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パン屋の勇者討伐~ラスボスは歴代最強勇者です~  作者: 一筆牡蠣
第三章 『異端者達のお茶会』
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第三章 第12話 『遭遇』

「なるほど、それぞれ得意な魔術属性があるんですね。スピカさんとギウスさんは火、レオさんは水……」


教会の中、食堂となっている別室で、ユーガ達は作戦を立てていた。

そこまで大きくない部屋だが、六人ほどが座れるような机が置いてあり、話し合いをするには困らない。


机に座っているのはユーガ、スピカ、ギウス、レオ、学校で魔術の授業をしているという教師のコルだ。


相手が不明故、ここでどれだけ策を練られるかが勝負になる。

それゆえ皆真剣な面持ちで向かい合っている。


「そうよぉ。でも、私の魔術は主に身体能力強化とか、そういう感じなの。攻撃には向かないわねぇ」


「俺っちのは逆に攻撃特性が高すぎて制御が難しいわ。対象を絞るとか出来ねぇから辺り一面焼いちまう」


スピカとギウスがそれぞれが繰る魔術を説明する。しかし、同じ属性だと言っていた彼らの話した内容はバラバラで。


属性が同じと言っても使い勝手が異なるのだろうか。


「魔術というのは、属性が同じだったとしてもその性質は千差万別でっすね。それ故に自分の魔術がどのようなものが知っておくことは大事なのでっす」


「特性が同じだとしてもその指向性に個人差があるのか……ありがとうございます、コルさん」


コルがユーガのために補足をしてくれる。

教師の性なのだろうか。先程からユーガが思案げになると追加の情報をくれるのだ。


『閲星教』の教え通り魔術の鍛錬を怠っていない人々は、やはり自らの魔術適正や、その特性も把握していた。


合わせてコルの助けもあるため、策を練るユーガも話が進めやすい。


「ただ、戦える人が少ないのがちょっと懸念点かな……」


「攻撃性の高い魔術が使える人は衛兵とか騎士とかに引き抜かれて行っちゃうからねぇ……ギウスみたく扱いにくいのを除いてね」


「ま、兵役に行くのは男の憧れってもんだが……結果として俺っちは俺っちのやりたかった仕事が出来てるから良いんだけどよ」


ギウスは黄ばんだ歯を見せて笑った。

実際、彼には今の仕事がはまり役なのだ。誰もそれは疑わない。


ただ、この教会内にいる者のうち、戦闘用の魔術が使えるのはギウス、レオ、コル、そしてサポートとしてスピカのみだ。


戦力としては少し心もとない。


「無理をすれば戦の場に出られる者もいるでっすが、生きて帰ってくるのは至難の業とだと思うでっす」


「そうですよね……だからこそ、俺たちでやらなきゃ」


守る対象の市民を戦いに繰り出してそれで多くの被害者が出れば本末転倒というものだ。

ユーガを含めたここにいる人員で何とかしなければ。


「それにしても、衛兵の大部分がやられてるって言うのが驚きだぜ」


「そうなのよねぇ。相当手練れの衛兵が置かれているんだけどね……それこそ『序列隊』の補欠もいたはずなんだけど」


「俺っちは療養所からここに避難してきてなぁ。そこで聞いた話じゃ、もう戦える衛兵も騎士も居ないって話だぜ。まだ動ける奴らは教会の警護に当たってるって」


「あれ、ここにはそんな人たち居ないみたいなんですけど」


「ここはまぁ……都市の外れに近い場所だからなぁ。大教会とも遠いし、衛兵たちにしてもここまで移動してくるもの危険だ。そういう訳で、俺っち達みたいな一般人が頑張って守るしかないのさ」


「そうですか……じゃあ他の教会はここよりは多少は安全ってことなんですね」


ユーガはひとまず考えなければいけないことが一つ減り安堵する。


すべてを救うためには、この教会だけではなく他の教会に避難している人々も守らなければならない。

仮にユーガ達が作戦を実行している間にそこを攻撃されてはどうしようもない。


だが、騎士や兵士が待機しているのなら()()()()()が無い限りすぐに陥落することは無いだろう。


そう、相手に特別なことがなければ。


「──皆さん、話しておきたいことがあります」


ユーガは皆の注目を集める。

これから話すことは、ユーガの仮説、そしてそれから導いた作戦だ。


「まずは、敵についてお話します。……正直、この仮説が間違っていてくれた方がいいぐらいの相手なのですが」




***




「うむむ……どこから入れば……」


時は少し前に(さかのぼ)る。


ユーガは望遠鏡を覗き込み、唸りを上げている。

円の中に見えるのは、絶壁だ。


大教会と呼ばれる塔は、エトワールで最も高い建物だ。壁にはいくつもはめ込み式の窓が取り付けられている。


最上階部分は、壁が取り払われ、屋根にぶら下がる鐘が露出している。


「やっぱ、二か所しかないか……でもどっちもどっちなんだよな」


ユーガは大教会攻略のための手がかりを得るために魔道具屋から借りた魔道具『月見筒』。

筒の形をしたこれは、覗き込むと遠くがよく見えるという代物だ。


しかし、よく見えたことにより更なる難関がユーガを悩ませる。

大教会に侵入できそうな経路は正面の入り口と、先ほど見た最上階部分だけだ。


普通に考えれば、使えるのは入り口のみ。

が、仮に塔が的に占領されていた場合、当然そこが重点的に守られることになるだろう。


「正面突破するしかないのか……流石に最上階まで登ってって言うのは無理だしな……ん?」


視界に、人が映り込む。

横を向いていて、こちらに気づいていない。


ユーガは相手のことをよく観察する。


紫色の長髪を後ろに流した男。背丈はかなり高い。

クロワールではあまり見慣れない服に身を包み、瞳の色は……黄色?


この特徴、もしかして。


あ、目が合っ───




***




何が起きたか分からなかった。

ユーガが気づいた時にはもう既に床上に倒れ込んでいたのだ。


いつものごとく周囲には自分のものと思われる血溜まりが。


『──見られたら、終わりなんです』


その言葉を頭の中で響き、ユーガは仮説を得た。


「見られたら、即死の厄介な敵だ。建物の影とかに隠れながら、何とか近づかないと」


「そうでっすね。とりあえず今は慎重に進むしかないでっすが」


ユーガは現在、コルと共に大教会を目指している。

今いるのは住宅街───かろうじて石造りの家々が残っている一角だ。


敵は大教会を占拠していると考えたユーガは、相手の能力の予想と、その状況とを組み合わせ、ある結論に辿り着いていた。


「敵の本丸は、教会から動かねぇ」


敵は、安全なところから、こちらの英気を徐々に蝕んでいく。

自分は絶対に倒されず、相手の物資や精神の限界まで追い込むつもりなのではないか。


それが1番安全、効率的だ。

権限を持ってなくてすぐに死んでしまうユーガならそうする。


「だから、その前提で俺たちは動かせてもらう」


もちろん、敵が命がたくさんある、なんてチートだった場合はそれで終了な訳だが。

そんなことばかり言って悠長にしてられないのも事実。実際、敵の思惑通りに消耗戦に持ち込まれているのだ。


体を張れるユーガが動かずして誰が動くのか。

もちろん、作戦に協力してもらうコルや他の仲間たちには申し訳なく思う。


彼らにも、権限のことは隠している。

自分だけ、安全なところにいる。まるで敵と同じではないか?


「でも、俺が、俺が全員救わなきゃ」


と、そんな実感は食いしばる奥歯で噛み潰す。

他でもないユーガが、皆んなを救うのだ。絶対に。


「半分は来たようでっすね」


正面を警戒していると、背中から声がした。

振り返るとコルが緊張感もありながらも、過度にこちらにプレッシャーをかけないように努めているような、そんな表情でこちらを見ていた。


「思ってた以上に遠いですね、大教会。よく今の所敵には会ってないけど……」


「そうでっすね、ただ、この方法なら見つからずに行けると思うのでっす」


常に屋根の下で動き続ける。それが必勝法だ。

ただ、無事な家ばかりではない。この先、教会に近づくにつれ全壊してしまった家や、屋根が破壊された家もあるだろう。


なのでそこは、


「私の出番でっす。任せるでっす!」


そう、コルの秘策──それを信じるしかない。


後は──


「俺の権限頼りで、相手の能力に確信が持てれば最高だぜ……!」


そのためにも、今は少しでも遠くへ。教会まで乗り込めれば状況は変わるはずだ。


お互いへの信頼の上に成り立つ戦法でユーガたちは少しずつ、教会へと近づいていく──




「──あぁ、分かっているとも、知っているとも、感じているとも!」



「な、なんだ?!」


直後、頭上の屋根が崩壊、コルと共に飛びのく。

爆炎が頬を焦がす感覚に顔を顰めながら正面を見据える。


目の前には、無惨に破壊された家屋と周囲まで広がり、ゆらゆらと揺らめく炎が一面に敷かれていた。


その炎の中、ゆっくりと立ち上がった影が一つあり──


「申し遅れたのを謝罪するとも。分かっているとも!」


炎に焼かれた家屋だったものが次々と消失し、炎の勢いが弱まっていく。

そして、炎の中の凶悪な笑みと目が合う。




「ワタシは、魔人国ウルティス、『閻魔軍』が『胴』──ドッジだとも!」




困惑するユーガ達の眼前、大仰に手を広げ、紫色の短髪の少年がそう述べたのだった。

その黄色い双眸を細めて。

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