委員会戦争とカオスな放課後
「――というわけで、本日よりクラス委員を決めまーす」
ホームルームの担任の軽い一言で、すべてが始まった。
「私、やります」
「私も立候補するぞ!」
「おのれ……先を越されたか」
「……我も名乗りを上げよう。我が契約者を導くために!」
「ふむ、クラス委員など些末な役職だが……久我くんと一緒なら、やってやらんこともないわね」
一瞬の静寂の後、ヒロイン5人が一斉に手を挙げた。
「……俺は? 俺の意思はどこ行った?」
「君は被投票対象だよ、久我くん」
「なんだその概念!?」
学園・神星アカデミア。ここでは、各種委員会がそれぞれ強大な権限を持っている。
そしてそれは同時に、学内政治の火種でもある。
生徒会、風紀委員、特別魔導管理委員、体育指導局、そして……恋愛倫理監視委員(設立:本日)。
「はい、委員会戦争、開幕です!」
担任がまるで見世物のように言い放つ。おい、もっと教師らしくしてくれ。
案の定、教室は戦場となった。
「遼くんは、生徒会の庇護下にあるべきです。私が全力で管理しますから」
綾小路 愛美、生徒会執行部。所属というか、実質乗っ取り済。
「はぁ? あんな陰キャ会議に所属させてどうすんのよ。遼は私のトレーニング補佐! 風紀委員の一員として鍛え上げる!」
日比野 みか、風紀委員副長。拳で規律を守る暴拳の申し子。
「ふっ……風紀など、我が魔力で塗り替える。遼は我が隣に立ち、異世界と現世の均衡を担うべし!」
神無月 ナナミ、特別魔導管理委員。役職名からしてすでに魔法少女的何か。
「くだらないわ。遼くんの学内配属は、私の財団が買い取ってるから」
クラリス・フォン・ゴールドレーヴェ、生徒会に資金提供するスポンサー。すでに金で票を操作中。
「ま、待て待て! 私の所属する賢者保護機構こそが真の居場所だ! 遼には魔導士の適性が……あるかもしれない!」
ルクシア・ファム=エル=ヴァリエル、今日から作った新委員会の会長(自称)。まだ公認されてない。
「ちょっと落ち着けみんな! 俺はただ、普通に……無事に帰りたいだけなんだ!」
「はい、それが通る世界じゃないの知ってるよね?」
「校長、俺に平穏をくれませんか!」
「久我くん、戦争とは理不尽と知略の化身だ。がんばってね(ニッコリ)」
この学園、頭おかしいのしかいないのか。
その日の放課後――
委員会戦争は、ついに体育館での「公開プレゼンバトル」に発展していた。
司会はなぜか放送部。審査員は生徒・教職員・謎の猫。
観客は全校生徒(主に野次馬)
<第一プレゼンター:愛美>
「私と遼くんは、日常から精神まで完全に共有していると言っても過言ではありません。なので、生徒会所属が最適解です」
壇上のスクリーンに表示されたのは、俺の一週間の生活記録(しかも盗撮つき)
「……これ、どこから盗った!?」
「盗ってません。観察してただけです♡」
それを盗撮って言うんだ。
<第二プレゼンター:みか>
「遼はまず体力不足! よって、風紀委員に入って私と一緒に毎朝10km走れば、健やかに学園生活を――」
「死ぬわ!!」
「ついでに拳法もマスターできるから、お得よ!」
「暴力はお得じゃねぇ!」
<第三プレゼンター:ルクシア>
「遼には、我が研究する恋愛魔法の被験体となってもらう!」
「それ実験台って言ってるよな!?」
「安心しろ、今回は教室を吹き飛ばすほどの魔力は使わない!」
「基準が狂ってるんだよ!」
<第四プレゼンター:クラリス>
「私はこれを提出するだけで十分ね」
そう言って彼女は、札束の束と『学園所有権一部譲渡証明書』を壇上に置いた。
「こいつ、プレゼンの意味わかってないぞ!?」
「私のものは、私のもの。遼くんも含めて」
「それ、法的にアウトだよね!?」
<第五プレゼンター:ナナミ>
「遼と我は契約済み。我が血と魂を捧げた刻より、この絆は運命を越えている」
謎の契約書と、謎のルーンが浮かび上がる。
「しかも、なんでみんな納得してるの!?」
観客「うぉおおおお! これはこれでアリ!」
学園、やっぱり頭おかしい。
最終投票の結果――
「全員、同点です!よって、久我くんは全委員会に所属することになりました!」
「なんでそうなるんだよォォォォ!?」
「君がいれば、すべてが丸く収まるからね!」
「収まってないよ!ギリギリで爆発してるよ!」
こうして俺は、生徒会でスケジュール管理され、風紀委員で毎朝特訓し、魔導管理委員で幻覚試験を受け、財団の支援業務で書類に囲まれ、ついでに契約者扱いでナナミに常に付きまとわれる日々が始まった。
……精神力SSS級、まだ削られてないだけマシなのか。