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灰祈(はいき)の聖痕(スティグマ)  作者: 波浪


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第二話「黒衣の館と歪んだ仲間」

祈祓師の本部――

 それは館だった。城ではなく、神殿でもない。


 黒衣の館と呼ばれるその建物は、

 山奥にひっそりと佇み、外壁は無数の継ぎ目と修復痕で覆われていた。

 まるで、何度も壊され、何度も縫い直された死体のように。


「ようこそ。ここが“生き残った連中”の巣だ」


 外套の男――カイル=ヴェルドは、

 気だるげに扉を押し開けた。


 中は薄暗く、長い廊下の両脇には鉄格子の扉。

 奥から、呻き声や笑い声、祈りとも呪詛ともつかない独り言が響く。


「……ここ、収容所ですか」


「半分正解。

 力を持ったが、まともじゃいられなかった奴らの集積場だ」


 レイは無意識に右腕を押さえた。


 通り過ぎざま、一つの鉄格子の中で、

 白髪の少女が逆さまに天井からぶら下がっていた。


「おや? 新人?」


 にこりと笑うが、瞳は焦点が合っていない。


「私はミラ。

 死ぬ順番、決めに来たの?」


「……違います」


「つまんないなぁ。じゃあ、君が先に死ぬ?」


 カイルが無言で銃を構えた瞬間、

 少女はケラケラと笑って元の位置に戻った。


「冗談冗談。

 新人が壊れるのは、もう少し後でいいよ」


 レイは何も言えなかった。


 ――ここにいる者たちは、

 敵より先に“自分”に壊されている。


 やがて広間に出る。

 円卓を囲むように、数人の祈祓師が集まっていた。


 一人は大柄な男。

 両腕が金属義肢で、無言のまま壁にもたれている。


 一人は目を閉じた修道女。

 床に滲む影が、彼女の動きに合わせて蠢いていた。


 そして――


「おー、噂の半端者くん?」


 明るい声。

 黒髪の少年が、椅子に座ったまま片手を振る。


「ユンだよ。

 君の右腕、すごいね。さっきから“泣いてる”」


 レイの背筋が凍る。


「……聞こえるんですか?」


「うん。

 “もっと壊したい”ってさ」


 その瞬間、レイの聖痕が疼いた。

 包帯の下で、確かに“何か”が蠢く。


「やめろ、ユン」


 カイルが低く言う。


「新人を壊すのは、敵の仕事だ」


 円卓の奥、

 玉座のような椅子に座る人物が静かに立ち上がった。


 白髪、金の瞳。

 性別の判別がつかない、異様な存在感。


「レイ=アルカ」


 その声は、直接脳に響くようだった。


「君の力は、世界を救う。

 同時に、必ず君を殺す」


 レイは目を逸らさなかった。


「……それでも、使えと?」


「いいや」


 その者は、ほんの僅かに微笑む。


「使わされる。

 それが祈祓師だ」


 遠くで、警鐘が鳴った。


 ――灰骸出現。

 しかも、複数。


 玉座の人物が告げる。


「初任務だ、レイ。

 生きて戻れれば、“仲間”と呼んであげよう」


 レイは右腕を握りしめ、立ち上がった。


「……帰ってきます」


 自分に言い聞かせるように。


 誰も、それに返事をしなかった。

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