第三話「初任務、祈りは血に濡れる」
警鐘は三度、短く鳴った。
――灰骸、複数発生。
――地点、旧ラグナ孤児院。
「最悪だな」
カイルは外套の襟を立て、馬車に乗り込む。
「よりにもよって、子どもが集まる場所かよ」
レイは黙って頷いた。
胸の奥が、嫌な音を立てて軋む。
同乗者は三人。
金属義肢の大男――グロウ。
無言だが、視線は常に周囲を計測している。
影を従える修道女――セリス。
祈り続ける唇は、決して止まらない。
そして――
「よろしくね、新人くん」
ユンが、いつも通り軽い調子で笑った。
「死なない自信は?」
「……ありません」
「正直でいいね。
大体みんな、最初はそこで死ぬ」
馬車が止まる。
孤児院は、すでに静かすぎた。
扉は内側から壊され、床には血の跡。
壁に描かれた魔法陣は、まだ新しい。
「生まれたばかりだ」
セリスが囁く。
「……まだ、人の名前を覚えている段階」
その瞬間。
「――アニィ……?」
幼い声が、廊下の奥から響いた。
影の中から、三体の灰骸が現れる。
歪んだ子どもの姿。
口元だけが、懐かしそうに笑っている。
「お姉ちゃん、どこ……?」
レイの心臓が跳ねた。
「待て、レイ!」
カイルの制止より早く、レイは踏み出していた。
「――《灰祈解放》!」
右腕が光り、一体目が粉砕される。
だが。
「……っ!」
二体目が、死角から跳びかかる。
反射的に腕を上げた瞬間、骨が軋んだ。
「新人!」
グロウの義肢が唸り、灰骸を殴り飛ばす。
その隙に、セリスの影が床を這い、
残る一体を縛り上げた。
「今です、レイ!」
レイは、躊躇った。
縛られた灰骸が、泣いていた。
「……ごめんなさい……
もう、独りはいや……」
聖痕が、激しく脈打つ。
――壊せ。
――救えない。
歯を食いしばり、拳を振り下ろす。
光。
破壊。
祈りの残骸。
全てが終わった後、
レイはその場に崩れ落ちた。
「……俺、今……」
「殺した?」
ユンが、あっさり言った。
「違うよ。
終わらせたんだ」
しかし次の瞬間。
奥の礼拝堂から、異質な気配が立ち上った。
灰骸とは違う。
もっと、意志のある――
「遅かったね、祈祓師」
黒い仮面の人物が拍手する。
「でも素晴らしい。
特に君だ、右腕の子」
レイの聖痕が、初めて恐怖を示した。
「覚えておくといい」
仮面の男は、影に溶ける。
「君たちは、
神に選ばれた駒なんだから」
気配が消え、静寂が戻る。
その場にいた誰も、追わなかった。
カイルがレイの肩に手を置く。
「これで分かっただろ」
「……はい」
「祈祓師の仕事は、勝つことじゃない」
少し間を置いて、言う。
「壊れながら、生き延びることだ」
レイは立ち上がった。
右腕は、前よりも重い。
それでも、歩き出した。
――もう、戻れないと分かっていたから。




