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パン屋の勇者討伐~ラスボスは歴代最強勇者です~  作者: 一筆牡蠣
第三章 『異端者達のお茶会』
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第三章 第3話 『路地裏の再会』

ユーガは大きな袋を抱え、城下町の道を踏みしめる。


ずっしりとした重みを両腕に感じながら、転ばないように気をつける。


袋を落とせばタメゴも割れるだろうし、ミウクの瓶も転がっていけば追いつくのに苦労しそうだ。


「だけど、広すぎて迷うぞこれは……」


首都は円状の大地ににそびえる『奉星城』を中心に放射状にまっすぐに伸びた大きな道と、城を囲うように同心円状に作られた複数の道により、どこに行くにも不便の無いようになっているのだ。


幾つもあるまっすぐの道と円状の道が交わる交差点には、見慣れない形をした像が置かれている。全て同じ形をしているので何か意味があるのだろうか。


しかし、さすが世界三大都市なだけあり、規模感がエトワールとは段違いだ。

恐らく外周を歩くだけで、数日はかかるだろう。


そのため、首都での移動手段は『浮遊版』と呼ばれる魔道具が通常だという。

残念ながらマソの無いユーガには関係の無い話なのだが。


「意地張らないででソレイユに着いてきてもらえば良かったな……」


今回はソレイユを迎え入れるためのユーガの一大仕事なのだ。


彼は初めて首都を訪れるユーガを案じて、着いてくると言ってくれていたのだ。


しかし、ユーガ的には自分の力だけでミラからソレイユを勝ち取ることに意味があると思い、その申し出を断ってしまった。


「めっちゃ丁寧に道順も目印も教えてもらって、自信満々で出てきたは良いんだけど」


蜘蛛の巣のように広がる道に、道順を覚えたという自信に暗雲が立ち込める。


「こっちだっけか………」


そんな状況だが、今回ばかりは遅れる訳にはいかない。


自信が無いながらも、時間に間に合わせるために急いで進んでいく。


こちらで合っていてくれと願いながら。




-◆◇◆-




「迷ったなぁ………」


案の定、全く見たこともない道に入り込んでしまい、俺は方向感覚を完全に失う。


「道がどんどん細くなってってた時点で引き返すべきだったな……」


既に裏路地らしき場所に来てしまっており、大通りとは異なる雰囲気が漂っている。


頭上には建物と建物の間に張られた線に洗濯物がかけられている。


直線路なのもあり、閉塞感を感じる。


薄汚れた外壁や点在するゴミは、薄暗い路地裏を一層物々しい雰囲気にしていた。


「一本道で逃げ場無いし、こういう道に来た時ってだいたいロクな目に……」


「よぉ、兄ちゃんよぉ」


「ほら来た……」


声がして振り返ると、明らかに穏やかでない者たちがニヤニヤしながらこちらを見ている。


狼族、鼠族、蜥蜴(とかげ)族の三人組だ。


狼族の青年はボロの服を着ており、痩せた体型が服越しにも分かる。灰色の毛は薄汚れており、住んでいる環境を暗示させた。


背丈の小さい鼠族の少年、青年にも見えるが、彼は帽子を深く被り、腕を組んでいる。服も、おそらく元は質の良いものだったであろう上着を着つぶしている。


蜥蜴族の男は、スラリと長い背丈を穴だらけのローブに包んでいる。ローブからはみ出したしっぽをゆっくりと左右に振っている。


「いいもん持ってんじゃねぇの」


「俺っちたちにそいつをよこしな!」


「痛い目見たくなければな……ふへへ」


「すっごい典型的な悪役だ……」


ユーガはもはや感動すると共に、事前に持っていた情報との一致に納得する。


実は、近年首都の治安が良くないということはソレイユから聞いていた。


歴史的に見て、クロワールほど多民族に寛容な国は多くない。


これまでにも、どのような種族でも受け入れるクロワールには多くの移民が流れ込んできた。


閲星教の教えに従い、この国の人々は大魔道士、つまりティアを敬う者であれば基本的には拒まないのだ。


問題は、その移民の数がここ数年で数が倍増しているということである。


理由としてよく挙げられるのは、近隣諸国の情勢の悪化。魔人国ウルティスの政策転換もそれに拍車をかけているという。


その影響で危険な薬物が一緒に流入したり、職が手に入らなかった移民が貧民街を拡大しているのだ。


中には、正当な手続きを取らずに密入国するものもいるという。その場合、『閲星教』の教えを知らない者も多く、文化の差異から争いが起こることもあるとか。


中でも多くの人が集まる首都はその典型的な例なのだ。


「まぁ、こいつらもきっとそんな状況に苦しんでんだろうな」


格好を見るに、こいつらもそんな情勢の変化の被害者なのだろう。

本来ならば、手を差し伸べるべき相手なのかもしれない。


「おい!聞いてんのか?渡すもん渡しな!」


「一応聞くんだけど……嫌だって言ったら?」


ユーガが尋ねると三人は顔を見合わせ、


「痛い目にあってもらう!」


「俺っちたちがお前を痛めつける!」


「痛い目……ふへへ」


三者三様の、しかし息のあった返答があり、穏便に済ませるのが不可能だということが確定する。


かと言って、正直ユーガが勝てる相手かと言われれば、微妙だ。


狼族の鋭い牙と爪。鼠族の俊敏さ。蜥蜴族の長い体を使った攻撃。


丸腰の俺が勝てるかどうかは運次第。


しかもそれは一対一の時の話。

数で不利の今は、確実に負ける。


「ここに来て負け戦かよ……。袋は渡せねぇし……」


ひとまずユーガは戦闘になっても良いように袋を地面に置き両手を空ける。

その間も、男三人はじりじりとユーガとの距離を詰めてきている。


「くっそ、遅れられねぇし、一か八かやってみるしかねぇか……!」


「困っているようだね」


「ん?上から声?」


ユーガと男達は、声がした方を見上げる。


「誰だ?あんな所に」


見れば頭上、洗濯物を干している線の上に座っている人影が目に入る。


眩しい太陽の光で逆光になっており、ユーガはその姿を確かめようと目を細め───


「えぇ?!ティア?!」


美しい腰まである金色の髪。

宝石のような美しい深紅の瞳。

足の辺りまである丈の長い白いワンピース。


白い花があしらわれた髪飾りを髪につけているこの少女は、ティアで間違いない。


「そう、私だ!喜べ!ははは……って、わ、わぁぁぁぁ!」


線の上に立ち上がり、腰に手を当て誇らしげにするティアが、体勢を崩し地面に向かって落ち始め──


「おりゃぁぁあああああ!!」


「ひゃあ?!」


ゴロツキたちも呆然とする中、ユーガは思わず走り出しティアをなんとか受け止める。


全身を擦りむきながら、飛び込んで腕の中にティアを収める。


「何やってんだ!危ないだろ!」


「う……ちょっと驚かせようと思っただけなんだけどな……」


申し訳なさげにティアは小さな体をさらに小さくしている。


何だか小さい子供を叱っているようでなんだか心苦しくなってくる。何千歳とかのくせに、厄介だ。


「全く……俺が受け止めそこなったらどうするつもりだったんだ?」


「それは……」


人差し指どうしをくっつけて本物の子どもかのように俯いている。

しらじらしい。が、ちょっと可愛いかも……?


「ボロボロになって受け止めてくれたことはありがたいんだが……私、浮けるからさ」


「は?」


「ごめんごめん!怒らないでくれ!」


申し訳なさそうにしているが、実は全く申し訳ないと思っていないであろうティアを睨みつける。


こんな掛け合いも久しぶりな気がして、ユーガは思わず頬が緩んでしまう。


と──


「おい、俺たちを無視してんじゃねぇよ!」


「そうだ!俺っちたちがいるんだ!」


「忘れないで……ふへへ」


いつの間にかならず者たちがユーガ達の背後まで近づいてきていた。


蜥蜴族の男は先程よりもいやらしい笑みを深めており不愉快だ。


ユーガとの再開に割り込まれ、ティアは少し不機嫌そうに、


「今から三秒やろう。私たちの目の前から消えろ」


と人差し指を立てて男たちを睨みつけた。


「おお怖い怖い!」


「俺っちたちがガキンチョにびびるわけねぇだろうがい!」


「かわいい……ふへへ」


「なんだこいつら気持ち悪いな……これで三秒だ」


次の瞬間、ティアが真顔でそう言ったかと思うと路地裏が光り輝き──





-◆◇◆-





「殺してはないぞ。まぁ出てくるのは相当大変だろうがな」


「いやまぁ……お気の毒にだな」


一瞬にして地面に埋められてしまった男たちに涙を禁じ得ない。

地面から白目を剥いた三つの頭が生えている。


「てかそもそも三秒で見えないところまで行くのは無理があるんじゃね……?ほら、ここ一本道だし」


「そんなことはどうでもいいんだよ!ほら、今は久しぶりに再開した私の姿に喜びを爆発させても良いんだぞ?」


ティアが薄い胸を張り、誇らしげな顔をしている。

なかなか単純に可愛いと思わせてくれないのがこいつの面倒臭い所だが。


「そうしたいところは山々なんだけどよ、今はちょっと今すぐに向かわなきゃ行けないところがあるんだよ」


「なんだ、そうなのか。どこだ?」


「タイラ家の屋敷らしいんだけど、どこか分かる?」


「タイラ家だと……?そんなまさか……いや、今はいいか」


ティアが手を顎にあてて何か言っているが、ユーガとしてはそれどころではない。


「何ぶつぶつ言ってんだよ。今俺は道に迷って超困ってるんだよ」


「なんだ、そんなことか。ほら」


「おぉ!すげぇ!なんだあれ!」


ティアが指を鳴らすと、空に光の柱が立ち上がった。

恐らくあそこが目的地だろう。


構造上、首都に行き止まりは基本的に無いのであの方向に向かえば目的地に着けるはずだ。


「でもこれって他の人びっくりさせるんじゃね?」


いくら魔法都市とは言っても、街中であんなに派手な魔術を使うのは目立つのではないだろうか。

何かの攻撃と思われても仕方がない。


「契約している者同士しか見えないようにしてあるから問題ないさ。そもそも、私の魔術は高度だからね。並の人間には普通の魔術でも認識できないさ」


「へー、そういうもんなのか」


正直魔法が使えないユーガにはその凄さはよく分からない。

この自慢げな精霊を見るに多分凄いことなのだろう。


「とりあえずありがとな!急ぐから行くわ!」


ティアに礼を言い、ユーガは地面に置いた袋を持って立ち上がる。


「そういえば、ティアは一緒に来ないのか?」


ユーガはそもそもの問いを口にする。


ティアは、なるべく人に干渉しないとか言ってなかったか。そのせいでユーガは一人でエトワールへ向かったのだ。


なのに彼女は今ここにいて、あろう事か三人を地面に埋めている。

ユーガと同行するために現れたのだろうか。


「いや、私は首都で少しやることがあってね。とりあえず今は別行動と行こう」


ティアの含みのある言い方に引っかかるが、今は時間がない。


「そっか、じゃあ、また後でな!」


ユーガは目印に向かって走り出す。間に合うといいが。


「あぁ、また後で」


背中にかけられる声を聞きながら、路地裏に三つの頭を残してユーガはティアと別れたのだった。

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