妹に入れ替わられました。よっしゃー!
ごきげんよう。
わたくし、アネシスタ・ミラージュと申します。
中堅貴族であるミラージュ家の長女なんですが、わたくしを取り巻く状況はあまりよろしくありません。
社交界では、『ミラージュ姉妹の優秀じゃない方』とか、『逆出涸らし姉』とか、『弱いプロトタイプ』とか有り難くない陰口を言われております。
といいますのは、外見も勉学も魔術も中の下くらいのわたくしと違って、妹のマイシスタがめちゃくちゃ才能に溢れているから。
同じ日に産まれた双子なのに何でこんなに差があるんでしょうね。
わたくしがめちゃくちゃ努力して全て中の下程度のポジションだと言うのに、マイシスタは程々の努力で上の中くらいのポジションにいます。
だから、両親もわたくしには余り期待せず、マイシスタばかりチヤホヤ。考えても詮ないこととわかっていますが、正直羨ましいなぁと思ってしまいます。
だってわたくしが人並みにできる事といったら、才能に関係なく努力で身につけられる各種マナーとかその辺だけなんですもの。
「はあ……一度くらい彼女になってみたい」
おっと、こんな事を考えてはいけませんね。
マイシスタの人生を奪う事になりますし、神から与えたれた手札で精一杯頑張るのが人生というものです。
***
ある朝目覚めると、マイシスタになっていました。
「は?」
まだ夢の中だったのかしらと、指で手のひらを押したり時計を見たりしましたが、貫通もしないし文字盤も変化しません。ふむ、夢ではないようですね。
まあ、そんな気はしていました。いつもより頭が冴えますし、身体も軽くて力が漲る感じがありますから。
「でも、なぜ?」
「あら、お姉様。お目覚めね」
やってきたのは、わたくしでした。
いやお姉さまとか言ってるし、多分中身はマイシスタなんでしょうね。
「マイシスタ、どうしましょう。わたくし達、入れ替わっちゃったわ」
「ふふふ、お姉さまったら察しが悪いんだから」
マイシスタの説明によると、入れ替わりは彼女が秘密裏に開発したオリジナル魔術によるものだそうです。
なんでも、期待されてもっと頑張れと言われるのが嫌で、なんの期待もされていないわたくしが羨ましいのだとか。
「だから入れ替わることにしたの。これで、悠々自適な怠惰ライフが送れるわ。」
「いや、そんな上手くいかないと思うから、早く戻した方がいいわよ。」
親切心からの忠告でしたが、マイシスタはハッと鼻で笑います。
「無理よ、入れ替わりは流星群の力も利用したものだから次に使えるとしたら100年後だし、お姉様の身体には術を発動するのに必要な魔力もないもの。」
そういえばこの子、昔から才能があり過ぎるがゆえにエキセントリックで向こう見ずなところがありましたね。まあ、めちゃくちゃな計画でも力技で帳尻合わせられちゃうからなのかもしれないれけど。
「ちなみに、他の人に言おうとしても無駄よ。二人が入れ替わった秘密は、口でも筆談でも尻文字でも伝えられないように魔術で縛ったから。」
とういうわけで、これからはお姉さまが頑張って重責を担ってねと笑い彼女は退室していきました。
ふむ……どうやら、わたくしはこれからマイシスタとして生きていくしかないようですね。
・・・・・・・
「よっしゃあー!!!」
喜びのあまり、ちょっと口調を乱しつつ一人でラインダンスを踊ります。うわ、脚めっちゃ高くあがる!何、この天性の筋力と柔軟性!そして身体、軽っ!
普通、こう言う入れ替わりって、出来の悪い方だけが願うものだとばかり思っていましたがそうでもないんですねぇ。
何の相談もなく入れ替わられたことに多少思うところはあります。長年大事に使ってきた名前と身体に愛着がないわけでもないですし。
でも彼女は彼女で悩みがあったみたいですし、わたくしにも大きな得がありますし、恨む気にはなりませんね。
という訳で、これからわたくしは『マイシスタ』として生きていきます。
◇◇◇
入れ替わって一年がたちました。
「マイシスタはこの一年で益々美しくなったな」
「魔術や勉学も首席……とても努力してるわね」
両親がそう言って褒めてくれますが、別に『努力』してるつもりはないんですよねぇ。
わたくしのなかでは、アネシスタだった時の方がずっと努力していました。
わたくしの中では『努力』って、中々結果が出ず報われる保証もない中で頑張るイメージがあるんです。
でもこの身体って、アネシスタだった時の半分もやれば絶対にいい結果が返ってくるんですよ。そりゃあ、やる気にもなりますよね。
「しかし、アネシスタは最近弛んどるな。もっと厳しく指導する様に家庭教師に伝えておかねば」
「本当に。マイシスタを見習ってほしいわ。」
反面、我が妹は苦労しているようですね。
初めこそ両親から期待されていないのを良い事に自堕落な生活を満喫していたようですが、外見も成績もあっという間にどんどん悪化した為、現在は元の身体にいた時よりもずっと努力を強要されているみたい。
「いえ、彼女はきっと昔よりもずっと頑張っていますよ。結果こそ出ていませんが、そこは認めてあげないとそろそろ心が潰れてしまうと思います」
この前なんて皆の前で泣きながら『お姉様、やっぱり身体を返して!』なんて言い出しましたからね。魔術で言動を縛られているので困った顔で首を振るくらいしかできませんでしたが。
「うーむ、確かにそうか。ちょっと精神的にも参っているみたいだし……もういっそ、嫁に出すのは諦めて一生家で面倒みるか。」
「貴女は本当に出来た娘ね。ここ一年で更に優しく素敵な淑女になった。」
まあ、中身が違いますからね。
それ気づいてくれない両親にちょっとだけモヤモヤする気持ちがありますが、まあ普通はそんな事あり得ないわけですし仕方ないと割り切りましょう。
それよりも、お辛い事になっていた妹の待遇が多少マシになりそうな事を喜ぶ方がわたくしの精神衛生上にも良さそうです。加害者なんですけど、害よりも得の方が大きいですからね。
そんな風に過ごしていますと、学園の同級生であるプロビデンス様とお見合いをすることになりました。
彼はこの国の王族で結構な身分差があるので、同級生とはいえ今まで殆どお話した事もありませんでした。しかし、この一年のわたくしの急成長ぶりが評価されて声がかかった様子。
後は若いお二人でとなった時はとても緊張しましたが、プロビデンス様は学園の事を中心に話題を提供してくれたので話しやすかったです。
また、察しがよくて、周囲をつぶさに観察されている聡明な方という事が短い時間話しただけで伝わってきました。
「おっと、もうこんな時間か」
「あっと言う間に感じました」
「さて、そろそろ本題に入らせてもらおうか」
ん?
「君はいったい『誰』なんだい」
息が止まりました。
「そ……どう……言う意味でしょうか?」
「その反応……特別な魔術で言動に制限でもかかっているのかな?質問を変えよう。君、中身は『アネシスタ』だろう。肯定するならそのまま沈黙してくれ」
この人、察しが良すぎませんか!?
その後、いくつかの質問に沈黙と否定で回答しただけで彼は大まかな事情を把握してしまいました。
でも、なんで入れ替わりについて分かったのでしょう?
「君たち姉妹の事は昔から少々気になっていたんだ。素敵な姉とちょっと残念な妹ってことでね」
「それ、逆では?」
わたくし、逆出涸らしとか言われてましたけど。
「いいや。僕は元々、アネシスタに好印象を持っていたんだよ。よく磨かれた立ち振る舞いが見てて気持ちがよかったし、他にもたくさん努力してる子だなぁとね」
でもある日、姉妹の所作が突然真逆になり違和感があった事。そして、努力不足と見ていた妹のほうがグンと伸びる一方で姉は怠惰になり、『やっぱり身体を返して!』と言い出した噂をきいてピンときたそうです。
「この度は大変申し訳ありませんでした。罰は如何様にも。」
この事件が明るみに出た後、我が家は一体どうなるのでしょう。流星群がないと使えない魔術とは言え、入れ替わりなんて危険ですものね。
「では、俺と結婚して秘密を俺と君の二人で一生抱えて生きていくことで罰としよう。」
「え、いいんですか?」
思わず突っ込んでしまったわたくし。
「オレと結婚するのは嫌じゃないんだよな」
「それはもちろん、光栄ですし嬉しいですよ」
それを聞いた彼は笑顔で答えます。
「元々、俺は君の内面をとても気に入っていたんだ。でも俺は王族だからな、外面にでる諸々が足りぬ者と結婚は出来ないと思っていた。」
しかし、今なら顔も成績も足りているというわけですね。おおう……入れ替わりのお陰で結婚できる事になって嬉しいのですが、うーむ……
「どうした?」
「お恥ずかしながら、今更妹の顔にちょっとだけジェラシーを。貴方も、顔は元々妹の方が好みだったわけですよね」
「なんだ、可愛い悩みだな。そして、それはちょっと違う。一年前よりもずっと美人になったのは君の努力によるものだろう?それに性格って顔にでるから、今のその顔は君だけのものじゃないかな」
そう言うものですか?でも、嘘やお為ごかしを言ってる感じでもなく、プロビデンス様は本気でそう思っているみたいです。
ちょっと自分にはない視点でした。今までずっと借り物という認識でしたが、彼といると少しずつこの顔や身体にも愛着がもてそうです。
「という事で結婚してくれるな?」
「はい、喜んで」
彼と生きていけば、いつかはアネシスタよりもマイシスタという名前にも愛着が持てるようにもなるんですかね?
「あと、これからきみの事は親愛を込めて『シスタ』と呼ばせて欲しいんだがいいだろうか。」
おお、元の名前が入った愛称!
なんて素敵なんでしょうか。
「それ、とても嬉しいです。是非。」
というわけで、これからのわたくしは中堅貴族の出涸らし令嬢アネシスタ・ミラージュではありません。
未来の王妃であり、大好きな夫から『俺のシスタ』と愛されることになる女です。




