六話 クリスマス
胡桃と綾柳が情報を集めに出て早一週間。未だに情報は掴めていないようだった。そんな中、楓たちは特に意味もなく外をブラブラと歩き回っていた。
「……クリスマス」
イルミネーションで装飾された木々に建物。至る所でクリスマスの音楽が流れており、些かカオスな状態となっている。
「流石の日和もクリスマスくらいは知ってたか」
「バカにしないで。普通じゃない自覚はあるけどそれくらい分かるよ」
むっとしたような声色で横を歩く楓に睨みを利かせる日和。
「日和は何かプレゼントとか貰ってたのか?」
「…………」
突然無言になる日和。そんな日和を見て楓は「地雷を踏んだか」と焦りの色を浮かべたが、薄っすらと予想していた返しが返って来た。
「なにそれ」
「……だよねぇ」
クリスマスの音楽がどことなく虚しく聞こえるのは気のせいか……。
「クリスマスの日に大切な人にプレゼントを渡す文化があるんだよ。親が子に、彼氏が彼女に、彼女が彼氏に。……まぁ、友達同士で交換する人もいるな」
「へぇ、そんな文化があったんだ。ただの豪華な食事を食べられる日だと思ってた」
興味深そうに周囲を見渡す日和は何かに気が付いたような表情を浮かべる。
「だからさっきイヤリング買ったときに『包装しますか?』って普段言われない事を言われたんだ……」
「たぶんプレゼントだと勘違いされたんだろうな。アクセとかはプレゼントに選ばれやすいしな」
納得のいったような日和に、楓は先程から気になっていたことを尋ねる。
「ピアスじゃなくてイヤリングなんだな」
日和の耳元で揺れる雪の結晶の形をしたアクセサリー。
「うん、楓はピアスなの?」
そう言って楓のピアスにチラッと視線を向ける日和。
「ああ、これ? これピアス」
そう言い、クリスタルピアスを右手で掴んで見せる。
「ピアスって痛くないの……?」
「うーん、痛いっちゃ痛いけど俺の場合は不快感、って言うのかな。変な感じがするから好きではない」
「なのに着けるんだ」
「貰い物だからな」
賑やかな商店街を出て、聞こえてくる音楽も少なくなってきた事で日和の声が少し大きく感じる。
「クリスマスプレゼント?」
「いや、誕生日プレゼントだったな。貰ったのは十歳にもなってない頃。流石に当時は着けてなかったけど」
流石にそんなに小さい頃は、ピアスを開ける勇気はなかった。故に贈ってくれた本人の前で着けている姿を見せることは結局最後まで出来なかった。
「……昔から愛され者だったんだね」
「はは、どうかな。案外、愛されてたのは俺の力かもしれないぞ?」
笑いながらも、微かに声のトーンが下がったのを聞き逃さなかった日和は、まるで慰めるかのように柔らかな表情を浮かべた。
「大丈夫、胡桃ちゃんや綾柳さんは楓の事を大切に思ってる。それに私もそう。今はまだメリットが合致しただけの存在に過ぎないけど。それでもきっといつか……。私が普通の女の子になれたとしたら、きっとその時は楓の事を一番に大切に思うよ」
「……そうか。それならまた日和に普通を教えるべき理由が増えたな」
「……そう、なの?」
不思議そうに首を傾げる日和。そんな日和を見て、楓はまだまだ普通には遠いな、と苦笑いを浮かべるのだった。
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※今回、そして次回のストーリーは短めとなります。