第20話「覚醒する白黒(モノクロ)の剣」
光が、闇を喰らった。
闇が、光を抱き潰した。
地下聖堂はもはや原形を留めていない。
壁は崩れ、天井は裂け、空間そのものが歪んでいる。
その中心に――
アレンは立っていた。
右半身は、純白のイノセンスに包まれ、
左半身は、悪魔の呪いが黒い紋様となって脈打つ。
彼の手には一本の剣。
白でも黒でもない。
世界から色を奪ったような、無彩色の剣。
「……これが……俺の……」
声は震えていたが、瞳は澄んでいた。
リナリーは崩れた柱の影から、その姿を見つめる。
「アレン……それ、本当に……」
言葉を失う彼女の前で、仮面の男が拍手を打った。
「美しい。
祈りと絶望が完全に均衡した」
彼は仮面を外す。
そこにあったのは、アレンとよく似た顔だった。
「……っ!」
「驚くよね。
私は“もしも君が救われなかった未来”だ」
男――ノア=ルシフェルは、静かに名乗った。
「私は選ばなかった。
だから、世界を呪った」
ノアの背後で、砕けたイノセンスの欠片が集まり、
巨大な黒翼を形成する。
「さあ、示してくれ。
君は“祈り”で世界を斬るのか、
それとも――」
ノアが空間を歪める。
「――“絶望”で全てを終わらせるのか」
アレンは剣を構えた。
その瞬間、悪魔の声が――静まった。
「……違う」
アレンは一歩踏み出す。
「俺は、祈りも絶望も……否定しない」
剣が震え、白と黒が完全に融合する。
「泣いてる魂を、斬るためじゃない」
彼はノアを見据える。
「進ませるために、斬る」
次の瞬間。
無音の一閃。
剣が振るわれたことすら、世界は気づかなかった。
だが――
ノアの黒翼は、ゆっくりと崩れ落ちる。
「……そうか」
ノアは膝をつき、微笑んだ。
「それが……君の答えか……」
聖堂の歪みが収束し、空間が静寂を取り戻す。
アレンの剣は、再び光を失い、腕から消えた。
彼は崩れ落ちるように膝をつく。
「……怖かった……」
リナリーが駆け寄り、彼を抱きしめる。
「……生きてて、よかった……」
その背後で、千年伯爵の声が響いた。
「やれやれ……
これは……想定外だよ」
闇の奥で、伯爵のシルエットが歪む。
「だが、物語は終わらない。
むしろ――」
低く、愉快そうに笑う。
「ここからが、本番だ」




