それでも俺は、平穏な昼寝がしたい
昼下がり。
校舎裏の中庭にある、俺専用ともいえる木陰のベンチ。ほんのり暖かい風と、騒がしすぎる学園から逃れられる静寂。
ここが、俺の聖域だ。
「……やっと、平穏」
俺はベンチに横たわり、まどろみの世界へと沈んでいく。
ヤバいヒロインたちとの騒がしい日々。爆発あり、監視あり、物理的な愛の拳あり。学園崩壊の危機すら経験したこの一年。だが、今ここに、ようやく平穏なひとときが戻ってきた。
……そう、ようやくだ。
「ん、遼くんいた~!」
その声とともに、ベンチがぎしと傾いた。
みか(体育会系ヒロイン)が、全力ダッシュでベンチに飛び乗ったのだ。物理的に。
「おい、俺の肋骨が昼寝前に破壊される未来やめてくれ」
「だって、早い者勝ちってクラリスが言ってたし!」
「ルール作ってんじゃねえよ……」
そこに重なるように――
「ふふ、やっぱりいたのね、遼くん。心のGPSが反応したわ♡」
清楚系の皮をかぶったストーカーヤンデレ、愛美が優雅に座ってくる。
「GPSって言っちゃったよね!? 心ってなんだよ!」
「ちゃんとパスワード付きで管理してるから安心して♡」
安心できねえよ!
その隣には、謎の魔法陣が地面に展開されていた。
「ふむ……計算通り、そなたの昼寝時間にピッタリ着いたな!」
異世界からのポンコツ魔法少女・ルクシア、無事(?)召喚成功。
「ベンチ下から来んな!ワープゾーンかよ!」
さらに、学園放送で響く高笑い。
『このたび、放課後のベンチ使用権を『ゴールドレーヴェ財団』が買収しました!』
「お前……何買ってんだよ、クラリス!!」
「ふふ、これで正式にあなたの隣に座る法的根拠が得られたわ」
全員狂ってる。
さらに、陰から現れる黒フード。
「……我が伴侶、昼寝の儀式を妨げる魔を、我が手で祓おう」
「ナナミ!その魔の定義を、今すぐ法に照らして見直せ!」
そして、最後に現れたのは――
「あいかわらず、騒がしいわね……でも、嫌いじゃない」
一条 天音が、いつもの無表情で、それでもどこか優しげに俺の頭にそっとタオルをかけた。
「……あの頃、あんたに救われた私が、今こうしていられるのは……」
「いや、そういうしんみり来る流れの中で、周りが大騒ぎだから全然入ってこないよ!?」
俺は、ふうっと一息ついて、空を見上げた。
青空。
騒がしいけど、どこか暖かい声。
危険だけど、どこか心地いい距離感。
「……俺さ、思うんだよ」
「こいつらといると、平穏ってたぶん一生来ないんだなって」
だけど。
「――それでも、まあ……悪くない」
そう、これは選ばなかった俺の、選び取った日常。
そして今、俺はこうして――
「……昼寝くらい、させてくれよな」
目を閉じる。
騒がしさを背に、心は静かに沈んでいく。
――俺の、精神力SSS級の学園生活。とびきり騒がしくて、ちょっとだけ温かい結末へ。
【おまけ】
クラリス「今日の番は私よね?」
みか「は?昨日アンタだったじゃん!」
ルクシア「いや、我が運命の星読みでは本日は我のターンだ!」
ナナミ「儀式の順番は星暦に従え!」
愛美「全部記録してあるわ。先月から一日たりともミスなく」
天音「……全員で順番待ちする時点で平穏じゃないと思う」
俺「まだ終わってねぇぇぇぇぇぇぇッ!!」