第三話 危険な潜入
みなさまへのお詫び
第三話の内容が抜け落ちて先に第四話、第五話と掲載してしまいました。推理小説ではあるまじき失態と反省し慌てて掲載しました。
これに飽きず愛読いただけることを祈るばかりです。
三ツ沢中町 より
探偵 柳太一
「もーっ、いつもあれこれと、注文多いのよね。ええっ? ……それはどこで? ……仕方ないわね、何とかするわ! 何? 三時半ってもうすぐじゃない。……ゼットリンク(通信アプリ)に送られたこの番号に電話して、指示どおり情報を拝借するのね。あたしまるで、明鏡先生の探偵小説に出てくる探偵助手みたいじゃない……もう」
「えっ?」
「ああ、こっちの話よ。とにかくこのご婦人に連絡取って、なんとか間に合わせればいいのね……じゃあ後でね」
そして、私はある人物に逢うため、談話エリアに向かったのだ。
「あっ朱鷺谷さん! 調子はどうですか?」
「ええ、まあ、こんな感じかな。そう、あなたが通りかかるのをお待ちしておりましたよ」
「私を……ですか?」
「ええ。あなたは必ず夜勤の場合は、この時間帯にここを詰め所に向かい歩いて行きますから。あわせて今日はあなたが夜勤であることも、他の看護師から聞いていましたから」
「よーく観察されて見えますね?」
「まあ、これ一種の職業病みたいなものですかね?」
「で、私に何か御用ですか?」
「ええ、東条さんにちょっとお話しが……」
「……どんなことでしょうか?」
「それでは単刀直入にお話しいたします。明日丑三つ時に、三階特別室三三〇号室の患者が襲われる殺人予告を耳にしました」
看護師東条は私をじっと凝視した後、神妙な顔付きのままにこう聞き返した。
「警察に通報しないのですか?」
それはありふれた質問であった。
「そうですね、警察に通報するのは仕上げの段階になります」
「警察に任せた方が、犯人は捕まりやすいのではないですか?」
「そうですね。事件が起これば確かにそう言えるのでしょうね。しかし病院と言う閉鎖的空間で、警官が警護体制を敷けば、犯行は先送りになるだけで、予告者Xを捉えることはできません」
「殺人の抑止ができれば、それで良いのでは?」
「今回はそうはいかないんだ」
「どうしてですか?」
「この殺人にかかる首謀者は、あくまで第六感ってやつなんですが、私を襲ったあの事件の実行犯と繋がっているような気がしていましてね」
「この怪我って、事故じゃなかったんですか?」
「まあ、そう言うこと」
「では、犯人の犯行未遂による身柄の確保が、狙いだと?」
「その通り。まあ、犯行声明でも出ていれば、警察も躍起になるでしょうが、警護体制はどうなるやらでしょう。仮に敷かれたとしても、警護が解かれた瞬間、沈黙を破るように事件は起こることでしょう」
「最初から警察に委ねても、予告者Xを取り押さえることはできないと。だから、朱鷺谷さんが生け取ったあと警察に介入してもらおうと、こう言うことなんですね」
「お察しの通りです。犯人を捕獲したら知らせますので、その時は警察への通報と院内の警戒体制をお願いしたいのです」
「わかりました。でも、その体で朱鷺谷さんが犯人を生け取ると言うのですか? なんか小説でも読んでいるような気分になりますね。わたしの知る限り、そんな危ない橋を渡るのは、私立探偵の柳太一くらいだわ」
「柳、太一ですか?」
ええ?
この子、柳太一を知ってるの?
「ええそうよ。止水明鏡先生の探偵シリーズに出てくる、これがすご腕の探偵なんですよ。朱鷺谷さんは読まれたことないですか?」
どう答えたら良いものか?
それは私の作品ですから。
「あっ、いや……知ってる、かも? 最新刊で、悪魔から花嫁を救い出した……探偵のことですよね」
「よくご存知で! 朱鷺谷さんも、先生のファンなんですか?」
「えっ……どうですかね。まあ、それはさておき、犯行を未然に防ぎ、かつ予告者Xを確実に捕獲することが今回のミッションですから。そのための協力をお願いしたいのです」
「なんだかもう引けないところまで来てますね、わかりました協力をいたします。それで何をしたら?」
「そうですね、私が特別室で犯人捕獲のため病室を離れる間、同僚に対してアリバイを上手く執りなして欲しい。それと、今夜七時頃に打ち合わせをしたいので、どこか部屋をこのフロアで用意してもらえないだろうか?」
「……分かりました。やってみます」
「ありがとう」
「では、私はこれで失礼します」
と東条は詰所へと去って行った。
危険な潜入
四人部屋の二〇三号室の出入口が視界に入る談話エリアの一角に神楽は陣取り、明鏡から借りたパソコンに小型監視カメラを接続し、病室の動きをモニタリングし始めた。
注意すべきは婦人から聞いた黒のアディダスシューズの男であり、男のベッドがある通路側の界壁カーテンに焦点を合わせた。
「こちら神楽です。小江戸さん(婦人)インカム聞こえますか?」
「ええ、よく聞こえるわよ。今は二階のエレベーター前のゴミの片付けをしてるわ」
「了解です。動きがあったら連絡します」
「はーい」
どうだろう。二時間くらいは待っていたのか、神楽と婦人も集中力が切れかかった、そんな瞬間にことは動いた。
カーテンが開き病人らしからぬ眼光の鋭い猫背で痩せた小柄な男が、見張っていた病室から姿を現した。足元は、聞いていたとおり黒色のアディダスシューズであることが肉眼で確認ができた。
神楽は、婦人にインカムで呼び出しを掛けたが応答がない。この時間にして最後のチャンスになるだろう場面に神楽は、自らこの禁断の領域に身を投じたのだ。
パサッと立ち上がりインカムで婦人へのコールを掛け続けながら歩き出し、その男を視界にとらえながら病室に向けた歩を徐々に速め、病室の入り口付近あたりで立ち止まるかのように周囲の視線が散漫な状態を確認しながら、男が部屋三つ奥のトイレまでおよそ十七秒で到達したことを軸に、用足しに三十秒前後と見て、およそ四七秒でのミッションに神楽は挑むことになった。時計の秒針がちょうど一五秒を指していたのをチラッとみやり、病室に潜入を開始した。
その時の婦人は丁度男が入ろうとした向かいにある障害者用トイレでの掃除を終え扉を開けたところであり、婦人もアディダスシューズの男がトイレに入るのを確認した。
しかし、あろうことかインカムの不具合か充電切れか、神楽に声を掛けてても返事がない。婦人は慌てて談話室に駆け寄り、起こっている状況を理解した。
「神楽ちゃん」と呟き病室を振り返ったその視界の際に、トイレから出てくる男の姿が映った。
神楽はベッド周辺を見渡し、確認すべき箇所を駿座に見定めた。
「まず荷物棚ね」
上下にある手提げ鞄と、ボストンバックの中に腕を突っ込み、手探りで中身を確認するも、殺人道具と呼べる代物はない。
「次はパイプ椅子の上のバックパック」
ファスナーを開け覗き見た。
「電動髭剃り? いやスタンガンだ」
腕時計をチラッと見て秒針が四十一秒を指していることを確認し、ここまでかと思ったが、掛け布団が少し盛り上がっていると感じ巡り上げると、そこにアルミの小型ケースが隠されていた。後がない神楽は、幸い鍵がかかっていなかったため、ケースを開けようとした。その瞬間、秒針が五十五秒を指していたのが見えた。
ケースを開けて中を確認してこれを閉じ、掛け布団の下に戻すこと、更にこの場を立ち去るまでを残り五秒でやり抜く想定はできなかったが、迷う時間はもうそこにはないとケースを開け写メを撮り、慌てて元の状態に戻した。その瞬間カーテンに男の手掛かった。




