第十八話「名を呼ばず、刃だけが応えた」
雨は、音を立てなかった。
狩人の夜営地に降るそれは、
世界から切り離されたように、静かだった。
異変は、
匂いで来た。
「……血じゃない」
狩人の一人が低く言う。
「祈りだ」
空気が、重くなる。
◆
「来る」
まとめ役の女が、短く告げる。
「複数」
「正統使徒じゃない」
「――混ざり物だ」
祈りを喰い、
拒絶を真似、
どこにも属さない存在。
狩人にとって、
最も厄介な獲物。
◆
レイは、剣を抜いた。
右腕は、
まだ使えない。
それでいい。
背後で、
誰かが並ぶ気配。
呼ばない。
名を、
口にしない。
それでも――
わかる。
◆
闇が、割れた。
一体、二体、三体。
人の形をしているが、
顔がない。
祈りの文様と、
拒絶の亀裂が、
同時に刻まれている。
「……醜いな」
レイが呟く。
返事はない。
だが、
一歩、同じ方向に踏み出す足音。
◆
戦闘は、
無言だった。
号令も、
祈りもない。
レイが斬る。
背後から、
影が補う。
死角を、
刃が埋める。
呼ばずに、
理解する。
◆
一体が、
急に向きを変えた。
レイの死角。
――遅い。
だが、
間に合わない。
その瞬間。
横から、
刃が走った。
寸前で止まる祈り。
レイは、
振り返らない。
「……助かった」
声は、
届かない。
それでいい。
◆
最後の一体。
逃げようとした瞬間、
地面が沈む。
拒絶の波。
狩人の仕掛けだ。
レイが、
止めを――
刺さない。
剣を、
地面に突き立てる。
存在が、
崩れる。
祈りでも、
拒絶でもない終わり。
◆
静寂。
雨が、
戻る。
レイは、
息を吐いた。
その時。
胸の奥が、
熱を持つ。
白い石。
同じ反応。
◆
視線が、
合った。
数歩先。
フードの影。
顔は、
よく見えない。
でも――
わかる。
呼びたい。
喉が、
震える。
掟が、
重くのしかかる。
◆
彼女は、
小さく首を振った。
――今じゃない。
レイは、
唇を噛む。
そして、
剣を下ろす。
◆
まとめ役の女が、
歩み寄る。
「……いい連携だった」
「名前を、
呼ばなかったな」
レイは、
頷くだけ。
「それが、
一番難しい」
女は、
焚き火を見る。
「だから、
一番強い」
◆
夜が、
深くなる。
レイは、
一人で座る。
白い石を、
握る。
「……すぐそこに、
いるな」
答えはない。
だが、
同じ夜空の下。
エナも、
石に触れていた。
「……うん」
「すぐそこ」
名前は、
呼ばれない。
でも。
背中は、確かに並んだ。
物語は、
次で――
避けられない再会か、強制的な別れへ進む。




