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その日の話し――Hide a person


「はぁ? 悪魔ぁ?」

 学園での昼休み。俺と直純と信子ちゃんの三人で食事をしているときのことだった。ちなみに、外面がいいキーアは、他の女子生徒と食事をしているためココにはいない。

 食事の話題として出してきた直純の言葉に訝しげな顔をすると、直純の隣に座っていた信子ちゃんが睨んできた。

 もう学園生活も三日目となるのに、いまだ信子とは言葉を交わしたことも無い上、睨まれ続けている。なぜだ。

「そう、悪魔。南からやって来たらしくてな、この辺りの自警団支部じゃその話題で持ちきりだぜ。生徒会長や風紀委員長も、本部からこっちに駆り出されてるくらいだ」

 風紀委員ちゃんといえば、あの喧嘩の次の日、生徒会長に引っ張られて謝りに来たっけ。

 一応ごめんなさいと言ってくれた――いや、あれは言わされていたか。そのため、態度は非常に不本意そうで、唇を尖らせ視線は明後日の方向を見ていた。戦っている最中も思ったけど、彼女、見た目と性格が間逆で凄く残念。

「しかし、お前。そんな情報どっから手に入れてくるんだ」

「俺の家、自警団支部の近くだから」

「ふーん。でも、そんなの『異獣病』のヤツが出てきとかそんなところだろ?」

 異獣病に感染した人間は、本当に人間以外の姿をしている。それこそヒトとしての原型を留めない、化物モンスターと呼べるような無残な形。

 そういえば昔、某悪魔召喚ゲームで出てくるご立派様の様な容姿をしたヤツを見たときは、驚く前に笑った記憶があるな。

「多分そうだと思うんだけどな。でも、一説では病院イズマキの秘密実験生物が脱走したとか、ホンモノが現れたとか、情報が錯綜してるんだぜ」

「馬鹿馬鹿しい。前者ならともかく、後者は絶対に無いだろ」

 よくもまぁ、このご時世に『ホンモノの悪魔』なんて恥ずかしい噂が流れるものだ。

「おっ、お前はそう思うのか」

 なぜかにやにやと笑いながら言う直純。理由がわからな以上、とりあえず思ったコトを言っておく。

だれかさん曰く、悪魔とは、「煩悩」「狂気」「邪心」といった、抽象的な形の無い『良くない』モノのことを言うらしいからな。俺はそれに同感だ。もし、形のある悪魔がいるとしたら――そりゃ俺達( 異能者)のことだろ」

「へぇ、なるほど。よかったな信子」

「ん」

 初めて聞いた信子ちゃんの声に驚いた。ついでに表情が若干柔らかくなったことに驚いた。

「どーゆーこと?」

「まぁ、信子こいつの家、タチの悪い宗教家でな。いろいろと苦労しているんだ」

「あいつら皆、死ねばいい」

 うわ、可愛い声でソレはヤバイ。何がヤバイって、もしM属性をもっていたら、もっと罵ってとお願いしたくなるぐらいヤバイ。

「それじゃぁ今、悪魔騒ぎで信子ちゃ……いえ、夏海さんの家、大変じゃないのか?」

 信子ちゃんの名前を口にしたら、一瞬にして柔らかかった表情が強張り「勝手に名前で呼ぶな」と目で怒られた。

「まぁ、今俺の家に避難してるぐらいだしな」

「居候」

 ちょっと誇らしげに言う信子ちゃん。

「え? なに? 人のこと散々同棲だなんだとからかってくれたのに、お前らもなの?」

 風紀委員ちゃんとの喧嘩の次の日、やっぱり問い詰められてしぶしぶ自白させられ、その後さんざんからかわれた記憶はまだ新しい。

「いやいや、コイツが勝手に来ただけだし。それに雪風と仲悪くて、こっちが迷惑してるぐらいだ」

「雪風?」

「俺が可愛がっている自慢の犬だ。いつか擬人化してご奉仕してくれる予定だぜ」

 なんだろう……俺も大概だと思ってたけど、今、直純がとても痛い子に見えてくる。

「犬か、俺は昔猫飼ってたな。全然懐いてくれなかったけど」

「犬はいいぜ。忠実だからな」

「まさにビッチ(ぼそっ)」

 聞こえた! 今、女の子が言うようなことじゃないセリフが聞こえた!

 ちょっと前までは信子ちゃんの声を聞きたいと思っていたのに、だんだんと黙っててくれた方が幸せな気がしてきた……

「でも、最近の悪魔騒ぎで、散歩が出来なくなってるのがこまるんだよな」

「なんでまた」

「悪魔は朝と夜に出るらしくてな。自警団に見つかると説教されてめんどくさいんだよ」

「そりゃ大変だな」

「まったくだ」

 それにいつまでも信子に居座られたくないし、と愚痴る直純だが、信子ちゃんは今の状況がまんざらでもなさそうな顔。

 その後、前のお返しとばかりに直純と信子ちゃんの仲をからかってやったら、なんか愛読書どこかで見たことあるリアクションをしやがって、なんとなく、直純がラブコメ漫画の主人公に見えてきてむかついた。

 俺はヤンデレやストーカーという特殊な属性に目をつけられているというのに、コイツは王道幼馴染か。うらやましすぎる。うらやましすぎるから、更にからかうとさらにおなじみのリアクションを見せられ、更にうらやましい――と(俺的に)負のスパイラルに陥る。

 そんな不毛なやり取りが午後の授業が始まる予鈴が鳴るまで続き、結局むなしい思いだけが心に募った。

 そんな荒んだ心の俺が席にもどったとき待っていたのは、クラスメイトに勧められたというBL本を読んでいたキーアの姿。

 足蹴にしてやったら喜びやがった。コイツ、まじでどうすればいいんだ。

 悪魔よりもこのストーカーをどうにかしてくれと思う今日この頃なのであった、まる。





 

 ――しかし、悪魔ねぇ……



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