第21話「千年伯爵、動く」
夜明け前の空は、ひどく濁っていた。
まるで太陽が昇ることを、世界そのものが拒んでいるかのように。
黒の教団本部。
警鐘が、初めて“意味を持って”鳴り響いた。
「敵襲――ッ!!」
空間が、裂けた。
音も予兆もない。
ただ“そこに在った”かのように、千年伯爵は現れた。
「やぁ、諸君」
白いスーツ。
歪んだ笑顔。
しかし、その目は――一切笑っていない。
「今日はね、挨拶じゃない」
伯爵が指を鳴らす。
次の瞬間、本部の外壁が内側から吹き飛んだ。
「――――ッ!」
エクソシストたちが迎撃態勢に入るが、
伯爵の周囲に展開された“ノアの方舟”が、攻撃そのものを喰らう。
「無駄だよ。
君たちの“正義”は、もう解析済みだ」
その時。
「……伯爵」
低い声が、空間を切り裂いた。
アレンが、前に出る。
白黒の気配を纏いながら。
「……久しぶりだねぇ」
伯爵は、心底楽しそうに笑った。
「随分、混ざったじゃないか。
人も、悪魔も、喰種も」
その一言に、周囲がざわつく。
「やっぱり君は、物語の中心だ」
伯爵は両手を広げる。
「だから――宣言しよう」
世界が、静止したように感じられた。
「ノア一族、全面侵攻を開始する」
空が割れる。
各地に、同時多発的にゲートが開いていく。
ロンドン。
ローマ。
東京。
そして――教団内部。
「内通者……!」
「残念。
“絶望”は、いつも内側から育つんだ」
伯爵の視線が、再びアレンに戻る。
「君に選択肢をあげよう」
一歩、近づく。
「君がこちらに来れば、
人間は“家畜”ではなく、“隣人”として残してあげる」
場の空気が、凍る。
「……断る」
アレンは、即答した。
「俺は、誰の側にも立たない」
剣が、再び現れる。
無彩色の刃。
「俺は――間に立つ」
伯爵の笑みが、初めて歪んだ。
「……それが一番、嫌いなんだよ」
次の瞬間。
伯爵の“顔”が割れ、
その奥から――神に近い何かが覗いた。
「なら、壊そう。
君が守ろうとする“境界”そのものを」
衝撃波。
アレンは吹き飛ばされ、壁に叩きつけられる。
意識が遠のく中、
彼は確かに見た。
――リナリーの脚が、砕ける瞬間を。
「……っ!!」
叫びは、音にならなかった。
伯爵の声だけが、優しく響く。
「これが戦争だよ、アレン」
「そして――」
闇が、全てを覆う。
「君は、まだ序章にいる」




