職業【鍛冶屋】詐欺にあう
ちなみに現段階で職業の進化に成功しているプレイヤーは述べ7人。彼女はそのうちの1人だった。
僕は魔法屋に入ると同時に一つの巻物を取った。
「これください!」
「あいよぉ!」
店の外へと出るとその巻物はすぐに消えていった。
魔法
【ファイア 獲得】
緑色をした虫型のモンスターなら火の攻撃は確実に効果を表すだろう。しかし問題はMPの問題だ。ファイアを打つにはMPが6必要だが生憎僕のMPは20、二回打てばそれで終了。さらに言えば魔法攻撃力も1しかない。弱点属性や【背水の陣】を使えば少しはダメージも高まるだろうがそれも微々たる量だ。やはりフラムの力を借りるしかないのか? しかし第三階層の大きな木なんていまだに分からずじまい。
「作戦、底が尽きた……」
僕が弓矢や銃を扱うことが出来たら進展の少しはあっただろう。しかし職業【遊び人】は武器の装備を許されていないのだ。それにファンタジー世界に銃なんてもの無礼にもほどがある。
ため息をつきつつ妥協案を考えていると途端に通知音が流れた。相手は珍しい人。
『カリナやられたー!! クエスト詐欺にあったよー……』
クエスト詐欺と言う言葉に聞き覚えは無い。何だろうと首を傾げていると再度通知音が鳴った。どうやらマップの画像のようで今レッカのいる場所が分かる。久々にレッカに会うのもいい、そう思い僕は返信を送る。
『僕にできることがあれば手伝うよ』
「ありがと、じゃあよろしくね?」
「うわーっ!!」
背後から急に声がしたため驚いてしまった。僕が目を丸くすると彼女はニヤニヤと笑って見せる。
「どう? 驚いたでしょ!? そのマップはダミーなのさ!」
「よ、よく僕がここにいるって分かったね」
「特殊スキル【尾行】のおかげだよ!」
そう言うとレッカは体を押し付けてきた。不意にいいにおいがして脳がくらくらとする。いくら相手が同性だからってもう少し躊躇ってはどうだろうか……レッカはそんなことお構いなしにステータス画面を共有した。
特殊スキル
【尾行】
自身の作成した装備品を所持したプレイヤーの位置が分かる
「それって、僕の居場所レッカには常に筒抜けってこと……?」
「そうだね! べ、別にストーカーしてるとかじゃないよ? 今はちょっと困ったことがあって……」
彼女はそわそわと自身の両手で指を絡ませた。
「クエスト詐欺ってやつ?」
「そうそれ! 知ってる? クエスト詐欺」
全力でこっちを指差す。
「知らないね、詐欺にあったの?」
「そうなの! 第二階層のボスのドロップ品と交換に武器を作ってほしいってクエストを受注したんだよ」
「そしたら?」
「そしたら武器を渡した瞬間クエストを破棄されたの……」
「なるほど、ようは報酬が支払われなかったんだね」
「そう! 運営にも問い合わせて今調整中らしいけど、何とかしてそいつを懲らしめてやろうって思っててね!」
そう言うと彼女はウインクをする。彼女、実はなかなかにストーカー気質ではないだろうかと考えるも口をつむぐ。
「でもレッカには【尾行】があるじゃん」
「それがクエスト破棄になったせいで、その武器がシステム的になかったことになってんの」
「……? どういうこと?」
「要は私一人じゃ探せないってこと! カリナー、私たちの仲でしょ? 手伝って!」
突如目の前に画面が現れた。
クエスト
【クエスト詐欺犯行者の末路】
報酬:デート一回
ウルウルとした目でこっちをじっと見つめるレッカに同情してしまう。
「のー」
『クエスト受注に失敗』
「え! なんで!?」
レッカは僕の服を引っ張ってぶんぶんと振り回した。あたまが揺れて気持ち悪い。
「私たちの仲って言うんだったらクエストにしなくてもいいでしょ? それに階層のボスのドロップ品なんて僕に言えばただであげたよ」
「カ、カリナァ……」
僕はインベントリから二つのアイテムを取り出した。
「これは……?」
「こっちが【獰猛オオカミの牙】こっちが【白銀ウルフの毛皮】」
「た、ただでは貰えないよ! それにクエスト詐欺の件もあるし」
「それなら僕から二つの提案をしよう」
僕は指を二本立てる。
指を目線で追うとレッカもそっちの方を見る。
「ひとつ、僕が装備することができる杖の作成。ふたつ、一緒に第三階層のボスを倒す」
「そ、そんなの私の方が得するよ……?」
「鍛冶屋の仕事、任せたよ?」
「カ、カリナ様……」
レッカは僕の胴めがけて抱き着いてきた。
「ちょ、ちょっと!」
「カリナに会えてよかったよぉー!」
現代の鍛冶屋は、意外にもポンコツだった。
(0時までには終わらせないと……フラムに怒られちゃうな……)
(カリナ……不思議な名前だなぁ……)




