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パン屋の勇者討伐~ラスボスは歴代最強勇者です~  作者: 一筆牡蠣
第二章 『クロワール奉星国』
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第二章 第12話 『顕現』


何度繰り返しただろうか。

蘇り、殺され、蘇り、殺され。


「もう、いや、だぁぁぁぁ!!!」


俺は頭を思い切り地面に打ち付ける。


そこまで固くない地面なのにも関わらず、額が割れ、血が吹き出す。


ただ、分かっている。こんなことをしたとしても俺は死ねない。何にもならない。


また俺は、命を浪費している。


散っていった騎士たちのために戦うとか、そんな大層な事は出来ない。


「俺だって、そんなかっこいいことやりてぇよ……でも、出来ねぇからこそ嫌になるんだよ……」


彼らがこの権限を持っていたなら状況は違っただろう。


「なんで、俺なんだよ」


そもそも勇者一行がいなければ。

俺の町は壊滅せずに済んだだろう。


「なんで、俺なんだよ」


町が壊滅した時に、俺も一緒に死んでいれば。

俺はこんな思いで生きていることも無いだろう。


「なんで、俺なんだよ!」


都市の中で竜に襲われなければ。

俺は、俺たちはここに来る必要すらなかったかもしれない。


「なんで、俺なんだよ!!」


優秀な戦士が死んで、何も出来ない俺が生き残っているのだ。これはきっと、何かの間違いで。


「なんで、俺ばっかり!」


なぜ俺ばかり、こんな目に会うのだ。


そして、なぜ俺がいるところで、皆不幸になっていくのだ。







なぜ世界は、こんな風に出来ているのか────






「な……………なん、だ?」



と、不意に視界が歪み、俺は驚いて顔を上げる。


文字通り、本当にぐにゃりと歪んだのだ。


あまりにも異質。


空間がねじ曲がるなど、魔法を使ったとしてもほとんどありえないことで────


俺は目眩と吐き気を覚え、倒れ込む。

吐こうとしたのだが、当然空の胃からは何も出ない。


「どう、いう、こと………あたま……?」


打ち付けすぎて頭がやられたのだろうか。

俺は、ゆっくりと顔を上げる。




「……………へ?………なん、で」




─────俺の目の前に、竜が佇んでいる。


奴は、黄色の眼でこちらを睥睨している。

静かに、ただこちらの様子を伺っているようなのだ。


そのまま、お互い視線が合ったまま動かずに、永遠とも思える時間が流れて───


「っ、ぎ、がぁぁぁぁああああ!!」


竜はおもむろに前足を上げ、その命を刈り取る爪で、俺の肩から反対側の腹にかけてを抉った。


軽い一振り、だがその威力は俺にとっては致命的で。


「はぁっ………はぁっ……………」


苦しみ終えた俺の目には、竜の姿はなく、漫然と広がる霧のみが写っている。


なん、だ………?

突然の変化に、俺は少しだけ落ち着きを取り戻す。


俺はふらつく足で立ち上がり、かぶりを振る。


「が、ぁああぁぁぁああぁ!!」


「ソレイユさ……………ん?」


俺は未だに暴れ続けるソレイユを見て、違和感を覚える。


「傷……………?」


そう、彼の体には、今なお新たな傷が刻まれていっているのだ。


右の太もも、左の前腕、脇腹、と、次々と浅い傷が刻まれている。


そして、響き渡る轟音。盾と何かがぶつかる音。


つまり────


「相手は…………見えない攻撃をしてるってことか?」


辿り着くのにあまりにも時間がかかったが、恐らく今俺たちは、不可視の攻撃を受けている。


「がっあああぁぁぁあ!!まだ、まだぁぁあ!!」


もう一つ、俺は自分の思い違いに気づく。


ソレイユは、狂った訳ではなく、あくまで攻撃を防いでいたのだ。


絶え間ない攻撃を、ソレイユは盾で弾き続けている。が、当然不可視の攻撃を全て防げるはずもなく、所々被弾もしている。


恐らく、ソレイユは()()()なんとか攻撃を防いでいるのだろう。


「がぁぁぁぁぁ!!!!」


威勢の良いソレイユの咆哮が響き渡る。


彼は、消して諦めてなどいなかったのだ。


俺が勝手に打ちのめされている間も、こうして一人で戦っていたのだろう。


「ソレイユさん……………」


盾で猛攻を弾く絶え間ない轟音。

もはや衝撃波のような音だ。


背、腹、首、足首など、まるで盾が生きているかのように流れるようにソレイユを守る。


普通の人間には不可能な、圧巻と言えるその所業。だが────


「だけど、このままじゃまずい……………!」


一方的に蹂躙されるだけのこの状況、打破しなければソレイユとてジリ貧だろう。


それに、今はソレイユが戦ってくれているから良いが、彼が死ねば全ての攻撃が俺に向くだろう。


そうなれば、俺は永遠に苦しみの中に閉じ込められることになる。


「何か………何かないか……………」


そういえば、先程の俺が見た何か。

それが答えに繋がっている気がするのだ。


考えろ。今までの知識もフル活用して。


俺は、弱者なりの足掻きを遂行する。


「ん……………………?」


ふと、違和感が脳を掠める。


その違和感は、手放せばもう二度と手に入らないものの気がして、俺は必死に手繰り寄せる。


何なんだ、この違和感は。辺りを見回し、記憶を辿る。


不可視の攻撃、戦い続けるソレイユ、無惨に横たわる騎士たちの死体、奇妙な地面、霧────


「がぁっ……ぎぁああぁぁぁあああっ!!」


不可視の斬撃が俺の右手右足を断ち切った。


くるくると、右腕が飛んでいく。

足を失い立っていられずに、俺は正面から地面に倒れ込む。


顔面が地面に直撃するのは、正面を向いてなんとか回避。


しかし、血が、止まらない。とめどなく手足から拍動に合わせて溢れ出ている。


痛みが脳を焼いている。


「ま、けてたまるか………!」


だが、俺は諦めない。

倒れて顔を正面にむけたまま、俺は歯を食いしばる。


ここで権限を使う訳にはいかない。


権限が発動した際は、数秒間、俺の頭の中が真っ白になるのだ。


恐らく今その状態になれば手がかりは俺の手元から離れていくだろう。


それだけは、避けなければ。


もう一度、整理しろ。落ち着け、俺。

涙目になりながら、俺は一度大きく息を吸い込む。


息を吐き、焼かれるような痛みの中、俺は一度目を閉じる。



「………………霧?」


斬撃の前に頭に浮かんだ言葉の中で、霧、というものに引っかかった。


俺の記憶では、都市からこの島ははっきりと見えたはずだ。


船に乗っていた時も見えていた。不気味なぐらいはっきりと。


あの不気味さは、俺の頭にしっかりと刻まれていた。


だが今、この島は霧に包まれている。


「………変じゃ、ないか」


普通ならば、霧に包まれている場所は遠くになれば何も見えないはずではないか。


少なくとも、はっきりと見えることは無いだろう。


「しかも、俺は上陸した時のことを覚えてねぇ。この島での最初の記憶は…………皆で霧の中進んでる時か」


そこまで思い至ったところで、俺はティアのところで読んだ一冊の本に思い至る。


もしか、すると。


いや、もし違ったら?


「……迷ってる暇なんかねぇか。どっちにしろ、俺らはこのままだと破滅だからな」



そして─────



「ソレイユ!!!自分を殴れ!!思いっきりだ!」


俺はソレイユに喉がはち切れんばかりの声量で叫んだ。


力んだため、血がより勢いよく吹き出し悶絶する。


しかし、ここで彼に伝わらなければ意味が無い。必要な痛みだ。


彼は機敏にこちらに振り向き、


「────ッ、分かったッ!!」


と迷いなく応えた。


ソレイユがそう応答するのを聞き届け、俺は自分の頬を思い切り殴る。


「ってぇ………………」


利き手が使えない状況なので、あまり強くは殴れなかったが、鈍い痛みと共に、口の中に鉄の味が広がる。


間もなく、ぐにゃりと俺の視界が歪む。



そして───



「よかった、当たりか………」


「どうなってる?!」


うつ伏せの状態の俺は、安心して上げていた顔を下げ、頬を地面に付けた。


ソレイユは驚きを隠せない様子で、辺りを見回している。


「正直、これでダメだったら詰んでたところだった…」


「おい?!ユーガ、どうしたってんだ、その怪我は!」


「いやいや、どうってことない………よ」


俺は引き続き命を脅かす損傷に、笑顔が引き攣る。


「無理すんな!すぐにでも治療を施したいが……」


俺たちは、中心からでも端が見えるほどの大きさの島の上にいる。


今は霧が晴れ、それほど大きくない孤島を一望できた。


「まずは、こいつらを片付けないとな」


混乱していた様子のソレイユは、直ぐに落ち着きを取り戻し、正面を見据える。


なぜなら、目の前で──







三体の『幻竜』が、こちらを睨みつけているのだから。

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