職業【遊ぶ者】混沌を見つめ思いにふける
ゲームスピードは任意で帰れますが、等倍でないとPvPができません。
第四階層の高野、太陽光がふんわり暖かい。
「えぇっと……フラム……?」
「どうしたんだ? 何かあれば言ってくれよ!」
そう言い親指を立てるフラム。
ご飯を食べひと段落ついた僕は、ゲームをログインすると早速三人のところへと向かった。
しかしそこに普段の三人はいなかった。
「よっしゃー! 張り切って第四階層のボス攻略だ! はははー!!」
「……」
「……」
謎のハイテンションで体中から何か変なオーラが出ているフラム、それを苦笑いしながら見つめる二人と開幕ログアウトしたくなる風景だった。
見たこともない引き笑いを見せるアントに、正直これ以上の絶望感を感じたことは無い。
「あの……どうしたの……?」
「遊び人、PvPのランキングを見ればいい」
アントはそう言うと頭を抱えてしゃがみこんだ、人間というもの限界が来るとこうもなってしまうのか? ゲームだよここ……
そう思いながらもひとまず画面を開く。いつものランキング欄、違和感はトップに鎮座する見知った名前。
【PvPランキング】
1位 『勇者』 トロイ
2位 『天文学者』 マゼラン
3位 『略奪者』 フラム
「これって……!?」
「すごいだろ! すごいだろカリナ!!」
そう言うとフラムは目を見開き僕の肩を掴み振る。
「やめて、やめて……頭がぁ」
「そうかすまん! それでどうだ! 私の強さは!!」
「う、うん……」
なんて言おうか、こんなキラキラした目で見られるのは今に始まったことではない。しかし、今の彼女を一言で表すなら混沌。謎のオーラから時々魂のようなものが見える。フラムはこのまま死んでしまわないだろうか……
「とりあえず、休んだら……?」
「――」
フラムは動かない。動かなくなってしまった。
目が開いたまま硬直するフラムを心配し、しどろもどろになってしまう。
するとアントが立ち上がりフラムの前で手を振った。
「え? えと……」
「大丈夫だ、おそらく疲れて寝ている」
「いや目が開いてるよ!?」
「カリナ、フラムの指で4を作って握って」
「それって最近流行りのSOS信号だよね」
「このゲームはSOSのハンドサインを出すことで強制ログアウトができる」
「わ、分かった」
そう言ってとりあえずフラムの指をSOSの形にする、するとフラムの体がエフェクトと共に消えていった。
「もしかして、あのあと……」
「俺は一度ログアウトした……と言うよりまさかそのSOSのハンドサインが役に立つとはな」
「アント、フラムが怖くて強制ログアウトしたんだよね」
「生きててくれてよかったよ……」
アントは自身の手のひらを見つめるとゆっくりとため息をついた。僕はアントのことをかっこいいと思っていたのに、なんだか今の彼からは不思議と親近感が湧いてくる。
レッカは僕の手を握ると悲しそうな表情を浮かべる。
「かりなぁ……」
「フラムをありがとう、大丈夫だった?」
「私たちはね……? でも何人もが犠牲になった」
「いや、ゲームだから」
しくしくと明らかなウソ泣きを浮かべるレッカはやはりかわいい、そんなレッカを無視して画面を見つめる。
三位の位置にいる名前は明らかに見知った魔族の彼女。
「フラムの職業の名前変わったよね?」
「そのことなんだけど!」
「あの後俺とひたすらAIで条件を探した」
レッカは苦笑いをする。なんとなく風景が思い浮かぶ、アントが作戦を立てフラムが突っ走っていったのだろう。
しかし【略奪者】とは物騒な名前だ。
「フラムの趣味って何なの?」
「盗みか? 強盗か? あいつは普段何をしているんだ」
「フラムの趣味か……」
「……そうか、お前らはリアルの仲なのか」
「僕とフラムはね」
フラムこと『真央』は同じ学校の友人、小学校のころから仲が良く同じ高校に入ったのも心が通じ合っていたのだと思える。
彼女は現実でもあのような口調でよく男らしいと言われる。彼女自身それが気に入っているのか「そうだろ!?」といって笑っているのをよく見かけた。
そんな彼女の性格を一言で表すなら……
「フラムは負けず嫌いだったな」
「負けず嫌い?」
「一緒にバスケしたり卓球したり、オセロとかチェスとか。中学生の時はよく何かしらの勝負をしまくってたね」
「フラムらしいね」
「全くだ」
実際僕の趣味は彼女に影響されている部分がある。ゲームや遊びはほとんど彼女が発端だ。
「でもフラム、勝負運がすごく弱いんだよ」
「あいつが……?」
「うそ、今とんでもなく強いよ!?」
「それはゲームの話」
フラムの職業を思い出してなんとなく思いにふけてしまう。
「【先導者】ってのは多分僕と遊ぶためにいろんなことやってきたから、だからあの職業なんだと思う」
「正直言って、苦手だ」
「その気持ちもよく分かるよ」
彼女は一度言葉を発するとその言葉を訂正することが無い。とにかく猪突猛進、前途多難をごり押しで乗り越えてしまうのだ。
「フラムが唯一僕に勝てたのがゲームだった、格闘ゲームとかFPSとかパズルとか。普段現実でやってるはずなのにゲームになると途端に勝てなくなるんだ」
「今のフラムが強いのもそう言うことかな?」
「多分。運に左右されない純粋な勝負では、フラムに勝つことはできない」
悔しいことに彼女は努力を詰み僕はそれを才能で乗り越えてきた。
しかし才能だっていずれはつもりに積もった努力に大敗するときがくる。
「【略奪者】は多分努力の証なんだろうね、負けたくない彼女の一心が叶った証」
「危なっかしい奴だ」
「それもまた一興ってことね」
レッカは体を翻すと僕の腕を握った。
「ね? カリナ」
「どうしたの……?」
「第四階層のボスは赤い大きな鳥なんだ」
「心が躍るね……!」
「残念だが」
そう言うとアントは振り向き尻尾を振った。
「一度たりとも攻撃をさせない」
そういや、第四階層のこと全然知らないや……




