職業【遊び人】階層ボスを倒します
第一階層の推定プレイ時間は4時間。まだまだ遊べますよ?
初期リスポーン地点から町とは反対方向に10分程度歩いた末にたどり着いた大きな洞窟。そこには違和感のあるほど大きな扉が据えてあった。
「この中です!」
「一緒に倒しましょ!」
なかなか肝が据わっている。まだ第一階層を調べつくせていないのに倒してしまっていいのだろうかと頭を掻くが、皆の希望の眼差しが痛い所を突いてくる。自分たちが倒せないからと僕を当てにするのはやめてほしい……
「とりあえずやるだけやってみるよ」
僕は扉に触れた。すると目の前に画面が現れた。
【第一階層ボス 大スライム討伐に参加しますか?】
「いぇす」
そう言うと共に視界が一斉にして変わった。各々が口々に驚きの反応を見せる。新鮮な初見の反応が見れて少し満足だ。
皆の転移に成功すると視界が途端に開ける。光の入る隙のない広い広い洞窟。壁面には水晶のようなものがいくつか見て取れる。地面は平らでいかにも戦闘が起きそうな雰囲気。そんな中、ど真ん中で堂々の登場エフェクトを行い現れるのは巨大な一匹のモンスター。
「出たぞ!」
「大スライムだー!」
推定からして僕の五倍以上はある大きな体、全身青い艶のある綺麗な肌、何処を見ているのか分からない目線はおそらくこっちを見つめていた。
大スライム
LV.10
HP 500/500 MP 30/30
「こうしてみると圧巻だね」
しかしどうやって倒そう。自身のステータス欄を開く。
【ステータス】
カリナ
Lv.7
職業:遊び人
HP 20/20
MP 20/20
攻撃力 1
防御力 31 +140%
魔法攻撃力 1
魔法防御力 1
素早さ 10 +50%
装備
頭 なし
身体 なし
右手 素手
左手 素手
足 なし
靴 裸足
装備 なし
スキル
【遊び人】【素寒貧 LV.MAX】【物理耐性 LV.9】【持久力 LV.3】【テイムスライム】【スライム支配】【無呼吸耐性】【七転び八起き】【積年の恨み】【石の上にも三年】【天使の加護】
おそらくここの推奨レベルは8くらい。しかし僕には推奨レベルというものは戦いの指標にならず、ただの数字に過ぎない。
僕の攻撃力1。スキル【スライム支配】のおかげと言えど与えられる攻撃力はたったの5だ。【積年の恨み】は大スライムには効かないし【七転び八起き】は【スライム支配】のせいで発動しない。
これは参った。乗り掛かった舟というものは一度乗ってしまうと降りることはできない。しかしここで自身の攻撃力の低さをアピールしたところで進捗は無いだろう。
あぁ、大スライムよ……そんな目で僕を見ないでくれ。
「すごい、お互い一歩も引かないぞ……」
「にらみ合って戦況が動かない!」
違う、僕に攻撃の手段がないだけだ。
しかし何故こんなにも大スライムはじっとしているのだろうか。まさか……
スキル
【スライム支配】
スライムはカリナを攻撃できない。また、スライムに対して攻撃力+400%
この説明の言うスライムとはスライム族のことを言うのだろうか? だとすると面白い、この勝負一方的な戦いができる。それに僕にはスライムにぼこぼこにされた際にゲットしたスキル【無呼吸耐性】がある! これはスライムに口や鼻をふさがれ息ができない状況になりつつも、スライムからの攻撃を受けない効果と重複してゲットしたスキルだ。
「胸が躍るっ!!」
僕は全力で呼吸を止める。
「―――」
すると、30秒ほどでダメージを受けるエフェクトを感じた。しかしダメージは0。だがスキル【七転び八起き】の効果は発動する!
スキル
【七転び八起き】
攻撃を受ける度に攻撃力が+7増える(+49まで有効)
どうやら他のプレイヤーたちは僕たちが睨み合いの熱い試合が行われていると勘違いしているらしい。なんだかんだで3分もすれば7回の窒息ダメージを得た。しかしダメージは0。それどころか攻撃力は+49!
ダメージ計算は基礎的な攻撃力に+割合のダメージが上乗せされる。今回の場合であれば僕のステータスである攻撃力1に【七転び八起き】の効果で攻撃力が50になる。それに【スライム支配】の効果で攻撃力は250。
とどのつまりは……
「動いたぞ……!」
「戦うのか!?」
「あいつ素手だぞ? 大丈夫か!」
そう口々に言葉を発するのもつかの間、そこにいるすべての人間が息を呑んだ。
「パンチ二発で、階層ボスを倒しやがった……」
後にこれが僕を代表する噂話になるとは夢にも思わなかった。
第一階層で手に入る装備ではどんな組み合わせでも攻撃力250は実現しない。
つまりこれはレベル上げによる努力の賜物か、最強スキルのどちらかしかありえない。