職業【錬金術師】無限の世界に足を踏み入れる
マルチザンアーマーと特別な名前を付けましたが、見た目はただの鉄の鎧と変わりありません。
「この風景は……うーん、まぁまぁかなー」
辺りを見渡すと、どこを見ても木々ばかり。ここは一面が森となっている第三階層だった。私は視界が開くと同時にインベントリからひとつのフラスコを取り出した。
「よっしゃー、やるかー!」
【錬金術師】
様々なアイテムを作成可能。また、作成した装備品に特性を付けることが可能。(ステータス向上量はレッカの値に準拠)その代わりアイテムの売買ができない。
職業【錬金術師】の本質はアイテムの作成や装備品への特性付加。しかし付加を行うのはプレイヤー自身ではなく、フラスコや試験管を使って行う。
この作業はあの三人にはあまり見せたくない、なにせ可愛くないんだから。なんかいかにも科学者みたいだしちょっとメタっぽい。
私はその場に座り込むと、先に用意しておいたフラスコに入ったオレンジ色にキラキラと光る液体を鎧にかける。
【アルチザンアーマー】
作成者『レッカ』
防御力+30
プレイヤー、モブを倒した際のアイテムのドロップ率が大きく上昇
「これでおっけい! これも見せられないね」
アントやフラムが上位を目指している中、私はあまりイベントの戦闘には興味がなかった。
そもそも戦って勝つことにこだわらないし、どちらかと言えば私はサポートや裏方としていたいというのが本音だ。
「まっ、あんなかじゃ戦わなくてもいいなんて言いづらいしっ」
しかし今回のイベントでの戦いではできる限り勝ちたいと思う、それはこの鎧の効果だ。
この鎧の効果は今液体をかけたおかげでプレイヤーにも影響を及ぼすようになった。つまりプレイヤーを倒してもアイテムをドロップするようになった。
私の目標はこのゲームの全てのアイテムを取得すること。これまでに第五階層まで突破してきたが、実はすでに第五階層まででゲットできるアイテムは全て入手済みだった。目標は一時的とはいえ達成していた。
けれども人口知能程度では私の好奇心を止めることはできないっ!
「【幻影】」
先ほどまで座っていた私の頭に、矢が放たれていた。
しかし私の主人格はこの一瞬にして座っている方ではなくなった。そして今の主人格は木の後ろで隠れている方だ。
【幻影】は現在の主人格を透過体にして、副人格に切り替え、主人格をランダムな位置にスポーンさせる。
「おぉ、こわいこわいっ!」
いつの間にか真後ろまで居た可愛い犬の耳を持った初期装備のプレイヤーは、私の体を触れようと腕をぶんぶんと振っている。しかしその分身体はただ見えているだけにすぎない。
「【複製】……それにしても闇討ちは良くないよね」
私はそう言うと木の裏から姿を相手に見せるように現れた。そして予想通りの反応速度で魔法が飛んでくる。
「【リーフショット】!」
「それも本物じゃないって言ったら?」
「っ!」
「隙だらけだよ」
分身に主人格を移しお腹にゆっくりと剣を差し込んでいく。こうすればじわじわとダメージが与えられる、勢いよく切った時よりもダメージが増えて便利だ。ちなみにこのナイフも私のお手製!
犬耳くんは腰に据えたナイフを取り出し、私に向かって振りかざした。しかしすでに主人格を座っていた方に入れ替えてあるのだ!
複製系のスキルは自分を増やすことができる、そして一度のスキルで最大三体まで分身を生み出すことができた。しかし全て自分の意志通りに動かせるわけではない、そもそも人間の思考は一つだけだし、たくさんの視界を持ってしまっては酔ってしまう。
だからこそこのゲームでは主人格とそれ以外に分けることができる。ちなみに主人格以外を私は副人格と呼んでいる。
主人格はプレイヤー自身で、それがやられると分身も全て消えやられてしまう。
副人格はプレイヤーの動きを学習した人口知能だ、つまり私の動きを学習して動いてくれる。天才君だ。しかし突拍子もない事はしない、例えば走っているときに副人格に変えれば、その分身はそのまま走ってキリのいいところで止まる。要は動作を延長してくれるのだ。現に今もリーフショットを受けた分身は立ち止まったままだし、剣を刺した分身はゆっくりとナイフを突き刺していた。
私はそれぞれに指を差す。
「私の分身は三人まで召喚できる。今で言うと私と、さっきあなたが切った子と、後ろで立ってるこの三人」
「つまりお前が本物だな!」
「可愛い犬なのに、意外と声低いんだね!」
私は立ち上がると小さく微笑んだ。
そんな私に再度魔法が飛んできた。しかし彼もさすがに理解したのだろうか、後ろを振り向く。
「ご名答、私が本物だよっ! 【複製】!」
「は?」
「「【複製】」」
私の周りに二体の分身を出しそれぞれナイフと弓矢を持った。その二人が【複製】を使って分身をさらに四人増やした。そしてそれぞれ短剣、銃、杖、槍を手に持った。
私の行動に意味が分からず、相手は後ずさっていた。この瞬間がたまらなく楽しいのだ。
「ちなみに、スキル詠唱をするためには一度主人格に変えなきゃならない。つまり【複製】を使った分身は三人が限界なんだよねー」
「でも、お前、な……」
「あー」
分身体はプレイヤーを囲み終わると、各々の武器を構えた。
分身体の持つ武器の全てに同じ効果を付けた。
【鉄の剣】
作成者『レッカ』
攻撃力+5
この武器に触れた全てのエンティティはスキルの効果を一時的に無効化する
つまり【複製】を使っていない扱いになるのだ。だからこそ三体以上の分身を作ることが可能。ちなみに私の分身は【複製】を使った『結果』である。
まぁ要するに武器の数だけ、分身が可能だということだ。
「まぁ、君は知らなくていいんじゃない?」
その瞬間、全ての分身体が攻撃を始めた。
主人格と副人格の交換にはプレイヤーの思考を読み取る技術が生かされます。




