職業【鍛冶屋】クエストを開始します
第一階層の町に着いた。さっそくイトマから受け取った装備を見てみる。
武器
【スライムの剣】
スライムに対する攻撃力・魔法攻撃力上昇
防具
【スライムの鎧】
スライムに対する防御力・魔法防御力上昇
当然、どちらも彼女が装備することはできなかった。これでは貰った意味がない。そう考えると気分が沈む。
しかし大スライムを倒したおかげで少しお金の余裕ができた。それに今の彼女はスライムを意のままに操ることができる。スライム限定ではあるが装備を作るための素材だって多少は用意できる。
次の作戦は、クエストで武具作成を依頼しようと考える。何故なら、それ以外に装備を得る方法がないからだ。
これが不可能であれば丸腰で第二階層へと向かうことになる。しか、しそこで痛い目を見ることになるのは必須であった。なぜなら、第一階層を攻略したことを前提に第二階層が構築されているからだ。
第一階層のボスが大スライムだったのは、豊富な体力を削り切れるだけの攻撃性と、それまでに受けるダメージへの耐久性を試す試験だとカリナは気づいていた。
しかし、彼女は今回の戦いでは攻撃をしていないし、ダメージも受けていなかった。これでは第二階層に行く資格などないのだった。
少しでも第二階層でも成立するような強さを得るためにはやはり装備が必要だ。そのために今できることといえばクエストで依頼を出すことだった。
お金はあまり出せないが、どうせスライムをまた倒せばゲットできるのだ。ここで躊躇う必要などない。
彼女はクエストの掲示板へと向かうと依頼を書き込んでいく。
クエスト
【職業【遊び人】が装備可能武器の作成依頼】
「これでいいのかな……?」
不安になりながらも掲示板に貼られた彼女の依頼紙を見つめていると、途端に色が灰色になった。そして、効果音と共に目の前に画面が現れた。
『クエストが承認されました』
「えっもう!?」
「あなたが依頼者さん?」
「は、はいっ!」
彼女は声を掛けられ咄嗟に振り返る。
燃えるような赤い短髪に見惚れてしまいそうな可愛らしい笑顔。そんな外見に合わないボロボロな初期装備。
「はじめまして! 私はレッカ。カリナさん……で合ってる?」
「受注者さんですね! カリナです、よろしくお願いいたします!!」
そう言っていつの間にか差し伸べられていた右手に気がついて、咄嗟に握手を交わす。
この方が彼女でも装備できる装備品の伝手がある人なのだろうかと、浮き立つ心を沈めて質問を投げかける。
「レッカさんは装備の作成ができるんですか」
「うん! 大得意と言っても過言じゃないよ!!」
ため口おっけい! と彼女は小さく呟くと体を翻し彼女の目の前で腕を組んだ。
「職業【鍛冶屋】、うってつけの職業でしょ!」
「おぉ、頼もしいね!」
レッカは自慢げに話す。
僕の【遊び人】以上に役立つ職業だろうと、カリナは虚しい気持ちに浸っていた。
「職業が【鍛冶屋】ということは、普段から物を作るのが好きなの?」
「うーん……どうなんだろう。私別に作るのが好きって訳じゃないんだよね。一つのことに熱中しちゃうって言うか、集中するのが好きって感じ!」
眩しい笑顔でピースを向けてくるレッカに思わず目を薄めてしまう。
(なんだこの明るい存在は、僕が灰になりそうな勢いだぞ)と薄れていく存在感を強く保つ。
それはともかく、レッカの言葉を聞いていると自然と今回の依頼はなんとかなりそうだと安心感を抱く。
「それで、どういう依頼だっけ? 詳しく聞かせてよ!」
「実は……」
彼女はこれまでのことを素直に話した。とはいっても内容は職業【遊び人】についての話だ。
「粘性之王」のことはふせたが、スキルの取得が早いことを話すと、レッカは目を丸くして驚いた。
「それってすごくない!?」
「すごい……かな? スキルだけじゃ僕はどうしようもないんだけど」
「いやいや、スキルって言うのはね――」
レッカが言うには、スキルには大まかに二種類。自分で取得するタイプのスキルと、自然に獲得できるスキルだそうだ。
自分で取得するタイプのスキルは、種族スキルや職業スキル。他にもレベルを上げた時や、イベントをクリアしたときにゲットできるものがあるらしい。「粘性之王」はスライムに囲まれているときに獲得できたのでこちらだろうか? と思考する。
それに対して自然と獲得できるスキルと言うのは、条件をクリアしたときに得られるものや、特定の行動を熟練したときに得られるようだ。例としては「歩耐性」だ。
「自然獲得するタイプのスキルは珍しいんだよ! それこそ、一カ月に一回手に入れられるかどうか……そもそも自然にスキルを獲得することができることを知らないプレイヤーだってまだまだいるんだから!」
「そ、そうなの!?」
「私だってまだ自然獲得のスキルは一つもないよ。自然獲得のスキルはその人の得意から派生することが多いから、大体の場合は主力なスキルになりがちなんだよね」
「うーん、例えば【物理耐性】を取得できたら、守りにした戦い方になっていくってこと?」
「その認識で間違いないね! 基本的には元々守りを主体にした戦い方をしてる人がそういうスキルをゲットできるから、戦略がかわるというよりもより強固になるって感じかな~」
「そっか、守りに特化した戦いをしてないのに獲得したから知らなかったよ、教えてくれてありがとう!」
レッカはいいなぁと呟いて頬を膨らませている。
どうやらお互いが互いの職業を羨ましがっているようだ。できることなら交換してあげたいと考える。
「ところで、そんな僕でも装備できる装備品、ほんとに作れるの?」
「ん? 多分大丈夫だと思う! 余裕よゆう!」
へらへらと笑うレッカだが、これまでの話を聞いていると自然と信頼できるというものだった。
どうしよっかなーと言いながら彼女は目線を上に上げて考えに浸っている。
自分以外のプレイヤーとこうして仲良くなるのが友人ではなかったが、彼女とならばもっともっと仲良くなれる気がしていた。
「そもそもね、私の職業は一度進化してるんだ」
「職業が進化?」
「そそ! 条件を達成したら職業が進化するみたい。元々私は【作成者】だったんだ」
「条件って、その条件について知らないけど、どっかに書いてるの?」
「のんのん、それはプレイヤーにも伝えられないの! だからゲームを遊びまくらないと職業を進化させることはできないってわけ!」
「なるほどてことは、レッカってすごい人じゃん!」
「ふふん! どーよ! 私のすごさが理解できた?」
胸を張ってドヤ顔をするレッカも可愛い。
「とはいっても装備を一から作るのはちょっと難しいの。だから話にあったスライム系の装備を貸してくれたら、それにカリナでも装備できる効果を付与するよ」
「おぉ! ぜひ、お願いします!」
彼女はそう言うと、装備品をレッカに貸し出した。
(添削:2025/12/13)




