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パン屋の勇者討伐~ラスボスは歴代最強勇者です~  作者: 一筆牡蠣
第三章 『異端者達のお茶会』
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第三章 第15話 『二人の狂人』

体の温度が上がっていく。

それは、自身の魔術や相手の発する炎による上昇だけではない。


高揚感──それを、ギウスは改めて実感している。


「うぉっ……!ははぁ!やるなぁお前さん!」


「ワタシとしてもその評価には納得しているとも!」


爆炎。側から観測できるものがいればそんな表現では足りないと起こるものがいるかもしれないが、残念ながらこの二人の戦いに介入できるものはいない。


「ギウスさん、離れすぎないで……やっぱ熱いからあっち行って!」


「はっはぁ!一瞬で矛盾しやがった!」


炎の踊る戦場から少し離れたところで、呼吸の荒いレオがギウスに声をあげる。


「あんまり離れると僕の魔術効果は薄れますから、火傷しますよ!」


「それは避けてぇところだな!……っと」


ドッジは棍棒を振り、ギウスのいた場所が炎に飲まれる。慌てて飛びのき、なんとか退避。


無駄口を聞いているつもりはないが、高揚感で脳が痺れ、気が抜けているところを確実に突いてくる。


ドッジの身体能力からすれば、ギウスの動きなど止まっているのに相違ないだろう。

それでもなんとかギウスが凶炎から逃れ続けられているのは、レオの補助と、ギウス自身の炎によるものだ。


「相殺……というかあいつの炎を満足させるために、一回だけでも結構な量のマソが食われるな……」


凶炎に追いつかれそうになる寸前。ギウスは自分のマソで、自分のログが壊れない範囲の最大火力で炎の魔術をぶつけている。


しかし、一回一回の消耗が大きく、長くは持たないだろう。

だが、ある程度の画策には成功しているはずだ。あとはそれを起動して──


「先ほどから少しずつワタシの棍棒を燃やそうと画策しているようだが……いつ届くかねぇ?」


「──読まれてんのか!ははっ!すげぇな!」


そう言うと、ドッジは棍棒を何度か振り、的確にギウスが設置した数々の罠──爆炎の地雷を燃やし尽くした。


「せっかく逃げまくって仕掛けてきたっていうのによ……」


「威勢の割には小細工で戦うものだね。まぁ、それも歓迎するとも!」


せっかく手間暇かけて積み重ねてきたものが一瞬で葬られ、ギウスとしても少し傷心。もちろんこの程度で折れるわけもないが。


こちらを嘲笑するドッジの態度に思うことがないわけではないが、その私情よりも今は優先するべきことがある。それは、興奮状態にあるギウスにもわかる。


「とりあえず、作戦はちょっと変わってはいたが……これでいいんだよな、ユーガ。やることはやったぜ」


とりあえず、務めは果たした。

この狂人がユーガに直ぐに追いつくことはない。ここまで引き留めたのだから。


「あとは、俺っち次第だ」


あとのことはギウスの裁量に任されるのだ。

そう、ギウスがやるのだ。この男と。


「寒波とやらが迫っているというのに、悠長にしていられるその豪胆さ。実に感嘆するとも!」


皮肉めいたことを言い、こちらを煽り続けるドッジ。

ここで激発すれば相手の思う壺だ。短気な自覚のあるギウスは深呼吸をしてなんとか耐える。


そして、後ろを振り返り、


「うるせぇ奴だな、本当に。……レオ、もう少し下がれ」


「え、でもそれだと『水衣』が──」


そう言いかけたレオの口からは、その続きが出てこない。

振り返るギウスの顔には、はっきりとした笑みが刻み込まれいている。それを見たレオが固まっている。


「全く……どうなっても、知りませんよ」


「ありがとよ!」


数瞬の後、やれやれと、そういった感じでレオが引き下がる。

思えば、昔から彼には強引な行動で多大な迷惑をかけてきた訳で。


だからこそ、今もギウスがなすことをきっと、察してくれたのだろう。

遠ざかる、その背を見送り、


「……さぁ、いくぜ」


「何をするつもりか知らないが、受けて立つとも!」


手を大仰に広げ、天を仰ぐドッジ。

こちらを完全に舐めているのは明白。


──その驕りが、彼を蝕みうることなど、念頭にないのだろう。


昔から、夢には見ていた。

恐怖が無いと言えば嘘になる。が、この高揚がそれを上回る。


そもそも、この作戦に参加した時から決めていたのだ。

というか、この作戦に参加したのはそもそもこの瞬間のためだったと言っても過言ではない。


その機会を与えてくれたユーガ、自分のわがままを見逃してくれたレオ、そして、圧倒的愚行と言われても言い返せない、()()()()に理由をくれたドッジにすら感謝する。


やはり、自分は狂っていると、改めてそう思い──


「ジュール」


ギウスは、そう、なんの変哲もない魔術の詠唱をしたのだった。



 ***



「ジュール」


空気の焦げる臭いがする。

それは、今までとは異質な、否、同質だが規模が違う。


しくじった──そうドッジが気づいた頃にはもう既に手遅れであった。

もはや、棍棒の炎は間に合わない。


空の色が変わり、赤、黒、白、そのどれともつかない光が視界を埋め尽くし始める。


相手の技量を推しはかり損ねるなどはしていない。完全に、男はドッジの格下であった。

それなのに、なぜ、なぜなのか。


それは、実時間にしてみればほんの数瞬だったのだろう。

しかし、ドッジは久しぶりに時間が引き延ばされる感覚を味わう。


最適解を探さなければ、最悪死ぬ。

戦に出向くことの多い彼にとってそのような瞬間は稀である。それこそ、前に味わったのは確かあのいけ好かない精霊の元へと使いに出された時だったか。


あの時は酷かった、などと、そんなことを考えていたところ、頭の足らないドッジに、一つの可能性がよぎった。

それは、他でもないあの邪精霊から聞いた話。


『虚心坦懐。クロワールの土地は、莫大なマソが封じられている。──かの阿呆の仕業よ』


そう、記憶の中の存在は言った。

その時に負った傷はいまだに鈍い痛みの元だ。


「まさか」


そんなことがあり得るのか。

それほどの覚悟があるのか、それとも、ひたすらに狂っているのか。



「ここまでしてくるとは……本当に、感心するな」



豪炎が都市全体を焼く直前、ドッジは心からの賛辞を目の前の男に贈ったのだった。

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