職業【遊ぶ者】試合に勝ち勝負に負ける
4人は各々でPvPを楽しむ予定。誰が一番勝利し、誰が一番敗北するでしょう。
第三階層の南東、小さく開けた広場があるのはこの階層をしっかりと遊びつくした人でなければ知らないだろう。
PvPを行うのはいいとしてもなんとなく自分からは戦いに行きたくない僕は、そんな辺鄙な場所でテイムモンスター達と遊んでいた。
と、その時。途端に木々の方から声が聞こえる。
「カリナ様の職業はテイマーですか……?」
「カリナ様……名前知ってるの!?」
「PvPが実装されたことはご存じのようで、一度だけ戦わせてください」
長い耳、金の括られた髪に丸い眼鏡、いかにも魔法を使って戦いそうなその見た目はエルフ。
【『シオリ』との戦闘を開始しますか?】
「シオリと言います。以後お見知りおきを」
「答えはいぇす!」
そう言った瞬間、戦闘開始の効果音が鳴り響く。
しかし僕の目線は目の前、そこには何か大きな物体。
「【透明】!」
切られる! そう思いすぐさま詠唱する。しかしこの間1.5秒、ダメージは4。四度も切られた。戦闘開始と同時に目の前まで迫ってきていた!
何事かと思いすぐさまスキルを連発する。こちらのペースにせねばならない。彼女は体に似合わない片手剣を右手に構えている。
「【毒壇場】」
「なるほど……」
予想通り彼女はすぐさま半径50mの範囲から出ようとするはず。しかしそうはさせない。
「【テイム飢餓イノシシ】『体当たり』!」
赤眼ラットとの戦闘でスライムに命令した攻撃手段。攻撃能力こそないもののスピードは間違いなく出る。
そして【裏切り者】の効果で【麻痺毒の体】はイノシシにも機能している!
「……っ!」
振り向きすぐさま走り抜けようとした彼女にイノシシの体当たりがもろに当たる!
「この勝負はもらったよ!」
「【共有】」
僕はとどめのナイフを腰から抜くと彼女のいる場所まで走る。
ものすごい罪悪感に駆られながらも彼女の体に突き刺そうとしたその瞬間。
「【狼狽】」
「へ……?」
僕は空を飛んでいた。
慌てて【翼飛行】を使用しようとするがなぜか発動しない。自由落下を始めた体に自分の余生を振り返る。
おそらく攻撃の瞬間に蹴られた。そして小声で聞こえたスキルの詠唱のせいで特定のスキルが使えなくなっている。
このままでは落下ダメージで倒されてしまう。負けてしまった、頑張って助けてくれた三人には申し訳ないなと悲しくなりつつも残念ながらもうすぐ地上。
僕はぎゅっと目をつむる。
「……?」
しかしいくら待っても衝撃を感じない。
目を開くとそこには眼鏡のエルフ……
「な、ど、どうして……!?」
「カリナさん、負けてはくれないですか?」
僕はすぐに降りようと力を入れるも、なぜか降りられない。
彼女が力を入れているのだろう、罪悪感と絶望感を同時に感じ奇妙な感覚だ。
「でも負けなくてもいいです。試合に負けたが勝負に勝った……私にアイテムをくれるのなら喜んで私は降参します」
真顔でそう言うエルフは先ほどの攻撃から恐怖感を強く感じる。
しかし唐突に言われた好条件は受け入れざるを得ない。貴重なアイテムも今はほとんどないし武器だって僕以外使用できない。
「それでいいのなら……」
「降参します」
【『シオリ』との戦闘に勝利しました】
「でも……僕貴重なアイテム持ってないよ?」
「別にいいんですよ、そこらのモンスタードロップ品でもいいんです」
そう言う彼女はいまだにお姫様抱っこをやめてくれない。
なんだか触れられている部分が熱く感じてきた。
「あの……おろしてくれるとありがたいんだけど」
「どうしてですか? 降ろしたらアイテムくれますか?」
「う、うん」
そう言うと彼女はつまらなさそうな顔をして僕を降ろした。なんだか僕の方が不服だ。
どんなアイテムを渡せばいいのか分からない。スライムのコアや飢餓イノシシの角とかいう、簡単なドロップ品をあげるのは申し訳ない。
そう言えばあれが残っていたなと思いアイテム欄を漁ると一つのアイテムを手にした。
「これなら……どう?」
「これ……この前ご友人に渡されていませんでしたか?」
なぜ知っているのだろう?
僕が見せたアイテムは『白銀ウルフの毛皮』、これならアクセサリーにも武器にも使える。
レッカに渡したもののアイテムはすぐに帰ってきた。おそらく自分で作れるようになったか複製したのだろう。彼女の職業は恐ろしい。
「ちょうど余ってたんだ、これでいいならあげるよ」
「ありがとうございます……カリナ様、どうかご無事で」
そう言うとすぐさま森の中を走っていった。
勝負に勝ったにもかかわらず降参しアイテムを得るとは不思議な人だ。そう思いつつ再度テイムモンスターとの遊びを開始した。
「カリナ様の……カリナ様……の……」




