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職業【読者】上級銃士に手を貸すことにします

あんた、まさか嫉妬してんのか?

 イベント時間的には半分くらいだろう、少し疲れたため休憩しつつ索敵。

 広場片隅の家の陰で銃のマガジンを確認しながら辺りを見ていた。

 FPSプレイヤーとして足音には注意していたつもりだった。しかしいつの間にか首元には剣の刃があった。


「動くな」

「その声、ニーナか!?」

「久しぶりだな! アント、元気してたか!」


 剣をしまい俺の肩に腕を回すと、ヘラヘラと笑う白いメイド服を着た猫耳と二つの尻尾が生えた男。見た目は完全に女なのに声が低く奇妙な感覚に襲われる。

 しかしやられたと思ったが、身内で良かった。胸を撫でおろす。

 おそらくニーナの言った久しぶりは二人で話すのが久しぶりと言うことだろう。俺とニーナはあるFPSゲームで同じチームとして戦ったことがあるプレイヤー同士だった。


「お、おい……今はイベント中だ。俺とあんたは敵だってこと、分かってるだろう?」

「そう固いこと言うなよ、そんな関係だったか俺達!」

「昨日戦ったばかりだってこと、忘れたのか……」


 ニーナの性格はつかみどころがないというのが正しいだろう。

 普段は元気が全面的に出てきて暑苦しい奴だが、戦闘になると口が悪くなる。どっちが本当の彼かと言うより、どっちも彼の魅力だ。

 本来ニーナはVRMMOを専門としたプロプレイヤーだ。しかしVRMMOが流行る以前はFPSで強者の地位を手に入れていた。要は戦うゲームであれば何でもやるし何でも強い。


「てか、あんなに女の子に囲まれてたら元気じゃねぇわけねぇか!」

「成り行きだ、それに俺は囲まれていない」

「俺だってちゃんとアントと友達だって言わなかったんだぜ? そういやお礼を受け取ってねぇな!」

「うるさいやつだ、やっぱあんた普段と戦ってるときで性格変わるな」

「いいじゃねぇか、戦いは本気でやるもんだ。それで一つ提案がある」


 ニーナは広場の方にゆっくり歩く。彼の種族は猫又のため、おそらく足音を消して歩けるのだろう。

 しかしあいつがやる気だったら俺はやられていた、もう少し気を張らなければならない。


「提案?」

「そうだ。アント、俺と一時的にチームになろう」

「……はぁ? 何言ってる、あんたも俺も一対一の方が得意だろ。むしろ仲間をかばいながら戦うなんてできない」

「まぁまぁそう言わずに、一人よりも二人の方が強いに決まってる、そうじゃねぇか?」


 ニーナが広場の真ん中へと向かったため、俺もそれに付いて行く。おそらくプレイヤーをおびき出すためだろう、さっそく二人のプレイヤーが視界に入った。屋根の上と、後ろの小道。中距離武器で十分だろう。

 彼は片手剣を取り出すと剣をくるくると回す。


「お前の後ろの小道から一人来てる」

「そういうあんたの後ろには二人だ」

「俺の【猫騙し】は相手がこちらを認識していれば使うことができる。さすが俺、優秀だろ?」

「あんたが優秀なんじゃない、猫又がそういう技が得意なだけだ」

「よく言うぜキメラ……【猫騙し】」


 弾が多いタイプの中距離銃を取り出す。ニーナが姿を消した瞬間に引き金を引くと、小道にいたプレイヤーは驚いたように後ろに逃げ出す。しかしそちらは一本道だ。

 案の定一度のマガジンで削りきりもう一人の方を見ると、翼を使って飛んでいた。両手剣を持ってゆっくりとこちらへ向かってくる。

 銃をしまい背中からレッカから貰った銃を取り出すと、相手の方に銃口を向けなりふり構わず撃った。


「【百発百中】」



【百発百中】

 攻撃力×1000%のダメージを与える。必中。直後60秒間は攻撃力-50%



 弾が相手に当たったことを確認する、おそらくまだ倒れていないが一旦は逃がす。まずはニーナの支援だ。

 後ろを振り向き走り出すと、敵の背後に回ったニーナの姿が見える。スナイパーを背中にしまうと、威力の高いショットガンをインベントリから取り出す。


「ニーナ!」

「後ろからやれ」


 ニーナは敵の持つ片手剣を思いっきり蹴り上げる。俺は銃を構えて敵の付近まで近づき撃った。

 体力は少なかったようで、すぐに消えていなくなった。


「逃がしたなてめぇ」

「大丈夫、この銃の効果。撃った相手の位置が分かる」

「それを先に言え、追うぞ」



【マークスマーカー】


 作成者『レッカ』


 相手の位置が60秒間赤い点で表示される


 攻撃力+40



 ニーナは片手剣を持ったまま、俺を置いて走り出す。

 俺も中距離の銃に持ち変えると、赤い点の位置まで走る。

 そう遠くはないようで、家の後ろでじっとしている。


「その家の後ろだ、【オオカミの尻尾】」

「お前のスキルって名前だせぇな」

「……」

「絶対倒すぞ、あのド低能」


 この口調のニーナに話しかけるやつはニーナ初心者だ。

 長い間関わっているとこいつの扱い方にも慣れてくる。だからこそ彼女らにはニーナのことは教えなかったのだが……

【オオカミの尻尾】で速度を上げ家の屋根まで上るとプレイヤーの頭が見えた。構わず銃を撃った。


「……っ!」


 敵は翼で咄嗟に俺の目の前まで飛ぶと、両手剣を構えていた。

 しかし視界に入っただろう、ニーナの姿が。


「【猫騙し】」

「馬鹿、敵の目の前だぞ」


 相手はニーナの姿が見えなくなったことに驚き後ろを見た。その隙に相手の首を掴むと地面に叩きつける。

 ニーナはクスクスと笑うと俺の狐の耳を撫でる。


「やめろ」


 腹立たしい気分を相手を倒す原動力にする。マガジンを使い切るころには相手は赤いエフェクトを纏って消えていた。


「この戦い方はあんたに不利じゃないか……俺が三人とも倒してしまった」

「それでいいんだよ! 俺はどうせリーダーのためにこのイベントに参加してんだ」

「リーダー? あんたがチームのリーダーじゃないのか?」

「馬鹿言え、俺みたいなのがリーダーになれるわけないだろ?」


 片手剣を握ったまま歩き出す彼について行く。


「それにしても敵強くねぇか? お前がいなきゃやられてたかもな!」

「【神契り】があれば苦戦することはなかっただろ?」

「あれは相手の名前を知ってるから使えるんだ。お前の名前は知ってるけど、初めて会った敵の名前なんて知らないだろう?」

「俺の【鷹の目】が相手の名前も分かるタイプのスキルだったらな」

「今からでも運営に問い合わせてみるか! スキルつくってんのはAIだろ? もしかしたら採用されて最強ペアになるかもな!」

「冗談だよ」


 俺は口角を上げてそう言った。


お前! もっかいタイマンで戦ってみないか!?

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