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禁獣――Alien


 あの後、激しい一進一退の攻防があった――とは妹から聞いた話だ。

 なにせ、あちら側に干渉できるのはあいつだけなので、俺はただ伊頭巻日澄お嬢さんの体を押さえつけるしか役割はない。当然傍から見れば、良くて抱擁ハグ、下手すればセクハラっぽく見られたに違いない。この辺に関してのキーアさんからのコメントは、

「緊急時だったので仕方がないです」

 と、笑顔で言いながらも、目が笑っていなかったのがとても印象的だった。

 なんとか日澄嬢を押さえつけた後になって、グラサンハゲが連れてきた回収班によって俺達はまとめてイズマキに搬送されることになった。



(あー、もうイヤ。あんなこと二度とやりたくない。もうあんな光景に見たくない。気持ち悪い、もー吐きたい)

 回収班の車の中から、珍しく妹がうんざいりとした口調で愚痴りまくり。うるさいことこの上ない。

 俺までうんざりとした気分でやってきたイズマキ統合特設病棟。別名キ○ガイの巣窟。こっちも別の意味でうんざりだ。

 なぜか入り口で俺と、キーア&日澄の二組に分けられた。

 そして俺が連れてこられたのは棟長室。

「いや、久しぶりだね。君にはまた会いたいと思っていたよ」

 なれなれしく出迎えてくる白衣の優男。

「あんた、ここの棟長だったのか」

 あの日、立ち入り禁止区域で出会った人物。

 あんな場所にいたぐらいだから、それなりの立場だろうとは思っていたが、見た目二十代のこの青年が棟長とは。

「いやいや、ただここの職員が全員棟長という立場を拒否したから、お鉢が回ってきただけだよ」

 うそくさい、と思いながらも俺には関係ないことなので聞き流しておく。

「君とはまた話したいと思って招待していたのに、なかなか来てくれないものだから心配したよ」

 なんで俺こんな胡散臭いやつに気に入られているんだろう。「さて、君も聞きたいことや言いたいことがたくさんあるだろうが、まずボクの質問に答えてくれ。そうすれば、後は全部君の質問に答えよう」

「なに、そのウソくさい条件。ありがたくて涙が出そうだよ」

「いやいや、それだけボクは君を評価しているのさ。さて、まずはこれだけは聞きたいんだが、君の異能は――星の意思、つまり魔法かね?」

 思わず笑いそうになった。人である存在がその言葉を口にするのか、と。だが、

アレ星の意思それになりたいと言ってたっけ。今はその末端に触れているだけの偽物イミテーションだと」

 目の前の人以上に、ソレを渇望する『神』がいる。

「なるほど……」

 隠すようなことでもないので、素直に答えてやったら、何やらぶつぶつと呟いて考え始めた。

「いや、すまない。うん、聞きたいことはそれだけで十分だ。君の質問には何でも答えよう」

(あれはたぶん、私の能力の利用価値を探っているんでしょうね)

 まぁ、使い方次第では、何でもできるからな。でも、その辺を考えるのは俺の領分じゃない。とりあえず今は聞きたいことを聞いておこう。

「んじゃ、あんたもわかっていると思うけど“アレ”はなんだ――ってことを聞きたいんだけど」

 その質問に、棟長はふっと鼻で笑った。

 何でも質問しろと言っておいて、その態度かよ。なんかむかつく。

「いや、すまない。ボクが答えるまでもなく、君は“アレ”がなんなのか知っているのに、わざわざその質問をしてくるのがおかしかったんだ」

 試すような視線。

 あぁ、そうだ。俺は“アレ”の名をどこかで聞いたことがある。

(えぇ、そうね、知っている。私は“アレ”が何なのかしっている。この星の外から流れ着いた存在、この世と交わることのない道を持つ者、ソレすなわち――)

「星の外より来たイシ――禁獣」

 俺の答えに、満足したように棟長は拍手をする。

 なるほど、妹が散々愚痴った理由はソレか。

 日澄の中に潜った際に見た光景は、よほどこの星の美的感覚から外れたモノだったのだろう。

「なんでそんなものがココにいるんだよ」

「うん、その話しをするにあたって君に頼みたいことがあるんだ」

 なぜかひどく真剣な顔をする棟長。

「どんな頼み? モノによっては考えるけど」

「それでいい。君は最終的に承諾してくれるだろうからね」

 にやりと口の端を釣り合上げた。すごくイヤな笑み。

「なに、それほど警戒することじゃない。ただ“アレ”を君に貰ってほしいんだ」

「“アレ”って――伊頭巻日澄のことか?」

「そう、なぜなら彼女はお上より廃棄処分を命じられているからね」

 順を追って話そう、と棟長は咳を一つ。

「まず、君も気になっているところだが、なぜ禁獣がココにいるか――厳密には“アレ”は禁獣では無く、人造禁獣なのだ」

 その言葉に、妹がとてもが驚いている。俺も驚く。

「驚くのも無理は無い。だが事実、彼女は飛来した欠片よりイシを取り出し、禁獣としてのイシを移植させた存在なのだよ」

(嘘でしょ、欠片からサルベージなんて、よほど深度の深い異能者が――ってあぁ、だからココなのね)

「だけど、そこまでやってなんで処分なんだ? お上にバレたら不味い計画だったのか?」

「いいや。この計画はお上主導だよ。だが、彼女は試作品でね。今日見た通り、感情が不安定、いつ暴走するかわかったものじゃない。だから、お上は彼女を処分して、新しいのを作ろうとしているんだよ」

「それで、なんで俺が彼女を貰うことになるんだ?」

「それはね、ボクはまだ彼女を処分するときではないと思っているからだよ」

「なぜ?」

「その前に、彼女がなぜ人の形かわかるかい?」

 素直に首を横にふった。

「人は御しやすく、そして始末しやすいからだ。そして、この計画にはどうしても禁獣じゃ人でなくてはならない」

「なんだ、その計画って」

「ふふっ、それはね――楽園の創造テラフォーミングだ」

 一瞬背筋が寒くなるほどの恐ろしい気配を感じた。

(たぶん、目の前にいる男の狂気ね。しかし、禁獣の能力を使ってだなんて――あぁ、気持ち悪い)

「――今の段階では、お上を含めて夢物語だと考えているだろうけど、ボクはそうは思わない。なぜなら“アレ”のイシはこの星にとどいている! 君も見ただろ、“アレ”が世界を変質させる光景を! だったらなぜ彼女を処分しなくてはならないのか! 愚かなクソども! せっかくの希望を潰す気か!」

(バカじゃないの。確かに人の意思である程度制御できても、最終的にはあっちに決定権があるんだから、無理に決まってる。下手すれば、この星そのものがあんなグロい光景に――いやぁ!)

 いきなり人が変わったように叫び始めた棟長。

 その言葉に拒絶を示す妹。

 はっきり言って付いていけてない俺。

「――おっと、すまないつい興奮してしまった。とにかく、手前上処分したことにすると、次は面倒を見る人がいなくなってね。今まではボクが彼女の保護者役をやっていたものだから、そのまま手元においておくと厄介なことになるんだよだ。それに、ちょうど異能が干渉しあう君に引き取ってもらったら、また何かあった時すぐにでも対処できるだろ?」

 と、胡散臭い微笑を見せた。

(ふふっ、これはチャンス。今回の一件で解ったけど、私と“アレ”の力は五分。だったらあいつの“アレ”を踏み台に更なる躍進を――兄さん、ココは引き取るべきです)

 己の野心だけで語る妹は黙殺。

(兄さんだって、織華似の女の子が側にいて嬉しいでしょ。側にいればフラグもモリモリ――)

 そうだ、そのことも聞かなくては。

「最後に一つだけ。彼女、俺の昔の友人に似ているんだが、本当に違うのか?」

「ん、そうなのかい? ボクはただ『組織』から下請けした細胞を元にクローンを作成しただけだからな」

「クローン……」

「あぁ、『組織』が禁獣の核を入れるのに適した素材だと言ってな。成長促進の異能者の下で培養された存在だ。彼女はアレでも一年ほどしか生きていないのだよ」

 直感的に何かごまかしていると感じた。だが、具体的にソレを指摘できない以上、そうですか、と言葉を打ち切らざる終えない。

「解った。彼女を引き取ってもかまわない――と言いたいところだけど、俺今居候している身分なんだが」

「あぁ、そうなのかい。でも問題ない。二人の新居ぐらいこちらで用意しよう」

 やった、これであのストーカー女の家からおさらばできる。

「じゃぁ、それで」

 まさに即決だった。

「あぁ、任せたまえ」

 こうして、交わされる契約の握手。いくつかの隠し事を互いにしているとわかっていながらも、平穏無事に事を終えるための儀式。

 だが最後に、棟長室から出ようとした時、

「彼女との子供が出来た時は是非呼んでくれたまえ」

 などと抜かされた時は殴ってやろうかと思った。

 


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