巡る時――Them?
「うーん……」
時間は放課後。直純達は用事があるとか言って帰ってしまったので、俺はこの後の時間をどうしようかと考える。つーか思ったけど、俺、直純以外友達いないよな。
「どうしました?」
「いや、この後ヒマだなと思って。なにかイベントでもないのかね?」
「うーん……五月も中旬ですし、大型連休が終わったこの時期、テストまで中だるみ必至ですね」
この学園はテストは期末しかない。ということはつまり、六月までこのまったりとした空気の中で学園生活を過ごさなければならないのか。友達作れよと言われそうだがそこは無視。
「でしたら、また風紀委員に喧嘩売りますか?」
「またって言うな。先に売られたのは俺の方だ。そうじゃなくて、なんかもっと面白いことをだな」
「そうは言いますけど……では、ここに来る前は何をしてたんですか?」
「んー、そういえば師匠と一緒にいろいろやってたなー」
「師匠?」
「あぁ、保護者みたいな人でな。あっちこっち連れまわされて、学園生活どころじゃなかったっけ」
そんなに時間がたったわけではないがあの人のことが凄い懐かしく感じる。
まぁ、師匠からすれば、俺のことなんてすでに忘れてしまっているんだろうなーと思えるぐらい、自由すぎる人だった。
「そうなんですか。では、学生っぽくデートでも」
「するならお前以外とな」
とは言っても、社交性ゼロの俺がどうやって彼女見つけるかとは謎であるが。
「家に帰ってイチャイチャと――」
「いいかげん引っ越したいんだけどな」
あの半壊した部屋は、とりあえず事故で片付けられたから修理費は市持ちで問題ないが、新居の割り当ては外から来るヤツとの兼ね合いがあるため連絡待ち状態だ。
「大丈夫ですよ。絶対引っ越しさせませんから」
にこりといい笑顔で微笑むその顔が怖いっす。コイツなら本気でやりそう――てか、絶対やる。
もう俺は、あのアリ地獄から逃げられない運命なのか……
「――まぁいいや。今は帰ろうか」
後は野となれ山となれ。うん、いい言葉だ。
「はい。帰りましょうか」
俺の横を忠犬のようにぴったりくっついてくるキーア。
本当は一人で帰りたかったが、見えないところでストーキングされても困るので、一緒に帰るしか選択肢がないのが辛い。
隙を見て腕を組もうとするキーアと、おっぱいの誘惑にまどわされながらも突き放す俺の攻防は、学園の生徒に多数目撃されて、明日からヘンな噂が立ちそうだ。
「ちょっと――放してください!」
「しかし、こっちにはお前を連れて来いと言われている。だから一緒にきてもらうだけだ」
キーアの手が尻にも伸び始めた頃、校門前でなにやら言い争いが起こっているのが見えた。
なにやらグラサンの男が、女の子を車の中に引っ張り込もうとしている。誘拐現場との距離があるため、向こうは俺達に気がついていない様子。
「おや、なにやらイベントが発生していますが」
「いや、こういった系のイベントはちょっと――」
完全に部外者な俺達の意見は非常だった。
「あっ、車に連れ込まれてます」
本当に助けないんですか? という目で見てくる。
「んー、そうだな可愛い子だったら助けてみようかな」
いまいちここからじゃ顔が見えないからなんともいえないが、でもあの子が本当に可愛くても難癖つけて助けない気満々の俺です。だってめんどくさい予感が凄いするんだもん。
「しかし、あのお嬢さんは能力使わないのか?」
どんな異能かはわからないが、使えば逃げるチャンスは広がりそうなものを。
「そうで……す……なぁん!?」
「ど、どうした?」
今までに無いほどスットンキョンな声を出すキーアに、ちょっとビビる。
「い、いえ、先ほど干渉を試みてみたんですが……」
なにやらかなり動揺している雰囲気。こんなキーアの姿、今まで見たことがない。あの女の子がどうしたんだ――
「って、なぁん!?」
「ど、どうしたんですか?」
思わずキーアと同じリアクションをしてしまうほどの衝撃。あいつ、なんで……いや、今はそんなことを考えている場合じゃない!
「キーア、悪い。予定変更!」
いきなり焦りだした俺を見て、キーアが何か聞きたがっている様子だが、今はそんな状況じゃない。
クソっ! 車が動き出す――仕方が無い!
「裏方仕込の大舞台、三秒でいい、力を貸しやがれ!!」
本当に不本意だが、こういう場合のみはあのバカに全幅の信頼を置いている。絶対に俺の望んだ結果を与えてくれると。
一秒で車までの距離を詰め、二秒で車のドアを破壊、女の子を引きずり出す。三秒でキーアのところまで戻り裏方仕込の大舞台の効果は失う。
何が起こったのかわかっていないといった顔で、女の子は目を白黒させている。しかし、ここ異能者の暮す街だろ。そんなに驚くことか?
「あのー隆道さん?」
女の子を抱きとめている(具体的にはお姫様抱っこ)俺に不満たらたらのキーア。でも今は無視。車からグラサン男がやってくるが無視。今はただ、腕の中にいる女の子だけが俺の意識を奪っている。
「あ、あの……」
やっぱりそうだ。顔を見れば見るほどに面影がある……
あぁ、言いたいこと、聞きたいこと、たくさんある。でも、やっぱり――
「久しぶりだな。また会えて嬉しいぞ織華!」
昔失った大切な親友を、喜び勇んで抱きしめた。
やっとこさメインヒロインが出せましたー。
そろそろ人も多くなってきましたし、人物紹介でもした方がいいですかね?