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第十九話 未来の野球場(ニ)

 一樹は予期せぬ質問を受けたらしく、はたと答えに窮した。おそらく何も考えていなかったのだろう。聡志は話の腰を折ってしまったことを後悔した。

「いや、なけりゃええよ。ちょっと思うただけじゃから」

 手を横に振って質問取り消しのしぐさをしたところへ、一樹が思い出したように話し始めた。

「聡志、こういうのはどうじゃろう。今は野球を観に行けん子どもたちに、大人になってから入場券と引き換えられるドリームチケットと最新の選手名鑑を送るというのは。そのチケットを大事に飾っておけば、いつかは自分もプロ野球を観に行けるという、夢を持って暮らすことができると思うんじゃが」

 そこまで言うとまた黙りこんだ。先ほど楽しそうにSFの話をしたばかりなのに、寂しげな顔つきになっている。

「うん、それもええ考えじゃと思うよ。ドリームチケットと一緒にサイン色紙やサインボールを送ってもええしな。将来の野球ファンを今から育てんにゃあいけん」

 一樹が子どものころは、プロ野球を観に行きたくても行けなかったのだろうと思うとかわいそうになった。父親はとっくに死んで、母親も病気でほとんど寝たきりだった。妹もまだ小さかったし、頼れる親戚もいないのでは、行けるわけがない。

 子どもながらに毎日、生きることに必死で、小さいころの一樹は母親にジュース一本のおねだりをすることさえ、我慢していたのではないか。

 そんな子供たちに夢を持たせるのに反対する球界関係者はいない。

「みんなでアイデアを出し合えば実現できそうじゃな。スポンサーや球団だけじゃなく、選手会も個人の年俸に応じて負担を決めたらええ」

 一樹は頷きながら舌を出してもう一つ追加した。

「欲を言えば、弁当付きのチケットにしてくれんか。二段の弁当で、ゆりの大好きなエビフライが入っとる。しかも、食べたこともないようなジャンボエビフライ弁当。ゆりの喜ぶ顔が目に浮かぶな」

 いつもの妹思いの兄貴になっていた。

「へー、そりゃあいいや。近未来の野球観戦にエビフライ弁当じゃ!」

 二人が声を立てて笑っているところへ、噂の本人が帰ってきた。

「またお兄ちゃんは未来の野球場の話?初めてプロ野球の試合を観に行った日の夜から、夢のようなことばっかり言ってるんだから。堂本さんは、お疲れでしょう。適当に切り上げてお帰りください。あとは、私が聞き役に回りますから」

 一樹に目で合図をして、自分の部屋に荷物を置きに行った。

「いつもゆりが相手じゃ、つまらんよ。なあ、聡志、もう少しだけ聞いてくれるよなあ?」

「ええよ。もちろん、聞くに決まっとろうが」

 戻ってきたゆりが申し訳なさそうな顔をして聡志に頭を下げた。一樹は二人にタイムを取って、部屋から野球場の模型を持ってきた。手作りの模型で、盤に立体のベースなどが取り付けられている。

「じゃあ、続きをいくぞ。判定はな、全部AIのシステムがやるんじゃ。一塁がアウトなら赤、セーフなら青。フェアかファウルか、盗塁もタッチプレーも、全部ベースが色を発して判定結果を示す。もう、リクエストなどという時間のかかる見直しは不要じゃ」

 一樹は説明をしながら、嬉しそうにスイッチを押してベースを光らせて見せた。ゆりはもの凄い発明を見たかのように目を輝かせた。

「お兄ちゃん、いつの間にこんなものを作ったの?ベースが光るときれいねえ。何色に光ってもきれい」

 一樹は得意になって、今度は一塁ベースと二塁ベースを同時に赤にして見せた。

「ゆりはダブルプレーを知っとるよね。例を挙げると、バッターが内野ゴロを打って、一塁走者とバッターが二人ともアウトになることじゃ」

「うん、お兄ちゃんとテレビで野球を観てるから分かるわよ」

「それにしても一樹、なかなかやるな。見ているだけで楽しゅうなる。野球のグラウンドにもそんな時代が来るんかなあ」

 聡志もすっかり魅了されていた。

「最後に、これはどうじゃ。極めつけは、ホームラン性の打球がレフトやライトぎりぎりに飛んだときの判定じゃ。球がポールの近くを通過するのをAIが予測または感知したら、黄色のポールがパッと現れるんじゃ。フェアかファウルかを判定して、ファウルならポールが赤になる」

 模型ではすでにポールが立っていたので皆が笑った。一樹が実際にポールを赤で点灯させて見せた。ゆりが「わあ、ステキねえ」と拍手をして喜んだ。一樹には本当にありがたい妹だ。

「これらすべての判定に対して、選手や監督は従うしかないんじゃ」

「それで、審判はいなくなるのか?人間の審判は」

「それなんじゃけどな、俺はストライク、ボールを判定する主審は人間がやればええと思うとる。いくらAIの時代になろうとも、そこだけは残すのが野球の醍醐味というもんじゃ。聡志も現役選手として、そう思わんか?」

 これには、聡志も唸った。そこまで考えているのか。それなら優秀な審判を養成しておく必要がある。ふむふむなるほど、と頭を縦に小さく振って、最後に一つ訊いてみた。

「それで、デッドボールやラフプレーで乱闘になったら、どうするんじゃ?」

「その時のために頑強な乱闘専用ロボットを控えさせとくんじゃ。選手たちを投げ飛ばすくらい強い奴をな。それなら怖くて誰も文句など言わん。どうじゃ、面白いじゃろう?」

 一樹は無邪気に笑った。

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