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パン屋の勇者討伐~ラスボスは歴代最強勇者です~  作者: 一筆牡蠣
第三章 『異端者達のお茶会』
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第三章 第2話 『その結婚ちょっと待った』

「ちょ、ちょっと待て!結婚ってどういうことだよ!」


ユーガは慌ててソレイユを押しのけ、ミラとソレイユの間に入る。


しかし、


「うるさいのじゃ。端役は端役に徹するがよい」


「ぐぬぬ……」


傲岸不遜な物言いにユーガは歯噛みする。


ミラは、あくまで自分とソレイユの世界に入ってくるなと、そう主張しているのだ。


「でも反論出来ないのが痛いところ……」


ユーガだって、自覚はあるのだ。


ソレイユという、ユーガが普通に生きていれば決して関わらなかったであろう人物の人生に足を突っ込んでいると。


彼の高潔な生き方も、部下に慕われるその人望の厚さも、すべて魅力的この上なくて。


ユーガとは、全く異なる人生の主役。


だからこそ、彼が求婚されるのも、実は分かる話ではある。唐突すぎて驚いているだけで。


この場において、最もソレイユと関係がないのは、ユーガだ。無理に関わろうとしている自分なのだ。

場違いだ、という指摘にも一理ある。


正直、突然の求婚にとやかく言う権利はユーガに無い。


しかし、それはとても寂しいことで。


「えぇ……ユーガ、どうすりゃいいんだ、これ……」


「そりゃ、男らしく、受け入れるかどうかはっきりと、って……ソレイユ?」


いつもの自信に満ち溢れたソレイユを期待して振り返ると、彼の顔がだんだんと青ざめていくのが見えた。


「俺、女の子から好意向けられるのとか初めてすぎて……無理……」


「は?!」


みるみる顔色が悪くなっていき、手で口元を押さえているソレイユを見てユーガは驚愕。


ソレイユが女性に弱いという話は聞いたことがない。


しかし今目の前で『幻竜』にも物怖じせず立ち向かっていた男が、瀕死の様相を浮かべている。


「お前、女性スパイの誘惑をはねのけたってあったじゃん!そういうの慣れてるんじゃないの?」


「………俺はそんなの知らない」


噂に聞いた逸話を本人に否定されちょっぴりショック。

もしかすると、彼は当時、普通に好意に気づかなかっただけなのかもしれない。


しかし、天然の鈍感男ほど厄介なものはない。


実際、彼ほどの男ならば好意を向けられることは珍しくないはずだ。初めて、なんてことはあるはずが無い。


ここまで直球の求婚で初めて気づく程なのだろうから相当だ。


ユーガは、どれほど多くの女性がソレイユを前に散っていったのか思いを馳せる。


「いや……鈍感すぎるだろ……」


「ユーガ……あとは頼んだ……」


「いや無理だよ?!さっき俺邪魔者扱いされてたの見てたよね?!」


ソレイユが身をひるがえし逃げようとしているのを手を広げて阻止。

どのみちユーガが解決できる問題ではない。


ただ、苦手なものに無理やり向き合わせるのも忍びない。


ひとまずユーガができることと言えば───


「なぁ、ミラ、って言ったっけか。ソレイユと結婚して、どうするつもりなんだ?」


出来るだけ、ソレイユに対するミラの考えを引き出しておく。


ソレイユも、どういった決断をするにしても相手のことは知っておいた方がいい。


考えてみれば、初対面の相手に、あまりにも直球で、遠慮の無い質問。


そもそも乙女の恋路にズケズケと入り込むなど、人道的に許されない。間違いない。

ただ、これまでのミラを見て、遠慮をすべき相手では無いと判断したのだ。


傲岸不遜で、物怖じせず、迂遠な言い回しを好まない性質。


これまでパン屋として多くの人々と関わってきた経験が、数少ない会話から彼女像を浮かび上がらせていた。


「……どうしたんだ?」


それ故に、彼女の反応が予想外であり、ユーガは軽く驚く。正直、即答で答えが得られることを予想していた。


恥じらいに苦しんでいる、などでは無い。


ミラは、視線を彷徨わせ、答えを自分以外のどこかに求めるような───


「──それは勿論、寝食を共にし、妾の望む家庭を作るのじゃ」


しかし、それも一瞬のこと、彼女は変わらぬ様子でそう言い放つ。

ユーガが期待していた端的な答えを、自信に満ち溢れた顔で返したのだ。


ミラの反応が少々気になるが、ここで立ち止まっていては話が進まない。


「なるほどな。じゃあ、お前はソレイユと普通の夫婦みたいに暮らしたいってことだな?」


「普通の夫婦、とは言ったものじゃ。まぁ、貴様の思い描く夫婦が妾の望む物と同じなのならば、そうじゃ」


「そうか。こりゃソレイユもしっかり考えなきゃ……って、望む物……か。──そういえば」


堂々たる彼女の言葉の中に、ユーガとしても聞き逃せないものがあり、ユーガはハッとする。


「なんでこんな大事なこと頭から抜けてたんだ……!」


『幻竜』とミラの件で頭から抜けていたが、そもそもユーガがソレイユに近づいた目的。


それをミラの言葉のおかげで思い出す。

絶対にぶれない、俺の究極目標。


──勇者の討伐。


そのためにも、彼にはユーガと一緒に来てもらわなくてはならない。


ミラがいなければ、もしすると俺がソレイユに近づいた理由を、ソレイユと別れる時まで忘れていたかもしれない。


だから、ミラに感謝だ。



そして──




「じゃあ、俺はその結婚に反対させてもらう」




臆することなく、その恩を仇で返そう。

ユーガの願いと、ミラの願いは同時には叶わないのだから。


「何を言っておる。先にも言ったであろう。部外者は黙っておれと」


「そうだよ。俺は部外者だよ。ソレイユとも、そんなに長いこと関わってきてないよ」


確かに、ミラや、クロワールの人々の方がソレイユのことを知っているだろう。


そして、その分だけ彼の人生に踏み込む権利があるのかもしれない。


部外者の、新参者のユーガに、関わるなと言いたくなるのも当然で。


「でも、ソレイユには、俺と一緒に旅をしてもらいたい。──俺の、願いを叶えるために」


ミラが求婚してソレイユの人生に入り込もうとするなら、ユーガにだってそれは出来る。

望みを叶えるためには、他人のことなど気にしていられない。


ユーガの成したいことをするために、ソレイユは必要なのだ。


しかし、問題となるのは──


「ほう?ソレイユは国のために身をささげた騎士。これまでにも個人的に雇おうとした馬鹿者が居たと言うが、すべて断られているのじゃぞ?」


「……わかってる」


他の人が何と言おうと、ユーガがそれを無視しようと、ソレイユ本人に拒絶されればどうしようもない。


当たり前だが、彼の人生は彼のものなのだ。

他人が入り込めるかどうかは彼が決める。


ユーガも、たった一回共闘しただけで勇者討伐なんて狂ったことを一緒にやってくれるとは思っていない。


ましてや、どれだけ金を積まれても揺らがなかったという、あのソレイユだ。一個人の為に、簡単に動いてくれるとは思っていない。


だからこそ、ユーガはもう既に手を打ってある。


「パン・デ・チョコラット」


「──────」


「ぱん……なんと?」


聞き馴染みの無い単語にミラが怪訝な顔をするが、ソレイユは目を丸くして息を飲む。


「俺が作った最高傑作のパンだよ。それはもう、一度食べれば忘れられないような」


ユーガは踊るように自分のパンの魅力を熱弁する。

が、ミラにあっさりと流された。


俺はエトワールでの出来事に思いを馳せる。

ソレイユは既にパン・デ・チョコラットを口にしているのだ。……正直その時の反応は芳しくなかったが。


だからこれは賭けだ。

ティアが言っていた通り、いくら強い戦士でも、食事はとらなければならない。


「それなら、食べるもんは少しでも美味いほうが良いだろ?俺なら、ソレイユにあのパンを提供できる」


彼が少しでもユーガのパンに魅力を感じてくれているのなら、ユーガの提案にも乗ってくれるかもしれない。そんな希望的観測だ。


これがユーガの出せる手札だ。あとは願うのみ。



しかし、ミラはそんなユーガの希望を嘲笑し、


「よほど自身があると見える!面白い」


声高々に笑う、をまさに体現したような様子のミラはソレイユの方を振り返る。


「しかし、食べ物ごときでソレイユが動くとは……ソレイユ?」


「……あの味が、忘れられねぇんだ」


「ん?何を言っておるのじゃ?」


ソレイユが拳を握りしめ、悔しそうな顔をして俯いている。

そんな様子のソレイユに、ミラもただ事ではないと、動揺を隠せない。


「そもそも、俺の好物はチョコレット。それをあんなに美味いパンに使われちゃあ……」


「ソレイユ?!何を言っているのじゃ?!」


度重なる問いも、今のソレイユには届かない。


「ユーガ。そもそも俺はお前に命まで救われてんだ。うめぇパンも食えるってなれば、迷う理由がねぇよ」


「やめるのじゃ!ソレイユ!それ以上は!」


ミラの悲痛な叫びが響き渡り──




「──ユーガ。俺はお前に力を貸そう。旅に同行させてくれ」




「ソレイユ……!」


「そんな……み、認めないのじゃ!第一、そんなに美味なパンがあるのなら、妾の耳にも入っているはずじゃ!」


「あいにく色々と忙しくてしばらくパン焼けてなかったしな……」


「それに、エトワールと首都は遠い。話が遅れてくるのもいつものことだろう」


頬を掻くユーガの隣に移動したソレイユは、納得だ、と言わんばかりに頷いている。

そんな二人の姿を見てミラは悔しそうに震えている。


「……じゃが待て。妾の婚約の話はどうなる?」


そんな時、ミラがそもそもの議論の火種に話をぶり返した。


ユーガ、いやソレイユにとって、ミラの求婚はまず解決しなければならない問題であるのだが──


「それって今すぐにじゃなきゃダメなのか?」


「ふむ?」


ユーガが挙手してミラに質問する。

彼女は続けろと言わんばかりに顎をしゃくる。


「俺たちの旅が終わるまで、ソレイユの答えを保留にしておいてくれないか」


「妾に待て、と?」


「そうだ。ソレイユに考える時間もあげられるし、俺の願いを叶えることも出来る。一石二鳥だろ?」


ミラは顎に手を当てて少し考える。


「貴様の旅とやらはどれほど長いのだ?」


まもなく再び口を開いたミラに問われたそれは、ユーガが最も恐れていたもの。


実際、勇者討伐にどれほどの時間がかかるかは分からない。


ティアの話によれば、今代の勇者は飛び抜けて強いと言う。なにせ、最強と呼ばれた魔王を倒したのだから。


そんな相手と戦うのだ。そもそも準備に相当時間が必要だし、戦うのも、一朝一夕には終わらないだろう。


だから、一年なのか、十年なのか、それ以上なのか。

全く予想がつかない。


普通ならば、ここは誤魔化して場を丸く収めるのが最善主なのだろう。



しかし──



「それは………分からない」


ユーガは正直にそう答える。


自分でも、なぜそんな風に言ってしまったのかは分からない。

だが、ここは嘘で濁すべきではないと感じたのだ。たぶん。


正直待てと言っておいてどれぐらいの長さか分からない、というのは無責任極まりない。

ミラが提案を拒絶したとしても、当然の反応だろう。


正直に言ってしまったことを少しだけ後悔しているが、おそらく誤魔化していた場合はより煮え切らない気分になっていただろう。


だから、この判断が自分の最善だと、ユーガは信じることにした。



ユーガが見守る中、ミラはしばしの間思案して──



「分かった。妾が貴様のパンを食べてやろう」


「へ?なんで急に俺のパン?」


流石に結婚の話とは繋がりがない気がしてしまい、ユーガは呆けた声を出す。

この女はつくづくユーガの予想を裏切る。


「いいからさっさと準備を始めるのじゃ……妾が、そのパンとやらがソレイユが折れるのに相応しいものかどうか、見定めよう」


理解していないユーガの質問を一蹴し、ミラは赤い舌を出し、舌なめずりをした。



「妾が貴様のパンで満足すれば、ソレイユとの結婚を延期することを認めよう」



ミラは、野心を瞳に宿しそう言い放ったのだった。

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