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今は解らないいろいろなこと――Turning point


「きゃぁぁぁあぁぁぁあぁぁ!!」



 学園中に聞こえるほどの少女の絶叫。その場の誰もが動けずにいた。

 あと、叫びにかき消されて当事者にしかわからないが、強烈なビンタの跡が俺の頬にしっかりのこっている。

「なななん、なんですか貴方!?」

 顔を真赤にしながら俺の腕の中で必至に暴れ飛び出すと、助けを求めるようにキーアに飛びつく。

 キーアはキーアで、今までに無いほど戸惑っている表情。

 多分今の俺の顔も傍から見れば、類を見ないほどにきょとんとした目をた間抜け面をしているだろう。

「ちょ、ちょっと、織華。俺だ、隆道だよ!」

「誰ですか、知りませんよ! それに私は織華という名ではなく、伊頭巻日澄いずまきひずみという名です!!」

 はっ――?

「ちょっとまて――」

「待つのはキサマの方だ」

「へぶっ!!」

 後ろからグラサンに押え付けられ土を舐めさせらる。

「何しやがる! このハゲ!」

「俺は禿げていない。ただ薄いだけだ」

 あぁ、本当にハゲてるのね……

「それより、いいかげん戻ってきてくれませんか。棟長もあなたの体のことを気にしています」

「けっこうです! 自分のことは自分で責任を持ちますとおじ様に言っておいてください!」

 なんだなんだ、人を無視してのこのやりとり。

「ちくしょぉ、いいかげん放せぇ」

「ふん、キサマには関係ない――いや、そういえばキサマ、どこかで見たことがある顔だ」

「はぁ? こっちはお前のことなんて知らんぞ」

「いや――そうだ。キサマ先日、病院イズマキに忍び込んだヤツだな」

 どきーん。なになに? この人関係者ですか? もしもそうならごめんなさい言っちゃうよ(いきなり下手)。

「――えっ。もしかして、この間の騒ぎは……」

 おや? なんで彼女が驚く? と思ったが、苗字がイズマキと言ってたな。もしかして、あの日あの場にいたのか?

 でもそうなると、本当にコイツ織華じゃないのか?

 それになんだ? ただ動揺しているだけじゃなく、どこか様子がおかしい……

「そうだ、間違いない。見つけたら連れてくるようにと、棟長からのお達しがあったな。だったら二人一緒に来てもらおうか」

 やべぇ、なんか話しが不穏な流れになってきた。

 キーア助けてくれ――と目配せをしたら、なぜか頬を染めて照れやがった。使えねぇ。

 あんなキ○ガイの巣窟に連れて行かれたら、何があるか分かったものじゃない。ここは、自力で何とかするしかないのか――と思ったら、突然グラサンハゲが俺から飛び退く。

「!?」

 ワンテンポ遅れて俺“ソレ”気がつく。

 伊頭巻日澄の姿が――違う、彼女の周りの『世界』がブレて見えたのだ。

(うそ! うそうそうそうそ!!)

 ちょっ! いきなり頭の中で騒ぐな! つーか、勝手に出てくるのはルール違反だろ! 

(うるさい! 代価はもう払ってるんだからいいでしょ! んなことより“アレ”! 早く何とかして!)

 何とかって何をするんだ。つーか、アレはなんだ。

(お馬鹿の兄さんに簡単に説明しても理解できるものじゃない! だけど今はいろいろチャンスでしょ!)

 あぁ!! もう、何がなにやら! とりあえずグラサンハゲが退いたんだからここで倒れている理由は無い。

(そう、そしてあの織華のニセモノを殺しなさい!)

 何でだ。てか“アレ”は織華なのか違うのか。

(まったくの別モノ! 外面は確かに似てるんだけど、中身はバケモノよバケモノ!)

 神を自称するほどのイタイ子の妹が、なぜかとんでもなく慌てている。本当になんなんだ。

(あれは世界の書き換え――ってヤバっ、キーアが! 早く助ける!)

「!? キーア、 そこから離れろ!」

 えっ――っという声がキーアから出るか出ないかの間に、キーアを小脇に抱えてその場から飛び退く。たとえワケが分らなくても、ここは妹に従うのが正解と本能が訴えている。

「ダメよ……ダメ、私、でも、彼なの、あそこから出してくれたのって、それじゃ、もしかして……」

 なにやら放心状態でぶつぶつとつぶやきはじめている。それにあわせて、彼女の周囲が――どこかで見たことのある風景に変わっていく。

(ちょっと! 本当に“アレ”止めないと、この辺一帯どんな風に書き換えられるか分かったものじゃないわよ!)

 えっ、アレがどんな光景か分らないのか?

(何を言っているの兄さん?)

「あぁ!! 本当にどうなってるんだ――ってか、あのハゲいつのまにかいなくなってるし。キーア! 彼女の中はどうなってるか分かるか?」

「ご、ごめんなさい……なぜか、彼女とは繋がらないんです……」

 顔面蒼白のキーア。心なしか震えている気がする。

(当たり前でしょ! “アレ”には道がないんだから!)

「ちょっ、ソレはありえんだろ! それじゃ“アレ”は――」

(だから言ったじゃない! バケモノって!!)

「クソッ、本当に力ずくで止めるしかないのか」

(早く裏方仕込の大舞台デウス・エクス・マキナを発動して。多分私なら何とかなる)

「本当か!? つーか、展開が速すぎて俺は追いつけていないぞ」

(それは兄さんがノロマなだけ。この世は兄さんに合わせて動いているわけじゃないんだから)

「ソレは知ってるけど――」

「隆道さん……?」

 しまった、キーアから見ればぶつぶつ独り言つぶやいているものじゃないか。これじゃぁ、俺も変人に見られる。

(兄さん!)

「仕方が無い! 裏方仕込の大舞台デウス・エクス・マキナ!」



 黒い星が浮かぶ空。

 朝と夜同時に存在しているその世界。

 一面には草原の海。

 その世界の主は問い掛ける。

 己が求めるある日の姿。だが、叶わぬが故にここにいられる現実。それでも、少女が信奉する全てを手に入れるために。

「まったく……なんで“アレ”が今の時代ココにいるのよ……」

 私は試されているのだろうか――

 少女は虚空の先へ問い掛ける。

 だが、その答えは返ってこないことを知っている。

 ならば、と少女は少女の持つたった一つ答えを抱え、世界へ向けて歩き出す。



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