職業【読者】強い相手に耳が熱くなる
どうしてみんな彼の見た目に何も言わないんだろう……
【チーム『フラム討伐パーティ』との戦闘に勝利しました】
「よっしゃー!」
「カリナー!!」
「よくやった!」
そう言ってレッカとフラムは僕に抱き着いてくる。チームに貢献できた、そう思うと胸が高鳴った。
アントも口角を上げ、腰に手を当てた。
「カリナ、カリナか……」
目の前を見ると30人近くの大人数の先頭にたたずむメイド服の人。
そんな彼は俯くと小さくため息をついた。
「ニーナ……?」
「カリナ、カリナ! 強い、よかったぞカリナ!!」
そう言うとニーナは僕の手を無理やり握りぶんぶんと振り回した。
正直ニーナについてよく分かっていない僕は、何がなんだか分からずただされるがままになっていた。
「あの状況から勝てるなんてお前すごいぞ! すごいじゃないか!!」
メイド服に可愛らしい笑顔、華奢な腕から感じる細い体から発せられる女とは思えない声。
頭の仲が混乱していると、フラムが無理やりその手をどけた。
「私たちのカリナに触れるな」
「これはこれは、俺に二回も負けた雑魚魔人じゃないか」
「ま、負けた? でも、【読者】は……」
「たまたま奪われただけだ、その後の勝負では俺が勝った」
フラムは猫のように威嚇する、ニーナはそれを無視して後ろの団体に声をかけた。
「お前らもありがとう……! 今回は負けたが、今度は絶対に勝つ! また参加してくれ!!」
そう言うと大きな歓声が響く。口が悪いが信頼はされているようだ。なんだか微笑ましくなる。
「『フラム討伐パーティ』は解散するんだね」
「そりゃ今回の臨時チームだ、俺はすでに入るチームを決めている」
目の前に画面が現れたと思うと、大きな効果音が鳴った。
「これは……」
「チームに勝ったからな! スキルかアイテムがもらえるだ」
インベントリにアイテムがいくつか加わる。それに紛れて画面の端にはフレンド申請が届いていた。
ニーナの方を見ると、こちらに向かってウインクをした。可愛い、メイドで猫又の彼によるウインク。これを拝めない人がかわいそうで仕方がない……!
「ところで、どうしてこんなチーム作ったの?」
「PvPランキング上位三プレイヤー討伐が行われると聞いて、都合が良ければフラムのスキルを奪い返せないかと思ったまでだ」
「奪い返す? でもニーナはすでに【読者】だよね?」
「職業進化だろ? これ以上強くなられたら困ったもんだぜ」
「同感だ、まさか負けると思っていなかった」
そう言うとアントは自分の手を見つめた。【上位銃士】になってから一度も負けていなかったのだろう、相当悔しいに違いない。
「チームでは勝ってるからね! うちのカリナは最強だよ!!」
「あぁ、また戦おう。明日はイベントが行われる、それに向けて励んでくれ」
そう言うとニーナは振り返り皆の元へと走った。
「ニーナ……いい人そうだね」
「だ、騙されるなカリナ! 俺はあいつに二度もボコボコにされてんだぞ!?」
「そりゃそうだろう、ニーナと言えばVRMMOでは最強プレイヤーだ」
「え、そうなの?」
フラムは悔しそうに歯を食いしばる。
「メイド服のニーナと言えば大会の上位にいるのが当たり前のようなプレイヤーだ。おそらく次のイベントでも何かしでかすだろうな」
「でもランキングにはいなかったよね? 私の目が節穴だった?」
「職業【読者】は本を読むことでスキルや魔法を得ることができる。それに時間を費やしてたからこそランキングに乗ってなかったのだろう」
「そ、底が見えないね」
「私たちにはカリナがいる! 今回も勝てたでしょ!!」
「まったくだ」
アントは口角を上げる。こんなにも多彩な表情を見せる彼だったかと思うが、不思議と悪い気はしない。
まだまだ面白い要素が待っていると思うと、おのずと心は躍っていた。
上位にいるが一位にはいない、それが彼の本質だった。




