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大空に散っていく

作者: 宵月 星華

 プロペラが勢いよく回転し、エンジンの駆動音が力強く響く。

目の前には長い滑走路が広がっている。俺は深呼吸をした。

右手を見てみる。小さく震えている。俺は笑った。

「ハハッ。この後に及んで、まだ生きたいってか?」

俺に特攻が命令されたのは、つい2時間前のこと。

その時はついに俺にも特攻か、と覚悟を決めたつもりだったが、

やっぱり、死に場所に入ってみれば、そんなものどこかへ消し飛んでしまう。

俺には、お国のために死のうなんていう護国の心はどこにもない。

俺はただ1人の愛人のために戦っているだけだ。

俺は深くため息をつくと、整備員に、

「ブレーキを解除していくれ!」

といった。しかし、彼はブレーキを解除しようとはせず、

悔しそうな顔をしながら袖で機体のコックピットの窓を懸命に擦り始めた。


俺も彼も分かっていた。

俺が特攻に行こうが行きまいが、戦局には全く影響がないことを。

そして、たとえ俺と彼が昨日共に酒を飲んだ仲であっても、

俺は行かなければいけないことも。

俺はそっと彼の肩を叩いた。彼はくしゃくしゃになった顔をこちらに向けてきた。

俺は無言でゴーグルを外すと、彼に手渡した。

彼が両目を大きく見開くなか、俺は言った。

「死ぬなよ」

彼は泣くのを堪えながら、ただただ大きく何回も頷き、

すごすごと機体から離れた。

俺は1人の整備員がブレーキを外したのを確認すると、

エンジンのスロットルを上げた。


 1945年4月8日10時51分。二度と帰らぬ零式艦上戦闘機一機が、

地面を力強く蹴り上げ、空に飛び出していった。


 米軍側の資料によれば、同日の3時半ごろ、

沖縄近海に展開中だった機動部隊に十数機ほどの零式艦上戦闘機が攻撃。

F6F艦上戦闘機が7機以上撃墜し、対空砲火により6機が撃ち落とされたが、

一機が空母に突入。空母は中破し、大規模な火災が発生したが、

しばらくして消火した。

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