新しい居場所――companion
学園に通い、始めての休日。俺達は新たな住居に引っ越しをしていた。
「しかし、こうも知り合いが集まるとは。世間は狭いね」
直純の言葉に、俺も同感せざるおえない。
ここは『神那荘』。穂邑直純が管理人の、築ウン十年は経っているであろう、トイレ共同風呂無しの、正真正銘のボロ平屋のボロ長屋。
今日から俺達はここで暮らすことになる。
どうしてこうなった、どうしたこうなった(AA略
と言いたくなる現状。
これには様々な妥協点の結果であることは分かっている。
まず、キーアが俺と暮らしたいとゴネた(これは予想できた)。
次に、日澄が俺と暮らしたくないとゴネた(俺のことをセクハラ魔と勘違しやがった。まぁそれ以前に、どうやら棟長とは仲が悪く、あの人が用意した場所だと安心できないとのこと)。
で、さらに妹が日澄はさっさと殺せとゴネた(当然無視)。
そして、棟長との契約で俺は日澄のそばにいなくてはならない。
すったもんだの討論があった後、最終的には皆一緒の場所で暮らせればいいということになり、キーアが意味不明な行動力を発揮して見つけてきたのがこの長屋だったということだ。
そしたらなぜか、そこの管理人は直純だし(本人は代理だと言っている)、そばに居座っている信子ちゃんはともかく、生徒会長はいるわ、日澄の友人はいるわで、何か作為的な者を感じてしまう。
「キーア、手伝う」
「ありがとうございます、信子さん」
「私も手伝うわよ日澄」
「黒姫、サンキュー」
きゃっきゃうふふと女の子同士で盛り上がりながら荷物を運びこむ様子を横目に、俺は一人疎外感を感じながら雪風と戯れていた。
この一週間の間に三回の引っ越し、しかも私物はほぼ紛失。衣類や洗面具ですらキーアの私物と化し(事情は察しろ)、手ぶらにも等しい状態でここにいる。
しかしこの雪風、白い犬っていうよりも、どちらかと言えば白い狼に見えるのは俺だけか……?
「うん、女の子が増えるのはいいことだ。会長もそう思いますよね」
直純のヤツ、女の子達をほほえましく眺めているが、お前にはかわいい幼馴染がいるだろう。
「僕は丹野がいるから。ほかの女の子に目移りはできないな」
生徒会長の秋村時矢さんは婚約者の名前を出してのろけてくれた。ちなみに丹野というのは、俺に喧嘩を売ってくれた風紀委員ちゃんの名前。
つーか、なんだよ。幼馴染とか婚約者とか。俺の周りにそんな王道属性の女の子いねーぞ。うらやましい!
しかも、キーアと日澄が共同して、俺がセクハラ魔だとかあること無いこと長屋の住人に風潮しやがった(あながち否定できない部分があった)ため、長屋の女性陣の好感度は底辺(一人だけMAXだけどそいつは論外)。
キーアが計画通りとほくそ笑んだ時は殺意すら沸いた。
「俺も世話になるんだけどな。それに、これ以上引っ越すような事件が無いことを祈っててほしところなんだが」
「ははっ、たしかに。でも、ここの前管理人から頼まれたことなんだが、ココで暮らすヤツらは皆家族みたいに扱えって言われてててな。俺も、ココには思い入れがある。もし、なんかあったら手助けぐらいしてやるよ」
「うん、僕も自警団の一員としてだけじゃなく、ここで暮す仲間として手を貸すよ」
「二人とも……」
なんだろう、この、心にじーんとくるものは。
今まで師匠と暮していたため、人情というものとは無縁だった故に、すっかり忘れていた感情だ。
うん、ここにこれたことは幸運だったのかもしれない。
「ナオ」
いつのまにか女性陣の引っ越し作業は終わっており、信子ちゃんが声をかけてきた。他の女性陣もそろっている。
「おう、じゃぁ新しい住人達の歓迎会でも始めますか」
その言葉に、黒姫(本名は教えてくれなかった)が待ってましたとばかりに酒瓶を取り出す。
直純と日澄がひゃっほーとハイタッチ。
「ちょっと、黒姫さん。さすがにお酒は――」
さすが生徒会長にして自警団員。模範的な意見ではあるが――
「まぁまぁ、こんな日ぐらい硬いこと言いっこなしッスよ」
管理人である直純の意見に一同が賛同し、マジメな生徒会長はしぶしぶ従うのであった。
「よっしゃぁ! おーい、信子。雪風のメシも用意してくれ」
雪風という単語に一瞬凄いイヤな顔をしたが、さすがにめでたい場で文句を言えるわけもなく、仕方が無く準備にとりかかる。
かくして神那荘の裏庭にて、たくさんの食事と酒を囲んで始まる大宴会。無礼講で皆一日中騒ぎに騒ぐ。
そして最後に、全員が口を揃えてこう言ってくれた。
「「「「ようこそ、神那荘へ!」」」」
どうでしょうか、ここまでが物語の序章的な部分です。
ここから先は毎日更新できるかどうかあやしいところですが、どうか見捨てずお付き合い下さったら幸いです。