転校初日、俺は既に終わっていた
「神星学園へようこそ、久我遼くん。君の精神力、我が校で大いに期待しているよ」
校長室で、白髪の老紳士が満面の笑みを浮かべている。
「……期待されるのは構いませんが、何を期待されているのか、具体的に教えていただけますか?」
「ふふ、君には特別な才能がある。精神耐性SSS級、思考干渉無効。まさに、我が校の『問題児』たちを受け止めるのに最適な存在だ」
「問題児……?」
「ああ、君のクラスには、ちょっと個性的な生徒たちがいてね。君なら、きっと彼女たちと上手くやっていけるはずだ」
「……そうですか」
俺は深いため息をついた。
「今日も学園、無事に終われるか……」
教室に入ると、全員の視線が俺に集中した。
「あ、あの……今日からお世話になります、久我遼です」
「きゃー! 新しい転校生だって!」
「しかも、イケメン!」
「私の隣、空いてるわよ!」
「いや、私の隣がいいに決まってるでしょ!」
教室が一気に騒がしくなった。
「……えっと、席はどこに座れば……」
「久我くん、こっちよ」
清楚な美少女が微笑みながら手を振っている。
「綾小路愛美です。よろしくね」
「あ、よろしくお願いします」
「ふふ、あなたの心、今どれくらい私を見てるの?」
「……え?」
「あ、なんでもないわ。ふふふ」
彼女の笑顔の裏に、何か得体の知れないものを感じた。
授業が始まると、隣の席から奇妙な声が聞こえてきた。
「だ、大丈夫だ! これは計算通り……のはず!」
見ると、金髪の少女が教科書を逆さまに読んでいる。
「あの、教科書、逆ですよ」
「あっ、そ、そうだった! ありがとう、助かったよ!」
「いえ……」
「私はルクシア・ファム=エル=ヴァリエル。異世界から来た魔法少女だ!」
「……そうですか」
「くしゃみで教室を消し飛ばしたり、洗濯中に火山を噴火させたりするけど、気にしないでくれ!」
「……気にします」
休み時間になると、突然、背後から声がかかった。
「ち、違うし! 別にアンタのことなんか――///(バキィ)」
「ぐはっ!」
振り返ると、体育会系の少女が拳を振り下ろしていた。
「あ、あの……痛いんですけど」
「あっ、ご、ごめん! つい……」
「日比野みかです。よろしくね」
「よろしくお願いします……」
彼女の拳には、愛がこもっているようだ。物理的に。
次に現れたのは、金髪の令嬢だった。
「あなた、私のものになりなさい」
「は?」
「クラリス・フォン・ゴールドレーヴェよ。すべてを金で買えると思っているわ」
「……そうですか」
「それ、いくら払えば私のもの?」
「……値段の問題じゃないと思います」
彼女の財力は、学園の校則すら変えてしまうらしい。
最後に現れたのは、黒髪の少女だった。
「運命は交わり、星の導きはここに至る……我が伴侶よ♡」
「……誰?」
「神無月ナナミよ。あなたと私は運命の婚約者なの」
「……初対面ですよね?」
「血の契約書も提出済みよ。これで夫婦ね♡」
「……どこに提出したんですか?」
「保健室の先生に♡」
彼女の妄想力は、現実をも凌駕しているようだ。
こうして、俺の転校初日は、ヤバいヒロインたちに囲まれて幕を開けた。
「……ここからが地獄の始まりだった」