第7話 東の霊能士
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今回はおしゃべりばっかですね。
「いやぁ、すんません。驚かしてしもたようやな」
奇妙な口調で喋る男だった。黒い髪に黒い瞳を持ち、服装もこのリスタニア王国で見かけるものではなく、どこか異国の空気を感じさせるものだった。
「当然だよ!」
クルリが毅然とした態度で男に突っかかる。アンネはその後ろに隠れるようにして彼を見ていた。
爆発に紛れて更衣室に逃げ込んたクルリとアンネは助けを呼び、やって来たウェスとジィがこの男を捕まえたのだ。男は腕を縛られ、椅子に座らされている。それが現在の状況。
「しかし嬢ちゃん、詠唱を略すのはあかんわ。ワイが防いどらんかったら、あの浴室全部吹っ飛んどるで?」
「今ココで吹っ飛ばされたい?」
「怖い譲ちゃんやな」
「そもそも、あんたが覗かなかったらあんなことしなかったよ!」
「全部ワイの責任かいな。…ええか、可愛い女の子がお風呂に入っとったら覗く。礼儀やで?」
男は得意気に話してみせる。
「そんな礼儀無い!」
クルリは思いっきり男の頭をひっぱたいた。
「お、おぉ…、ええツッコミ…」
「そろそろ会話に入ってもいいか?」
そこへやや怖い顔のウェスが出てくる。
「その衣装は東の国のものだろ。ただの覗きというわけじゃなさそうだが…?」
「にいちゃん鋭いな。せや、ワイはここに招かれた霊能士や」
「あんたが…」
ウェスは額を押さえた。
「こ、コイツと一緒に仕事するの!? 嫌だ! 絶対嫌だ!」
クルリは嫌だを連呼し続ける。それを聞き流しながら会話は進む。
「ずいぶん嫌われてもうたな。となると、ひょっとして、にいちゃんらが協力者かいな。…ほぉ、確かにええもん持ってはりますな。その剣なんか特に」
「わかるのか?」
「職業柄見えないものを見るんは得意なんや。その剣、退魔の力があるようやな。それもかなり強力なやつや。中級の魔術くらいなら難なく斬れるんとちゃう?」
「さあな。どこまで切れるかは試したことがない」
「しかもそれ、世界に二つと無い超レアもんや。世界珍品名品図鑑で見たことあるで。商人やコレクターなら喉から手が出るほど欲しいもんや。どこで手に入れたん?」
ウェスは剣を引き抜いた。
「恩師から譲ってもらったものだ」
「あー、ワイは斬らんとってよ。しっかし、そんなもんがタダで手に入ったんか。ええなぁ、羨ましいわ。その筋に売ったら百万は下らん代物やで」
「そんなにか…?」
「なんや、そんなことも知らんとその剣振るっとったんか? 無知は罪やで」
男は溜め息をついた。
「あとはソレやな。にいちゃんが首に巻いとるもんにも興味あるわ」
ウェスは黙って男を見ていた。「言ってみろ」とその目は言っているようだった。
「それ、魔糸で編んだものや。きめ細かく編まれとるからな。スカーフに勘違いされるかも知れへんけど、歴としたマフラーや。暑い日には風をよく通し、寒い日にはきちんと防寒の役に立つ。製作者は恐らく、クラーヘン・リップリー。魔糸の先駆者と言われとる魔女や。彼女独特の模様の入れ方がされとるで。せやけど、残念やな。端が切れとる。もったいないなぁ。…しかし、魔糸製のものは普通のもんより丈夫なはずなんやけどな。切れてまうなんておかしいな」
男はまじまじとウェスのマフラーを見つめる。
「…あ、いや、ちょい待ち。この魔力どっかで…」
男はクルリの方へ頭を向けた。
「そうや! 嬢ちゃんのそのリボン! それとおんなじや!」
「お見事」
ウェスは拍手した。
「いやぁ、照れるわー」
まんざらでもない表情で男は悶えた。
「あんた名前は?」
「そうや。自己紹介がまだやったな。トトラ・キリウ。極東の国出身の霊能士や」
「ストレフさん?」
確認の意をこめてウェスはジィに尋ねた。
「ええ、キリウ様。確かにお伺いしております」
「なるほど。…俺はウェストール・ウルハインド。見ての通り剣士だ。それでこいつが…。クルリ、協力するんだ。名乗っておけ」
「…クルリ・クルル・クルジェス。一応、魔術士」
ウェスに促され不満そうにクルリは名乗った。
「ウェストールにクルリちゃんやな。憶えたで」
「さて、自己紹介も済んだことだし、明日に備えるかな」
「なんやて?」
「そうだね。今日はもう寝よう」
「ちょちょちょ、ちょお待ちや! ワイはどうなるんや?!」
トトラは動けない体をじたばたして主張する。
「ああ、あんたみたいな危険人物放すわけにはいかないんだ」
「な、なんで!?」
「アンネちゃんがすっかり怯えちゃってるの。だからあなたを拘束しておかないとダメなの。だよね、ジィさん?」
「キリウ様。大変申し訳ございませんが、今夜はこの部屋に外から鍵をかけさせていただきます」
「んなアホな!」
「女の子の入浴を覗くのは大罪なんだよ。このくらいで済むんだから感謝しなくちゃね、キ・リ・ウさん」
皮肉な笑顔だった。
「それではキリウ様、失礼致します」
「ま、待ってぇな!」
トトラの声も虚しく、無情にも部屋の鍵は掛けられるのであった。