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第66話 小休止

「ははは、さすがにこいつはどうだろうね。わかってるよウェストール・ウルハインド。君はこいつと対峙するのはよくないんだよね。あの運命の神様というやつもいいものを残してくれたものだ。まぁ、それがあろうとなかろうと、こいつを倒すのは難しいだろうけどね」

 ウェスはフォトナの言葉を思い出した。

 ブラッドゴーレムと対峙すると確実に死んでしまうという話だ。なんとも厄介な運命であるが、どちらにせよブラッドゴーレムは止めなければならない。

「じゃあ僕はこれで失礼するよ。次があれば、また会おうか」

 そう言い残してイグナは力なく倒れた。

 そしてまたむくりと起き上がる。

「…なんか、痛い…。だるい…。寒い…」

 そう呟く彼女に全員が身構える。まだイドではないという確証はないからだ。対して彼女は状況が飲み込めないでいた。それもそのはず。イドに体を乗っ取られていた間の記憶は残らないのだから。

「いたたたた…」

「逃げ遅れるとはのぅ…」

「済みません。魔術を解くのが早すぎました」

「かまわんよ。こうして生きておるしの」

 瓦礫を掻き分け、その下からリリアとガルバントが現れた。

「リリア!」

「に、兄さんどうしたんですか! それに泥棒と…」

 死霊使いを見たリリアは首を傾げる。

「む、紅蓮の…」

「オジサマとリリアが居るってことは、王都かしら。うん、そうね」

 ガルバントの肩の力が抜ける。

「どうやら、本人のようじゃ…な」

 ガルバントが戦っていたときとはとは違い、彼のよく知っている雰囲気だったのもあるが、恐らく口調が決定打になったなだろう。

「安心してるのはいいけど、あれどうするのよ!」

 足音を響かせ彼らに向かって歩いてくるゴーレムをシェーラは疲れたようにして見上げていた。

「人が死ねば、使役する霊が増える…」

 自分には関係ない…と、死霊使いは言っているのだろう。

「あんたは頭数に入れちゃいないさ。むしろ敵側だろ」

「お前が石を持っている限りはな…」

(なんだか、空気良くないですね)

(訳あってこいつとはいい思い出が無くてな)

 耳打ちするリリアにウェスは答えた。

 リリアはもう一度死霊使いを見たあと、ゴーレムを見上げた。

「で、この石はどうする? 死霊使い」

「預けておこう。イドの話ではないが、貴様が潰されたあとで探すのも悪くない…。ついで言うならば、その石からは魔力めいたものも感じない。大方、奴に躍らされているのかもな…」

 ウェスは自分の手にある石を見る。

 あのイドのことだ。欺かれている可能性は大いにあり得る。しかし、石を奪われたときのあの豹変ぶりはイドらしからぬことだ。あれが演技でもなければ、本物という可能性も捨てきれない。そもそもあの窮地から脱することが目的であれば、イグナに憑依し、石をめぐって争う必要もなかったはずである。

 何が本当で、何が嘘なのか。

 イドと自分が重なる。ふと、ウェスはそんなことを思った。

「む、これは…」

 異変に気がついたのはガルバントだった。いや、それを異変と呼ぶのが正しいのか分からないが、とにかく変化があったのは確かだ。

「あったかい?」

 いつのまにか寒波がおさまっていた。

「みなさんお揃いで。なんやハゲのおっさんいきなり正気に戻ったんやけど…。なんかあったんか?」

 ひょっこりと現れたトトラ。そしてハゲのおっさんことクアクス。その顔はずいぶんと不機嫌そうだった。

「ん? イグナちゃんも正気に戻ったみたいやな」

「正気と言われてもさっぱりだわ。憶えてないもの。記憶喪失?」

「俺もさっぱりだ」

 首を傾げる火と水の王宮魔術士。

「それはあとでワイが説明したるわ。そんなんより、あのでかいのをなんとかせんなんのとちゃう?」

「そうじゃな。あれを倒すには奴の原動力である魔方陣を崩す他ないだろう。しかし、肝心の魔方陣の位置が分からぬし、結界も張ってあるじゃろう。清浄のに魔術逆算でもしてもらわんとな」

 骨が折れそうな話だった。だが、考えている間もあまりない。足音と巨体はすぐそこまで迫ってきていた。

「魔方陣の場所なら知っています」

 全員がリリアを見た。

「ゴーレムの腰辺りにあります」

 ガルバントが訝しげな顔をする。

「暴風の。なぜ主がそんなことを知っておる?」

「あれと戦ったことがあるからです」

 リリアは淡々と答える。

「戦った? いつ? どこで? どうして?」

「過去に封印されてから、奴が動き出したことは一度もないはずだが…」

 リリアは口を開かない。彼女自信もなぜそんなことを知っているのか理解できていないから。

 ウェスがクルリのことを説明せれば、リリアの言葉を証明できたのだろうが、生憎それを説明している暇は無い状況。

「どうせ目星もついていないんだろう? とりあえずリリアの言葉通りに攻めてみたらどうだ?」

「そうじゃな。するとやはり魔術逆算が欲しいのぅ。…暴風の、王宮から清浄のを連れてきてくれ。主が一番早いじゃろうしの。王宮の守りはマテットだけになるが、あやつなら大丈夫じゃろ」

 リリアは頷いて飛び立った。

「ちゅうことは、ワイらはあいつを足止めせんなんな」

「そうね。割に会わない仕事だけど、やるわ」

「俺たちはなんか迷惑をかけたみたいだし、ここいらで名誉挽回といくか、イグナ」

「全部焼いていいんでしょ? 敵だし。むしろ的だし」

「老体に連戦は堪えるわい…」

「私は引かせてもらう。関係ないからな…」

 対峙すると死の運命が確定する。フォトナもイドもウェスにそう伝えた。ゴーレムに挑むと決めた時点で、おそらくその運命は確定する。ウェスはこんなところで死ぬわけにはいかなかった。

「俺は…役に立てそうにないな…」

 というのは苦しい言い訳だ。

「アホか。ウェストールが役に立たんかったらワイも戦力にならんで」

「雇い主が働かないってのは私も納得いかないわ。説明が欲しいわね」

「あいつと対峙すると死ぬんだとさ」

「は?」

「占いの神様がそう言っていた。なをでも、運命の神様がそういう運命に仕向けたとかどうとか」

 そうなると決まっている。

 運命だから。

「甘いでウェストール」

 トトラはニヤリと笑いながら言った。

「なに?」

「ええか、運命っちゅうんは変えるためにあるんやで。運命にも種類があってな、人に用意された運命と、自分で選ぶ運命とがあるんや。その二つのうち、どっちのが優先順位が高いかっちゅうたら後者や。ワイが霊能士の家系に生まれて霊能士になったんは前者やけど、ワイは商人になるためにこの国まで来たんや。家の反対を押し切ってな。ワイは絶対商人になる。ワイの夢やしな。…まぁ、何が言いたいかっちゅうたら、運命とかゆうもんに流されんな、ウェストール」

「…トトラ」

 ウェスはしっかりとトトラの顔を見た。

「話が長い」

「ちょっ!」

「あんたが話してる間にあいつが来ちゃったじゃない! 変に聞き入っちゃったわ! 恥ずかしい! 恥ずかしすぎる!」

「な、なんやねん。ワイ別に悪いことは言うてへんで…。切ないわぁ」

「俺の気持ちが分かったか、キリウ」

「下の小さい怪物も来たようじゃな」

「それじゃあいっちよやってみようかしら。ほら、変人も」

「なんや、ワイへの風当たりきつぅない?」

「トトラは残念な二枚目だな」

「なんやてウェストール!」

「でもわかったよ。人に決められた運命より、自分で選んだ運命か。じゃあゴーレムと対峙しないようにして戦ってみるかな」

 ウェスは首に巻いていたマフラーを外した。寒波がなくなったというのもあるし、忌み子であることを隠す必要がなくなったこともある。

 トトラ以外はウェスの首にある印を見て大体の察しはついたようだ。

 彼らは特に何を言うわけでもなく、怪物とゴーレムに向き合った。数はこちらが圧倒的に少ないが、一人ではない。他にも闘っている者達は多くいる。ただ、少し大きな団体が彼らの方へ向かってきた。ただそれだけの話なのだ。

 最終目的はひとつ。

 あの赤い体の巨大な土人形を壊すこと。

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