第64話 石
ゴッドイーター面白いよね!
やり過ぎて全然書いてなかったよ!
でも、神食いとかお話に出てるから別にいいよね!
よくない?
燃える街、赤い空、ゴーレム、怪物の群れ、戦う人々。
似たような光景。
それはごく最近で、ひどく昔のような曖昧な記憶。
自分が言ったおかしな言葉。
「あの時」とは一体?
形が違うのに噛み合う歯車。
音をたてずに廻っているのが気持ちが悪い。
見上げるような巨大な土人形。
あれの何処かに魔方陣があって、それを傷付ければ奴は止まる。止まる。だけど止まらなかった。止められなかった。なぜ? なぜ? どうして傷つけられなかった?
『便りは風に乗り運ばれる。いかなる邪魔があろうとも…』
足元に集まる風。
『フォローウィンド!』
集まった風が爆発するように広がり、リリアの軽い体を真上に吹き飛ばす。
金色に光る二つの瞳。
気付かれた…。
ゴーレムの体が動く。ゆっくりに見えるのは相手があまりに巨大だからだろう。
「大丈夫。気付かれてない…」
リリアはフワリとゴーレムの方に着地した。
隙間から生えた雑草。所詮は土の寄せ集め。近付けば地面と何ら変わりない。動くというところを除けば。
二度目の大地。
そう、二度目。
『あの時』もこうしてここに立ち、象によじ登る蟻のようにこの巨体を這いずり回り、奮闘した。
やり方は間違っていない。
けれど決定的に足らないものがあったのだ。
眼下にに広がる景色。
北門。
その上に。
「ガルバントさん…と、イグナ先輩?」
二人は戦っていた。しかし、リリアはその光景に疑問はなかった。先ほどのクアクスの件もある。戦っている理由はそれと同じだろう。けれど、クアクスのそれとはあきらかに様子が違うのは見てとれた。
二人とも何か話しているのだ。クアクスは無言で無感情で、まるで人形のようであった。動いていたので操り人形か。
加勢するべきかとリリアは考えた。ならば加勢するべきはガルバントの方だろう。イグナはクアクスと同行していた。彼女の方に何かがあった可能性が高い。
などと彼女が思考を巡らせているうちに、イグナがガルバントの放った魔術の蛇に捕まった。
これで決着だろう。
リリアはそう思った。
虫が身体中を這い回るような、狂気じみたその視線を感じるまでは。
「…え?」
リリアは思わずその巨体の上で縮まった。
あの圧倒的不利…、いや、敗北の状態からなぜそんな表情が生まれるのだろうか。なぜイグナは笑っているのだろうか。
しかしそれでリリアは確信した。おかしいのはイグナの方であると。
だとするならばあの様子。まだ切り札があるのだろう。
「ガルバ…!」
リリアが言いかけたとき、突然地面が傾きだした。
リリアは振り落とされないように地面にしがみつく。
ゴーレムの巨大な腕がパラパラと砂を落としながら持ち上がった。単純すぎる行為ゆえに、ゴーレムが何をするのかリリアはすぐ理解できた。
持ち上げた腕を重力に任せて落とすだけでいい。そうすれば下にあるものは簡単に壊れる
下にあるもの。
北門。
その上にはガルバントさんとイグナ先輩。
さらにその下には怪物たちと、それと戦っている人々。
リリアは躊躇せずゴーレムから飛び降りた。
『便りは風に乗り運ばれる。いかなる邪魔があろうとも…』
たとえ、いかなる邪魔があろうとも、止めなければならない。手加減なし。兄を吹き飛ばすときのように、遠慮なく全力をぶつければいい。
『フォローウィンド!』
渦巻く風が巨大な腕を支えた。多くの砂が舞い上がり、サラサラと下へ落ちていく。それらはすべて生臭く、口に入ると金属のような味がした。こいつが何で作られたかを考えるとそれが何かは容易に想像できるだろう。血の通ったゴーレムと言えば聞こえはいいかもしれない。ただ、そこぬ本人の血は一滴たりとも混じってはいないが。
「…!」
リリアは再び背中におぞましいものを感じた。
奴が見ている。
彼女をじっと。
「風ごときでその人形が止まるものか」と、嘲りと憐れみの混じった奥の見えない瞳で。
そうだ。止まるはずがない。
「敵は僕だけじゃないんだよ、ガルバント・アクライト!」
「ゴーレ…、暴風のか?!」
「ガルバントさん逃げて!」
リリアの言う通り。逃げなければゴーレムに潰されてしまう。
しかし。
「この身体が気になるかい? ガルバント・アクライト」
「くっ…」
イドの意識が乗り移っているとはいえ、身体自体はイグナのものなのだ。乗り移られる前のイグナの行動を見る限り、彼女自我はまだ生きているはず。
「例えこの身体が死んでも僕は生き延びるけどね。さあ、どうしようか、ガルバント・アクライト!」
「ガルバントさん!」
ガルバントが意を決したようにして足を踏み出し、それと同時にイグナを捕らえていた蛇が消えさった。
「あれだけいたぶっておいて救おうと言うのかい? ガルバント・アクライト、貴方はやはり面白い!」
「ワシは、若い芽を摘んだりせぬ!」
「いいねぇ、その前向きの意思。でも、『煉獄、熱波、烈火!』通さないよ」
熱気が周囲に行き渡った。
『クリムゾ…』
あとは引き金を引くだけのはずだった。しかしイグナは突然口を止め、ガクンと力無く項垂れて動かなくなってしまった。
不審に思ったガルバントだったが、この機を逃すまいと、イグナを抱き上げる。
「暴風の! もう大丈夫じゃ!」
「ダメです! 門の下にはまだ!」
多くの人々が戦っている。
「安心せい、下には漆黒のがおる! 夜の奴ほど頼りに者はおらん!」
リリアは門の下に目をやった。
燃えている建物に照らされて、黒い円が広がっているのが見える。
「あれは、『ダークホール』」
それを見たリリアは魔術の力を弱めた。
すると、ゴーレムの腕は重力に逆らうこと無く、真っ直ぐ下に落ちていった。
***
「やぁ…、まさか…生きていた、とはね…」
彼の前には血塗られた剣を突きつける、かつて殺したはずの男の姿があった。
「何をもって死んだとするか…。言ったのはお前だったな、イド」
「そうだっ、たな。だが…、ウェストール・ウル、ハインド。この短…時間で、……そこまで回復するなど…」
「協力者が居たんでね」
「協、力者…か…。治療の神にで、も、巡り会ったのか…な」
「半分あたりで半分はずれだ」
「ははは…、君は本当に運がい、いね…、ウェストール・ウルハインド。羨ましいよ。君のよ…な存在が。…そして同時に憎た…しく思う。君は恵まれすぎだ。その恵、…みに裏切られたときの君の顔を……、拝みたいねぇ…」
「お前にどう思われようが知らないな。お前はガリスさんの仇、そしてクルリに仇為す存在。俺にはお前を殺す理由がある」
「だったら…僕を、一撃で殺…さなかったのは失敗…ったね」
「ああ、確かに心臓を一突きにしたはずなんだが…、なんで死なないんだ、お前」
「言うわけ…無いだろ。今後も、ま、まだ君とは対峙するんだから…ね」
「ならそうならないように、その首落としてやる!」
剣は振り上げられた。
普通の剣。
退魔の剣は血を流して今にも死にそうな奴が腰に下げている。
首を落とせばこいつは死に、剣を取り返し、驚異のうちのひとつを拭い去ることができるだろう。
こいつが居なければクルリが記憶を失うこともなかった。ガリスも死ぬこともなかった。
憎しみしか沸いてこない。微塵の情けも感じない。殺す。殺すのだ。
なのに…。
「なぜお前は笑っている」
「僕は死なない。そういうふうにしてある」
「そうか…、でも死ね」
―キィン!
ウェスは剣を振り抜こうとしたが、金属のぶつかる音がしてその腕が止まった。
「何をしている…」
りぃん…。
鈴の音。
掠れるような声。
その声を聞いてウェスは思わず身震いした。
「ははは、…やっぱ、り君は、僕を殺…せないね、ウェストール・う、ウルハインド…」
イドの口が三日月のように裂ける。
「死霊使い!」
「…貴様は…、憶えている…。どこかの街で会ったな…」
頼りない姿、伸びた髪の間から覗く鋭い眼光、恐ろしいまでの威圧感。
その風貌、見間違うはずがない。
「き、君なら来ると思った…よ」
「別に、お前のために来たわけではない。死ぬ前に石を渡せ…」
「君の…ことだ。そ…う来ると思…って、石は別の場所に置い…きた。僕が死ねば、答えは永…に闇の中さ」
「用意周到だな…」
―ガチッ!
「焦るな剣士…」
不意をついて振るったウェスの剣は、死霊使いによって再び弾かれた。
「卑怯なんて言うなよ。俺からすればお前らはどちらも敵なんだからな」
「そういう考えは嫌いじゃない…」
「そうか、よかった。よかったついでに聞くが、なぜそいつをかばう」
「かばう、とは違うな。血の臭いがしたからここに立ち寄ったまでのこと。こいつはついでだ…」
「つ、つれないねぇ、オルター・アベルト。君はあ…の石が…ほしいんだろ。《輪廻石》が」
「輪廻…、石?」
ウェスはイドを掴み上げた。
「おい! それはあいつと何か関係があるのか?!」
「あ…るよ。大あり…だ」
「どこにある!」
「ここには、無い。探す…んだね。…オルター・アベルト。君には教えてあげよう…」
イドが死霊使い…、オルターに耳打ちした。
それを聞いた彼はすぐさま動いた。ウェスもイドもほったらかしでどこかへ走り出していく。
「さぁ、ウェストール・ウルハインド。君も…早く動かないとあいつが持って行っ…ちゃうよ」
ウェスは走るオルターの姿と、血を流して座っているイドの姿を交互に見る。
「言っとくけど、いくら手負いの僕でも、簡単には殺られないから…ね」
「…クソッ!」
イドを背中にしてウェスはオルターを追い始めた。
その後ろからは胸くそ悪い笑い声が響いていた。