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事件の始まり――Post meridiem 5:36


 昔、悪魔を見たことがある。

 言葉巧みにヒトを惑わし、狂わせ、最後には命を奪っていく男。

 血の海と死体の山を作り上げ、その恐怖を周囲に知らしめた存在。

 幼く弱かった自分は、その存在を目の前にしたとき羨望を喚起させた。

 だが、最後の最後で師匠に首を切り落とされたその男は、結局ただの殺人鬼だった。



「いっつー、なんだ……」

 ひどく痛む頭と、なんだかとても酷く懐かしい夢で目が覚めた。

 なんの夢を見たか思い出そうとしたら気分が悪くなったのでとりあえず忘れておくことにする。

「……さて、この状況はどういうこった」

 目の前が真っ暗。比喩でもなんでもなく、本当に目が見えと勘違いしてしまうほど光がなかった。しかも、なんか火薬と血が混じった懐かしい匂いもするし。地下鉄内で何かあったのか? 

 思い返してみれば、最後にある記憶は日澄と一緒にホームで待っていたときに聞いた、ホームに響き渡る爆音と衝撃、遅れてホーム内に蔓延した埃混じりの煙。そこで記憶は途切れていた。

「そういえば日澄は大丈夫か――」

「おや、おにーさん、よくお目覚めになりましたね」

 突然軽い口調で聞こえた声に、どこにいるかも分からない相手に身構える。

「おにーさん、逆、逆っすよ。俺っちはこっち」

「どこだよ。つーか、なんで位置がわかる?」

「俺っちの眼鏡、ピピーっと波が流れて黒い部分に画面が見える特別製。だから真っ暗でも関係なし」

 よくわから説明。まぁ、とにかく相手からは俺が見えているんだろう。

「そんじゃ、この状況どういう状況かあんた説明できるか?」

「できるせぇ。何せ、ここ爆破したの俺っちだからな」

「なっ」

「ははっ、俺っち誰かに顔見られるとまずいから手当たり次第に持ってた手榴弾投げ込んでさ。照明やらなんやらを破壊するついでに、ヒトまで破壊しちゃった」

 てへっ、と本気でふざけた口調で言う男のセリフに腹が立った。

「どーしてくれるんだよ、学園通うのに電車使ってたのに。間違いなく運休だろ、これからしばらく徒歩じゃねーか」

「おにーさんの懸念はそこっすか。その件に関してはすみませんと言うしかない! でも本気で反省しているわけではない!」

 なんだか完全にクスリをキメちゃったっぽいテンションの男。外にいたころにも何人か出会ったことがあるけど、何回話しをしててもなれないな。相手のテンポが独特すぎてついていけないのだ。

「そいえば、爆破のとどかなかったやつとかいただろ。その辺はどうしたんだ?」

「あぁ、その変も問題なしっす。ホームから逃げようとしたり戦おうとして動いたやからは全員俺っちの武器エモノをブッ刺しておいたから。あと出入り口も爆破したから。コレでだれも俺っちの姿は見ていない、完璧!」

 ケラケラと笑う狂人。やばいなー、俺、ここで殺されるか?

「おにーさんは運がよかった! 爆破の直撃も受けずただ気絶していただけなんて! もし暗闇じゃなかったら俺っちの武器エモノが火を噴いていたところだったぜぇ」

 本当に運がよかったのか怪しいところだが、まぁ、ここでこの男の標的にならないのならいいか。

「誰にも見られたくないのなら、なんで地下鉄ココに来たんだよ。俺としてはいい迷惑だぞ」

 ちょっと前までいい気分だったのに、いろいろ台無しだ。それに、本気で日澄が心配になってくる。あの女、意識があったら間違いなく目の前の男に喧嘩を売っているだろう。

 今はただ気を失っているだけだと願うしかない。

「んー、俺っちも別にココに顔を出したかったわけじゃないんだけどさ、いやー、まいったまいった、ほら最近話題の悪魔さんっているじゃないッスか。アレとねぐらがバッティングしましてね、思わず喧嘩になっちゃったんデスヨ! コレが!」

 その状況を思い出したのか、興奮した口調でなにやらガチャガチャを音を立てて騒ぎ出す。

「それにウワサになるだけあって、強い強い! 俺っちも本気を出そうか考えたもん」

 なにかゴトンとモノを置く音がする。そしてまたガチャガチャという音。

「ちょっと待ってくれ。悪魔って、どこで会ったんだ?」

「お兄さんから見て右側の線路の奥の方。ちなみに俺っち今追われてる」

「それってつまり――」

「うんむ。多分ココに来るでしょ。だから俺っち、ココを本格爆破して足止めするため今爆弾をセッティング中」

 それでさっきからなにやらガチャガチャ音がしていたのか。

「それはつまり俺を巻き込む気か」

「せっかく生きてたのにゴメンねおにーさん」

「ふざけんな――といいたいけど、あんたとかかわりたくないから、口にチャックして黙っておこう」

「ヒャハハア! おにーさん、面白い! ここまで話しが出来るヒトも珍しいし、また会いたいな! よし、コレをプレゼントしよう!」

 ガンと頭に衝撃が走る。そしてころころと転がる音。ソレを手に取ってみると――

「――懐中、電灯?」

「イエス! 俺っちの予備を上げちゃうぜ! あ、でも今はまだ電気つけないでね。顔見られたら殺さなくちゃいけないから」

 その言葉に素直にうなずいておく。俺もわざわざこんな狂人に喧嘩をうる意味を持たない。

「――よし、セッティングオッケイ! それではおにーさん、俺っちはココで退散したいと思います! 最後におにーさんの名前教えてくれるとうれしーな」

「そういう場合は、自分から名乗るのが常識だと聞くけど」

 どうせ、向こうも名前を教える気は無いだろうと思い言ったセリフだが、

「おっと、いっけね。俺っちとしたことが。そうだな、名前を聞くときは自分から名乗る。ジョーシキ。うん、俺っちの名前はイズマキジンって言うんだよ」

 コイツ顔を見られたくないくせに、素直に名乗りやがったぞ。

 でも、本名か偽名か――本名っぽいな。

「俺は田中太郎だ」

 当然、俺は偽名を名乗っておくが。

「じゃぁ太郎くん。俺っちは悪魔さんとは逆の方へ逃げます! キミも来たら当然殺し合いだから覚悟しておいてね!」

 そう言うやいなや、スタタタタと軽快に走り去る音がした。どうやら本当に立ち去ったようである。

 さて、俺はこれからあの狂人か悪魔のいるルート、どちらかを通らねば帰還出来ないのか。

 妹の能力はこういったところではまったく役に立たないからな。なんでも出来るなんて謳い文句、詐欺同然じゃないか。

 ふざけんな。といろいろな方面に罵りながら、とりあえず今は懐中電灯の明かりをつけて日澄の安否を確かめるのであった。



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