告白ラッシュ地獄、始まる
その日の放課後、教室はなぜか妙な空気に包まれていた。
「……まさか、あの子が来るなんて」
愛美が俺の隣に座り、腕を組みながら不安げに呟いた。もちろん、彼女が心配しているのは、何も普通のことではない。あの「元ヒロイン」の登場に他ならなかった。
「でも、天音さんが来ても、別に問題はないでしょ?」
みかが無邪気に言う。みかは相変わらず、素直で物理的な思考をしているので、精神的な絡みが少し苦手だ。だけど、この発言が不安を呼ぶ結果となるとは思ってもいなかった。
「ええ、問題はないわよね。だって、あの子は昔のことを全部忘れたって言ってたんだし」
クラリスがいつものように高飛車に言うが、目が泳いでいるのはバレバレだった。確かに、天音が「以前のような感情を持っていない」と言っていたが、彼女の微妙な空気に一番敏感なはずのクラリスが心配していないわけがない。
「でも、何で急に転校してきたの? あんなに冷たくする理由がわからないわ」
ルクシアが首をかしげながら、無邪気に言った。彼女もその『冷徹』な雰囲気を嫌っていたが、やっぱり彼女の魔法は心配事から逃げるようなものだった。とりあえず、目の前にある魔法を弄くっているうちに忘れてしまうのだろう。
「まあ、俺のために何かしてくれるなら助かるけどな」
俺は無気力に呟くと、ヒロインたちが一斉に振り返ってきた。もちろん、俺が今までしてきた「無関心オーラ」に飽きた彼女たちの目が鋭くなったのだ。
「遼くん、それ、今すぐやめなさい!」
愛美が手を引いて俺を突き飛ばしたが、ふっと目を合わせると愛美はすぐに顔を赤くして顔を背けた。
「そ、そんなこと言うんじゃないわよ……!」
「いや、今はみんな俺をターゲットにしてるんだから、気にすんな」
俺はとにかく冷静を保ちながらそう答える。だが、その瞬間、何かが変わった。
「遼くん」
天音の声が耳に入った。
「あなたには、言いたいことがあるの」
その言葉に、俺は一瞬驚いた。周りのヒロインたちもその言葉に反応し、一斉に動揺した。天音が俺に向かって近づいてくる。瞬間的に、愛美、みか、クラリス、ルクシア、全員が俺の周りに集まってきた。
「あなたが選ばなきゃ、みんな、傷つくのよ」
天音はそんなことを言った。
「え? どういうこと?」
俺はつい聞き返してしまった。天音は冷静に、静かな声で続けた。
「遼くん、私のこと、選ばなきゃダメよ。選ばないなら、学園も終わるの」
「終わる?」
「そうよ。だって、あなたが選ばなかったら、みんな私を取り合うことになるわ。その結果、この学園は崩壊する」
一瞬、俺はその言葉の意味がわからなかった。
「そんな…!」
その場にいたヒロインたちの表情が次々と固まった。愛美が肩を震わせ、みかが唇を噛み、クラリスはじっと俺を見つめ、ルクシアは目をきょろきょろさせていた。
「だから、遼くん。選びなさい」
天音は静かに言った。
その瞬間、何かが弾けたように、ヒロインたちが一斉に声を上げた。
「遼くん! 私がいいの!」
「いや、私に決まってるでしょ!」
「私だって、負けないんだから!」
「ふ、ふふ…選ぶのは私よ!」
「いや、待って! 私だって…!」
一斉にヒロインたちの声が重なり合い、教室はカオスの渦に飲み込まれた。俺はもう、どうしていいのかわからない。
「お、お前ら…!」
「遼くん、覚悟を決めてね!」
愛美が無理やりに俺に向かって走り、みかが横から迫ってきて、クラリスが高飛車に私を選べと言い、ルクシアは奇妙に魔法で空間を歪めながら言った。
「もう、どうすればいいんだよ…!」
頭がフル回転し、俺は、ただでさえ冷静を保てる自信がなくなってきた。やっとのことで立ち上がり、みんなの前に立った。
「お前ら、俺にどうしろって言うんだよ!」
その時、天音が静かに微笑みながら、俺の手を取った。
「遼くんがどうしたいか、私は知ってるわ」
その言葉に、周囲が一瞬静まり返った。
「だから、選びなさい。私を…」
その瞬間、教室の空気が凍りついた。