「望君!」

 私は望君を追おうと駆け出す。

「キア、先に帰ってて! 住処の中で大人しくしてて!」

 キアに命じると、私は意識を望君に集中させる。

「望君」

 望君は居間でふさぎ込んでいた。

「……何?」

 私を見る彼の目には、どんよりと暗い影が落ちており、ゾッと背筋に冷たい汗が流れる。

「の、望君。ごめんね、キアなんかを見せちゃって」

「いいんだ。僕こそ、取り乱してごめん」

 彼は再び、虚空に視線を向けた。

「……あの、望君」

「ごめん、ミオちゃん。今は、一人にして」

 そう言われたとき、私の胸に切り裂かれたみたいな激痛が走った。何もされてはいない。でも、私の胸は、心は悲鳴をあげている。

「……わかった。ごめんね、望君」

 私は震える体を必死で動かして、外に出て、ふすまを閉める。

「うう、ううぅ……」

 望君のすすり泣く声が、襖の向こうから聞こえてきた。

「……」

 私は外に出て、背中に翼を生やす。

 飛び上がって、住処へとはばたく。

 望君。ごめん。

 私は心の中で何度も謝った。

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