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第67話 VSブラッドゴーレム・リベンジ

 ウェスは外したマフラーを右腕に巻いた。

「なあウェストール、そのマフラーどないするつもりなんや?」

「しばらく素手になるだろうからその保護だ」

 なるほど、とトトラは頷いた。

「これ以上奴に街を壊させるわけにはいかん。やつを足止めするんじゃ!」

「でも、下の細かいのが邪魔だわ」

 ゴーレムの周囲を取り囲むようにして、怪物達が群れていた。それらを相手していてはゴーレムにダメージを与えるような余裕はない。それに、協力な魔術士が居るとはいえ、力不足は明らかな人数である。

 ゴーレムの腕が降り上がる。質量と重力と腕力と、それは単純でいて強力な攻撃の動作。

『貪欲なる力よ、その口をもって天を喰らえ!』

 ガルバントの詠唱。イグナと争っていたときは、彼女の身を案じ詠唱無しの威力を抑えたものであったが、今回は気を使う必要のない相手。全力の魔術が放たれる。

「下がった方が身のため。喰われたいなら別。ドMなら別」

 そんなイグナの言葉に、自分はドMではないと言わんばかりの勢いで皆が下がる。

『マッドマウス!』

 大地が裂け、そしてそれは口となり、その口に見合った巨大な蛇が飛び出した。蛇は周囲の怪物を飲み込みながら、振り下ろされるゴーレムの腕に噛みついた。

 が、勢いは多少落ちたものの、それでもゴーレムの腕の勢いは止まらず、蛇を裂きながら地面に吸いつけられるように落ちていく。「っく、土に土は効果が薄いか…!」

『漆黒、魂の牢獄を覆い、蹂躙されし心、積りし悪意にて突き上げん』

 少し離れた場所から声がする。

『ネガティブピラー!』

 蛇の芯となり、支えるようにして黒い円柱が現れた。するとゴーレムの腕は突然推進力を失ったようにピタリと止まった。

「幻影のか?!」

「群れが移動したと思ったら、やっぱりジジイ達か」

 セレッソは品定めするようにメンバーを見渡す。

「我らが王宮魔術士様達に、その兄貴と異国の者、そして賞金首か。妙な取り合わせだねぇ」

「陰険なのが来たわ。ああ、むさいのと一緒にどこか行けばいいな。というか行って」

「………。おいセレッソ、手伝ってくれるんだろ?」

「もちろん。だが、もうすぐ夜明けなんでねぇ、一旦この場を避難した方がいいぜ?」

 上を見上げるとゴーレムの腕が徐々に下がっていくのが見てとれた。

「馬鹿もん! 早く言わんか!」

 ガルバント、次いでセレッソが魔術を放ったお陰で、怪物達の群れの中に、僅かながら手薄になった場所があった。彼らはそこに切り込んだ。

 立ちはだかる敵は蹴散らし、真っ直ぐに突き進む。

 群れを抜けると彼らはゴーレムの後ろ手に出た。その頃になって、ゴーレムの腕はようやく地面に衝突したようだ。轟音と砂煙が舞い上がった。

「ああ、セレッソ様、ご無事ですか?」

 群れを抜けた先には王国の兵士達、そして冒険者や賞金稼ぎが怪物達と戦っていた。

「あんな有象無象の集団に俺が殺れるかよ。向かってきた奴全部消してやった。戻るのはもっと楽だしな」

「ふーん、逃げてないのが意外と居るのね。賞金稼ぎと肩を並べるのは賞金首としては複雑だわ」

「しかし、あれやな。思ったより人の被害は少ないようやけど」

 これだけの時間をこれだけの数相手に戦っているにも関わらず、負傷者などがほとんど見当たらなかった。

「医師や医療知識のある者が残ってくれましたので。それに、あちらも…」

 兵士はどことなく申し訳なさそうな感じである方を指差した。

 そこには。

「おや、ウェストールじゃないか」

「無事だったのね!」

「父さん…、母さん…」

 ウェスは額を押さえた。

 その姿は紛れもなく彼の両親、レプスンとニーナであった。

「一体何やって…」

「まぁ落ち着きなさいウェストール。話ならこの戦いが終わってから聞くよ」

「リリアが心配してたぞ」

「大丈夫よ。私たちは」

「それよりウェストール、なんだか雰囲気が変わったようだけど…?」

「あ、あなた、マフラーを―!」

 ニーナの言葉をウェスは掌を向けて制した。

「もういいんだ。これから先には隠し事をしてちゃ進めない。このことはリリアも、ここに居る連中も知ってる。聖印がどうとか、忌み子がどうとか、そんなこと今は関係ないんだ」

「ウェストール…」

 ゴーレムがゆっくりと彼らの方へ向き直り始めた。

「でも、ウェストール…」

「話ならこの戦いが終わってから聞くよ、母さん」

 ニーナはレプスンを見つめた。レプスンはそんな妻を見て苦笑いを浮かべると、首を左右に振った。ニーナもそれで察したようだ。今のウェスに何を言っても彼は聞かないだろうと。

「ねぇ、大事な話なんだろうけど、いい加減戦いに集中してほしいわ」

 怪物をナイフで斬りつけ、蹴り飛ばしながらシェーラが言う。

「大きいのもまた攻撃を仕掛けてくるよ。リリア、早く戻ってこないかしら。というか戻ってこい」

 イグナが怪物達を焼き払う。

「フィオーネは大丈夫か? 夜間フル稼働だろ? 倒れてるんじゃないか?」

 イグナの隙をクアクスがフォローする。

「ペース配分くらいしておろう。マテットも居ることじゃしの」

 ガルバントは状況を判断しながら出たり引いたり、指示を出したりしている。そしてセレッソは自分勝手に行動していた。

 兵士達に冒険者や賞金稼ぎ、そして王宮魔術士が加わり、みるみるうちに怪物達は数を減らしていった。

「ゴーレムが振り返ったぞー!」

 誰かが叫んだ。

 ゴーレムが一歩を踏み出す。それは地響きとなり、空気を揺るがした。

「潰されるな!」

 蜘蛛の子を散らすように人々は逃げていく。

「一人では逃げるな! 小さくても怪物と一対一は危険だ!」

「う、うわああああ!」

「ぎゃあああああ!」

 いくつかの断末魔が木霊する。

「ゴーレムの行動でこないに戦況が変わるんやな。やっぱりあれを何とかせなあかんみたいやな」

「おいトトラ、手を休めるなよ。今はあいつに敵わないが、手段はあるんだ。この作業はその手段を実行するまでの準備だと思えばいい」

「別に絶望しとるわけやないんやでウェストール。なんやしんどいなぁって思っただけや」

「休むか?」

「ええんか?」

「そこは断れよ」

「あかんのかい!」

 トトラのキレのある突っ込み。

「元気だな」

「…ワイ、まだがんばるわ」

 トトラの姿を見ていると、なんだか可哀想だとウェスは思えた。

 彼は商人になりたくてこの国に来た。それがおかしな事に巻き込まれて、結果的に今この国のために戦っている。普通なら…、あ、いや、あまり普通とは言えない人物ではあるが、逃げ出してもおかしくない場面である。

 彼には感謝しないといけない。ウェスはそう思った。


 東の空が白み出す。夜明けは近い。

「ガルバントさん!」

 そんなとき、ようやく望みの声が響いた。

「あら、大きな人形さんですね」

 リリアがフィオーネをつれて戻ってきたのである。

「おお、来たか!」

「リリアちゃん、ゴーレムの腰の辺り、ということでしたよね?」

「はい」

「…確かにありますね」

 フィオーネは難しそうな顔で魔方陣の位置を確認した。

「残念ながら私、体力には自信がなくて…。あんな垂直な崖では集中できません。できれば座ってゆっくりとしたいので、あのお人形さんを寝かせてもらえませんか?」

 魔術逆算は離れてできるものではない。ぎりぎりまで近づいて、その上で時間をかけて行わなければならないのである。

 フィオーネが言った寝かす。

 それはうつ伏せに倒してくれという意味だ。

「聞こえたか?! あいつの足を狙え! 街はもぬけの殻だ。この際仕方ない。どこでもいいからあいつを倒せ!」

 数の減った怪物達の間を縫い、人々はゴーレムの足に攻撃を始めた。魔術士は遠距離から魔術を放ち、武器を持つ者は近づいて。

「潰されないように、動いてない方の足を狙うんだ!」

 二足歩行の弱点とも言うべきだろうか。片足をあげると、反対側の足は、絶対に地面から離れることはない。片足ジャンプをしない限りは。しかしゴーレムにそんな機能はない。不要だからである。

 足が地については逃げ、足が浮けば攻撃する。ヒットアンドアウェイだ。

 土の足は確実に傷ついていった。知能のある人であるならば、この時点で逃げる、もしくは別の手段を選んだだろう。しかし、ゴーレムはプログラム通りにしか動かない。兵器として作られたブラッドゴーレムは、殺すことしか知らないのだ。

 ボロボロになった足が持ち上がる。そしてボロボロになったその足が地に着いた瞬間。ゴロリと巨大な土の塊が転がった。足部の結合が緩んだのだ。ゴーレムの体が後ろに傾く。

「倒れるぞ!」

 だが、向きが悪い。このままでは仰向けに倒れ、肝心の魔方陣がゴーレムと地面の間に隠れてしまう。なんとかして前へ倒したい。

『祈りを伝えし風の十字。魔を切り裂け!』

『渦巻く獣の角にて突き上げろ!』

『炎、熱波、弾!』

『貪欲なる力よ、その口をもって天を喰らえ!』

『漆黒、魂の牢獄を覆い、蹂躙されし心、積りし悪意にて突き上げん』

 五人の王宮魔術士がゴーレムの後ろから一斉に魔術を放った。

『ガスティクロス!』

『ノックアップスパイラル!』

『スカーレットストライク!』

『マッドマウス!』

『ネガティブピラー!』

 五つの魔術がゴーレムの背中にぶち当たり爆ぜる。閃光が走り、その衝撃は大地まで届き、草木や魔石灯を揺らした。

 ゴーレムの体が垂直になる。

「ぐっ、まだか…!」

 倒すにはもう一押し足らない。

「魔術士はあんた達だけじゃないんだぜ!」

 一人の魔術士が次いで魔術を放つ。それを起点にして次から次へと魔術がゴーレムへと放たれた。王宮魔術士達には及ばぬ威力ではあったが、塵も積もれば山となり、そして山を揺るがすほどの力となる。

 ゴーレムが前のめりになった。

 しかし、まだ倒れない。微妙なバランスを保ったまま立ち続けている。

「まだ倒れないのか?!」


―ゴオォォォッ!


 まずゴーレムの背中に爆発が見え、熱波が届き、そして耳をつんざくような音が響いた。一発の何か。そこに居た誰もが何が起きたか理解できていなかった。

 だが、その一発のおかげでゴーレムは前に倒れ始めたのである。

「倒れるぞ! 総員退避!」

 戦っていた者達がゴーレムから離れていく。

 巨体はまるでスローモーションを見ているかのようにゆっくりと倒れていく。パラバラと土を落としながら崩れていく。人々は離れた場所から歓声をあげながらその様子を見ていた。

 ブラッドゴーレムの赤い体が地に伏した。




 ***




「まったく、世話が焼ける」

 帽子の少年は横にある大砲を撫でながら呟いた。

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