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第8話 朝

改めて読み返してみると、悲しくなる文章力ですね…。時間があれば徐々に直していこうかな。

 夜が明けた。

「……はぁ」

「ウェス、大丈夫?」

「…ああ」

 と言いつつもウェスの足取りは重い。心なしか顔色も悪いようだった。

「昨日、あまり眠れなくてな…、少し寝不足なんだ…。あんな落ち着かない部屋でよく眠れるよな。金持ちの気が知れない…」

「はは…」

 ウェスとクルリは館の廊下を歩いていた。彼らは今日、幽霊騒動を解決しに向かう。

 館の玄関まで行くと、トトラが既に待っていた。その横にはドワイト、ジィ、アンネもそこに居た。アンネはまだトトラが怖いのか、ジィの後ろに隠れるようにして立っている。

「よお、おはようさん」

 笑顔のトトラが二人に挨拶した。昨日のことはあまり反省していないように見える。クルリは少しムッとした顔でトトラを見ていた。

「なんや、ウェストール、顔色悪いで?」

「気にするな。すぐ良くなる…」

「まぁ、あんたが役に立たんようやったらワイが全部やったるからな。泥舟に乗った気でおりや!」

「…そうか」

「あんた、ボケ殺しやな…」

 ウェスは首を傾げた。

「クルリちゃんは今日もかわええで!」

 ウェスの食い付きが悪いと分かると、トトラは素早い変わり身でクルリに話しかけた。

「キリウさんは今日も元気そうだね。ほんとに残念」

 クルリは不機嫌そうにそっぽを向いた。

「おいおい、君たち、本当に大丈夫なんだろうな?」

 ドワイトは不安そうに三人に訪ねた。それもそうだ。顔色の悪い剣士と、小さな魔術士と、覗きの霊能士。ただでさえ心許ないメンバーの仲があまり良くないのだから。

「心配せんでええ。ワイはただの霊能士とちゃうからな」

「助平な変態だもんね」

「クルリ、せめて霊能士って付けてやれ」

「君たちは…」

 ドワイトは頭が痛くなりそうだった。

 この依頼を受けた者は帰って来ない。彼はこれまで送り込んだ霊能士の事について責任を感じていた。彼が苛立ったように死霊使いのことを話していたのはそれが理由だった。この三人も帰って来ないのではないか。そういう不安。彼はこれ以上犠牲者を出したくなかった。だが、彼はこの街を治める者だ。街の住人が気持ちよく生活を送れるようにしたい。しなければならない。幽霊騒動を解決しなければならない。その為には死霊使いの下へ、解決できる可能性がある者を送り込まなければならない。板挟みの状況は、本来優しいドワイトにとって苦しいものだった。

「おっちゃん、そんな気に病むことはないで」

「なに?」

 ドワイトの気持ちを見透かしたようにトトラは言った。

「もし、ワイらが帰らんかったとしても、それはあんたのせいやない。ワイらにその力が無かっただけの話や。失敗。こういうことやるからには、それは常々覚悟してんねん。それは前の奴等もおんなじや。おっちゃんが気にすることやない」

「待て、俺達が帰って来ないみたいなこと言うな。縁起でもない」

 ウェスが口を挟んだ。

「キリウさんが帰らなくても私達は帰ってくるから。キリウさんがピンチになっても見捨てていくから」

「殺生やなクルリちゃんは」

 トトラは苦笑いを浮かべた。

「ドワイトさん。もし心配なさっているのなら、それは無用です」

「し、しかし…」

「そんなに心配なら、今ここで依頼を破棄すればいいんです。そうすれば俺達は死霊使いのところに向かう必要は無くなりますから」

「………」

 依頼を破棄することは簡単だ。そうすれば三人を死地に送り込むこともなくなる。だが、彼の立場がそうはさせてくれない。結果、ドワイトは黙り込むしかなかった。

「それじゃあ、行きます」

 三人は館を出ようとする。

「お待ちください」

 その声が三人を引き止めた。

「私もご一緒します」

 そう言うのはジィだった。

「ジィ!?」

 アンネもドワイトも驚いた顔をしていた。

「ストレフさんが?」

「私も一端の魔術士です。微力ながらお力になれるかと。それに、この街の地理を知る者が居た方が何かとやり易いと思いますが?」

 ジィの言う通りだ。どこで相手に出会すかわからない。作戦を立てるのにも、街に詳しい者が居るのと居ないのとではかなり違ってくる。

 だが、ジィには別の仕事もあるのだ。それなのにわざわざ危険な目に合う必要は皆無だ。

 素直に「はい」と言っていいものか。ウェスはクルリとトトラの顔を見た。

「ええんとちゃう?」

 それに気づいたトトラはすぐに答えた。

「ジィさんの《魔力反転》は心強いよ」

 クルリも賛成しているようだ。

 皆賛成ならば断る理由はない。ウェスもジィが居た方が心強いのは確かだった。

「それではお願いします」

 ジィは一礼し、三人の中に加わった。

「ジィ、わ、私も…」

「お嬢様。昨日旦那様に叱られたばかりでしょう?」

「う…」

「今日は昨日とは違うのです。どうかお聞き分けください」

 アンネは寂しげにジィの顔を見ていた。次に父親の顔を見る。厳しい顔をしていた。

「………はい」

「ありがとうございます」

 ジィはアンネとドワイトに深く礼をした。

「それでは行きます」

「成功を祈る」

 ドワイトの言葉を受けとると、四人は館を後にした。

 外は霧が出ていた。天候も曇り、陽はあまり射していなかった。

「お心遣い感謝致します」

 外に出て館の扉を閉めると、ジィはそんなことを口にした。

 三人はその言葉の意味が分からず首を傾げる。

「旦那様は今回の件で非常に心を痛めておいででした。あなた方のあの言葉で、多少肩の荷が降りたと思います」

「せやったら、あんたは尚更ついて来ん方がよかったんちゃう? あんたにもしものことがあってもワイらに責任はとれへんで」

「いいえ。大丈夫です。今回でこの騒動は解決しますから」

 ジィは笑ってそんなことを言う。

「大した自信やな」

 トトラは肩を竦めた。

「そうだね。私が居るから当然解決するよ」

「お前のは過信だ」

 ウェスの素早いツッコミ。

 トトラはその光景をなぜか羨ましそうに見ていた。

 さあ、彼らが向かう場所は帰らずの塔。





  ***






 暗い部屋だった。真っ暗で何も見えない光ひとつ射さない暗闇の部屋。

 そこに小さな光がひとつ。蝋燭の灯りがゆらゆら揺らめきながらわずかな範囲を照らしていた。

 聞こえるのは鈴の音。りぃん、りぃんと一定のリズムを保ちながら鳴り続ける。

「魔術士二人。霊能士一人。剣士一人…」

 掠れそうな声で何者かが呟いた。

「邪魔立てはさせない。絶対に…」

 蝋燭の炎が一瞬揺らぎ、その部屋に一筋の光が射した。

 重いものが動く音と共に、光の筋はだんだん太くなっていく。

「相変わらずしみったれてんな」

 先程の声とは別に張りのある声が部屋に響いた。

「何しに来た…」

 掠れた声には明らかに敵意が感じられた。

「ふん、例の情報は集まってんのか聞きに来たんだよ」

「収穫があればこちらから報告すると言った…」

「どうだか。お前信用できねぇし」

「お互い様だ…」

「まぁ、いい。またお前のところにつまらん奴らが向かっているようだが?」

「知っている…」

「これまでと違って複数人だ。力を貸してやってもいいが?」

「必要ない…」

「そうかよ。まぁ、無事を祈っててやるぜ」

 光の筋はやがて小さくなり、部屋は再び暗闇に落ちた。

「高みの見物といくか」

 部屋の外。そいつは不適な笑みを浮かべていた。

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