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第63話 門上の戦い

遅くなりましたぁ!


…って、最近この文句ばかりだなぁ…orz


 振り抜けば鮮血が舞い、肉を求めて獣は駆る。

 多くの者が傷を負い、多くの命が消えていく。

 これは戦争か。

 そうではない。

 皆が生きるために戦っている。街を守るために戦っている。いや、戦わなければならない。王都が陥落したとしたらどうなる。国の脆さを他国に示すことになる。周囲にあるのは決して友好的な国ばかりではない。この国には魔石という資源があり、鉄道という技術もある。そして、神様と呼ばれる特異な能力を秘めた者が居る。それらは奪うに十分な価値を持っている。

 たとえ街中がもぬけの殻でも、この土地を守ることに意味があるのだ。

「いいか! 一匹も通すな!」

 士気を高める声がこだまする。

「この数を抑えきれるわけがない…」

 弱気な発言が返ってくる。

 守る側の数が、攻める側より少ないのは一目瞭然であった。なにより、その後ろに控えている巨大な土人形。それにどう立ち向かうと言うのだろう。

「なぜ、怪物達が群れを成してこの街に押し入ってきたのだろう。しかも別々の種がだぞ。奴等に、同種以外を束ねるような指揮をとれるものなど、居るはずが…」

「いや、どうだろうな。あの中には明らかにこの辺りには生息していない怪物が混ざっている。既知の存在ばかりではないはずだ」

「それなら尚更対抗が難しいんじゃ…」

「簡単だ!」

 人の群れの中に仮面の男が割って入る。

「未知も既知も関係ねぇ。それ以上の力でねじ伏せてやりゃいいんだよ!」

「セレッソ様!」

 セレッソが怪物の群に手を翳す。

『暗黒の陰鬱なる闇に呑まれろ』

 群の中心に小さな黒球が現れた。

『ダークホール!』

 セレッソが口にすると黒球は一瞬で広がり、また小さな球へと戻って消失した。

「永遠に闇の中をさ迷え…」

 あとに残ったのは群れの中にぽっかりと空いた空間、滑らかな曲線を描いたクレーター、そして多少削り取られてしまった建造物だった。

(すごい人なんだけどなぁ…)

(詠唱と台詞がイタイタしいのがなぁ…)

 と、人々の憐れむような視線。しかし、当の本人は気にしない。というか、気づいてない。

 何はともあれ、セレッソの攻撃力は、人々の士気を上げるには十分な効果があった。

「よし! いくぞ!」

「おおおおおおっ!」

 それを見てセレッソは仮面の下でニヤつく。

 これで当面下は大丈夫。

 問題は。

「セレッソ様。ガルバント様は?」

「ああ、それなら問題ねぇ。あのジジィがそうそうくたばるかよ」






 ***






 ゴーレムの到達によって半壊した北門の上。

「………」

 イグナは感情のこもっていない眼差しで前を見据えていた。

 放った魔術はほぼ全力。だが、そこに居る老人は無傷でそこに立っていた。そをなことは当たり前だ。分かっていた。分かっていたが、どうすることもできなかった。そもそも、彼女は自分が何をしているのか理解できていない。なぜここに居て、何に直面しているのか分からない。分からないもどかしさを感じながらも、強制とも思える命令に逆らえずにいた。

「紅蓮の。主とワシでは、潜った死線の数が違うわい」

 本来ならこの老人、ガルバントは、イグナにとって最も相手にしたくない人物なのである。

 まず、彼女の性格に合わない。イグナは言ってしまえば単純、愚直、短気。対してガルバントは、じっくりと腰を据えて物事に取り組もうとする。粘り強いのだ。倒れず挫けず諦めず。普通に接するには問題無いが、深く突き詰めると相性はよくない。

「さあ、紅蓮の。すぐに終わらせようか。まだ問題が多く残っておるからの」

「………」

 イグナが魔術を放つ。

 しかし、それはガルバントの出現させた土の壁によって阻まれた。先程と同じ結果である。

 火と土。属性の相性上、有利不利は無いとされるが、それは少し違う。理解があれば土は火より有利に働く。火を近づければ、土はより屈強なものへと変化する。煉瓦と同じだ。

「土を砕くような火力は出せておらんの。紅蓮の!」

 遠距離がダメなら近距離しかないと、イグナは身体強化を施した後、ガルバントの懐へと飛び込む。

 瞬時に距離は縮まり、ガルバントが気が付いたときには既に、イグナの攻撃が放たれた後であった。


―パァン!

―…ドッ!


 乾いた音がこだまし、その後、少し遅れて重厚な轟音と、痺れるような衝撃が響いた。

 イグナにとっては二の舞だった。最初と同じ。いや、最初と違い攻撃を受け流された後、強烈な魔術をその身に受けたのだった。

「主の拳はもともとワシが鍛えたものじゃ。じゃから、いなせぬことはない。…最初こそ油断はしたがの」

 三つ目の理由。

 彼女の動きは既に見切られている。これは全ての行動に響く条件だ。

 イグナは膝をついた。

 二度も強烈な衝撃をその身に浴びたのだ。彼女の意識は軽く飛んでしまった。

 それを確認したガルバントは一息つく。

 見切っているとはいえ、当たれば致命傷になりかねない攻撃ばかりだったのだ。いつの間にか彼の体はあり得ないほど緊張していたのだった。

「…やはり堅牢地神と呼ばれるだけはある。流石の固さだ」

 膝をついたままのイグナが呟いた。彼女の声で、彼女とは確実に違う口調で。

 ガルバントは身を退く。

「お主、何者じゃ…?」

「あー、身体中血だらけじゃないか。仮にも仲間だろう? もう少し手加減はできなかったのかな」

 自らの血を払いながらイグナは立ち上がった。

 そして不気味に笑うと言葉を続ける。

「貴方に会うのは初めてじゃない。ガルバント・アクライト。…あ、いや、初めてか。ここでは」

「何を言っておる」

「いやいや、申し遅れました。僕はイド…。イド・イドレイン。神の力を食らう者。あなた方にはその方が伝わりやすいかな。あまり好きではないけど」

「…噂には聞いたことがある。神の力を食らい、我が物とする。フォトナ様が恐れておった者じゃな?」

「フォトナ…? あー、王宮の神様か。占いの力は特に必要はなかったから気にしたことはなかったな。心配しなくてよかったのに。ふふ、だけど今はどうかな。ちゃんと生きてるといいけど」

「なんじゃと?! 貴様何を知っておる!!」

「力は必要ないけど居ると邪魔だからね。少し運命を意地って例の追手の神様と引き合わせたんだ。生死までは知らない。けれど、十中八九は…」

「罰当たりもんが!!」

 ガルバントが踏み出し、それと同時に固い拳を振るう。

 イグナ(イド)は身体強化の状態で素早くその拳をかわした。

 空を掻いたガルバントの拳は足場にぶつかり、石でできた床を砕いた。舞い上がった小石、砂。それらが一つに纏まり、円錐になってイグナの方を向いた。

『ドリルロック!』

 詠唱無しでガルバントが魔術を放つ。

 円錐は回転しながら真っ直ぐイグナ(イド)へ飛んでいく。体を回転させてイグナ(イド)はそれを蹴落とし、そのまま勢いを殺さないようにして目に写らない速さでガルバントへ突っ込む。

『クリムゾンロード!』

 始点から終点へは一瞬。

 巨大な火柱が夜を赤く照らす。

 火柱からは火の粉が舞い、下方の家々に燃え移った。炎は一気に広がり、魔石灯の明かりも必要ないくらい、明るく赤く街を照らし出した。

『マッドマウス!』

「やっぱりこの女の動きは見切られて…」

 術の終点で一瞬止まったイグナ(イド)の足元が急に二つに避ける。それは大蛇の口だった。二本の巨大な牙と真っ赤な舌を持った岩の蛇。蛇は天に向かって飛び出した。

「ははは! 面白いね、ガルバント・アクライト! 土って地味な属性だけど使い手次第か!」

「…岩も見方を変えればただの巨大な土の粒子。操れぬことはない」

「ほんと、自然を味方につける貴方は怖い! 先に狙って正解だった!」

「主の目的は知らぬが、その状況でよくそんなに口が動くものじゃな」

 蛇の口の先で辛うじて呑まれずにいたイグナ(イド)にガルバントは感心したような台詞を投げ掛けた。

「勝てると思ってるからね。貴方には!」

「抜かせ若造が!」

「敵は僕だけじゃないんだよ、ガルバント・アクライト!」

 鈍く空を切る音。

 少し暗くなる周囲。

 ガルバントが後ろを向くと、その巨大な体が、これまた巨大な腕をゆっくりと振り上げていた。

「ゴーレ…」


―ゴオォォォン…


 鈍い破壊音と共に北門は完全崩壊した。


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