職業【遊び人】第二階層へと向かう
RCOでは階層が増すごとに高度が低くなっていきます。
カリナは一度ゲームをやめて内容を復習した後に再度ログインした。現在夜の八時だ。
ログイン先は第二階層、初めての広原に目を輝かせていた。第一階層から風景はあまり変わっていない。しかし第一階層はほぼチュートリアルのようなものだ。つまり本番はこれから。
彼女は気合を入れ直して、一歩を踏み出した。
その瞬間、新たなスキルの取得を伝えるいつもの効果音が流れた。
スキル取得
【常連】
「ん? なにこれ」
スキルの概要は一度行ったことのある街や洞窟などの中継地点にワープできるようだ。これは便利な能力だ、順調だなと笑みが溢れる。
しかしなぜこんな能力を得ることができたのだろうか? それにこのスキルは他のスキルと違って有用すぎるとカリナは首を傾げる。
カリナの考えは的中しており、このスキルはログインを一週間連続で行った人が取得できるスキルなのだ。
これは運営が直接作成したスキルであり、他のプレイヤーには配布を伝えていない特殊なスキルだったのだが、彼女からすれば他のスキルと変わらない。
まぁいっかと気にしない様子で、第二階層に興味を向けたのだった。
歩を進めていると、何やら茶色い物体が勢いよくこちらに走ってくるのがわかった。
土を蹴る音は鈍い、先が丸い立派な牙、その体躯は走りやすさに特化していた。
飢餓イノシシ
HP 25/25 MP 0/0
イノシシのモンスターが体当たりを仕掛けてきているのがわかった。遠距離からカリナを標的に走ってくる、本人からすれば「よく見つけたよね」と自分の悪運に嫌悪したのだった。
しかしスライムの時と同様に「イノシシロード」のスキルを得られればこの階層だって楽に攻略できるかもしれない。そう考え新調したスライムの剣を構える。
彼女の構えは剣道の中段の構えと酷似していた。違う点といえば、彼女はその剣を振るう技術力が皆無な所だろう。
「スライムの剣のサビにしてくれる!」
イノシシは狙いを外して突っ込んできた、彼女も同様に適当に振り下ろした剣は当然イノシシに当たる理由はなく、そのまま地面にザクッと刺さった。
スキル取得
【耕作】
カリナは顔を真っ赤にしていた。なぜこうもうまく行かないのだろうか、恥ずかしい。
スキル「耕作」はモノを埋めることができる能力だった。もっとも、それ以上でもそれ以下でもない。ただモノを埋めるだけの能力を獲得したことに彼女は恥じらいを倍増された気がして腹立った。
しかしここで感情的になってはだめだと自分を諭す。イノシシはまたしても攻撃を仕掛けてきた。彼女は冷静に自身の防御面を分析していた。
体力は変わらず20だが、防御力は以前から大きく上がっている。それもそのはず、新たに「スライムの鎧」を装備した上にスキル「物理耐性」と「石の上にも三年」がある。この二つは単純に防御力を上げる効果だが舐めてはいけない。レッカの説明にもあった通り、自然獲得のスキルはその人の主力になりやすい。これは本人も気づいていなかったが、今の彼女であれば大スライムからの攻撃すら無効化する。それに動かないことで防御力・魔法防御力を大きく上昇させる「不動」が合わさり、彼女の素肌に傷をつけられるものはいない。
彼女はなんとなく一撃くらい食らっても大丈夫だろうという認識で瞬時に作戦を立てた。一撃をわざと食らって、イノシシがスピードを緩めた瞬間に斬りかかるという作戦だ。
それは上手くいき、イノシシはカリナにぶつかると、目を丸くして体を横転させた。それを逃がすカリナではない。大きく振りかぶった剣でイノシシを切ると、イノシシは光の粒子とともに消えていった。討伐完了である。
ちなみにもちろんイノシシからの攻撃は彼女にダメージを与えなかったが、本人はなぜダメージがないのか分からず頭を掻いていた。
スキル取得
【魔獣特攻】
ついでにスキルも取得できた、初めての討伐でゲットできたことには驚いたが都合は良かった。
このまま狩りを続けても良いが、彼女なりにいくつか目標を立ててきていた。大きくは三つ。
一つは階層ボスの撃破、第一階層のフィールドモンスターはスライムで階層ボスは大スライムだった。このことからわかることに階層ボスはその階層のフィールドモンスターの上位種である可能性が高い。今回であればボスモンスターは「飢餓イノシシ」と同種の魔獣である可能性が高かった。
次に職業の進化、職業は何度か進化することが可能だ。レッカの「作成者」から「鍛冶屋」に変わったのは職業進化によるものだ。
今の職業である「遊び人」は「初職」といいベースの職業だ。それに対してレッカの「鍛冶屋」は「変職」といって職業の方向性が決まるのだ。
彼女はいち早く職業を進化させたいと心を踊らせていた。強くなることも大切だが、できることが多くなることのほうが更に大事だと考えたのだ。
そして最後は四日後のイベントで上位に入ることだ。
ゲームに関する動画を見ていて噂程度に聞いた話だが、どうやら四日後に個人戦のイベントが開催されるらしい。SNSでもすでにトレンドに入っており皆の期待が高まっているのを感じた。しかしこれはあくまで目標であり、正直彼女は上位に入るなんて不可能だと考えていた。
基本的に上位といえばランキングに表示される五十位を指す。このゲームの総人口数は現に五十万を超えており簡単に計算しても一万分の一だ。
しかし目標を高く持つのは悪くないことだと思える。
これらの目標を立てたカリナだったが、現在実行できることといえばとにかく強くなることだった。
当然新しい装備を買うのは意味がないし、レベル上げも意味がない。となれば、スキル取得しかない。
「とにかくイノシシ耐性のゲットだね!!」
カリナはそう言うとぐっと気合を入れ直した。
イノシシ耐性などと言ったスキルはありません。
(添削:2025/12/14)




