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第61話 同じ

すっかりペースが落ち込んでしまいました。

ここ一ヶ月ほど忙しかった(言い訳)からね。

でもゆっくり考えて書くことができて、むしろよかったかな、と思ってみたり。

まぁ、内容も文章力も構成も相変わらずですが…(汗)

「お前、バカか?」

「バ、バカとは心外ですわ! それにこれは独り言だと…」

「独り言ねぇ。勝手に情報を漏らす意味と捉えるが…、お前の言葉は真実か? 俺をたかばろうとしているんじゃないのか? お前は俺に用済みだと言ったろ。そもそも、その言葉も怪しいが」

「占いに基づいたより良い方向への道標! ワタクシの言葉に嘘があろうと無かろうと、行動するのは聞き、知ったあなた自身ですわ!」

「標とか紛らわしいものではなく、はっきりとした未来を言ってみろ」

「ダメですわ。言葉にした時点でそれは真実になってしまう。例えあなたがフェイリアであろうとも、不可避の未来になってしまいますわ。未来はぼやけて霞んでいる程度が丁度いいんですの」

「じゃあいい。どうせなんだかんだ言って言いくるめられるのは分かってたからな」

「そうですか」

「代わりに、お前の真意を聞きたい。どうしてクルリを助けようとする」

「彼女がワタクシの大切な友達だからですわ」

「命を懸けるほどの?」

「ええ」

 ウェスは剣をフォトナの首に突き付けた。赤い筋がつうっとフォトナの首に描かれる。

「真実を言え」

「さっき言った通りですの」

「言え!」

「何度でも言いますわ。彼女がワタクシの大切な友人だからですわ」

「………」

 剣が地面に突き刺さる。

「クルリはどうして記憶を失った…?」

「あなたは知っている筈ですわ。ウェストール」

「…俺が」

 操られていたとはいえ、クルリを斬ったのは間違いなくウェス自身である。

「だが、いや…」

 ククロの話では乗り移られていた期間の記憶はとんでしまうのだという。しかし、《乗り移られる以前の記憶》。それは残っているはずだ。

 それがおかしい。

 どこか噛み合わない。

 彼が記憶しているのは、仕事で出向いた先で傷付いたクルリを見つけた。ということである。ククロの見せた過去の映像。あれによれば、ウェスは既にクルリと出会っていて、自己紹介をしあい、うわべだけでも互いのことは知っている筈なのである。

 だが、あの光景には憶えがあり、すんなりと受け入れることができた。それが真実であるということはウェスがよく分かっている。

 ならば何故自分はあんなことを言っていたのだろう。

 ウェスはフォトナの顔を見た。

 銀髪の神様は涼しい顔で彼を見ていた。

「クルリちゃんの力は、もう判っていますわよね? 《輪廻》。廻るものならすべて操ることができますの。その違和感。ごく最近にも感じたのではありませんの?」

 違和感というよりは既視感と呼ぶ方が正しいだろう。ウェスが感じていたものはそれである。そしてつい先程気がついた噛み合わぬ記憶。食い違ったそれは間違いではない。食い違っているのにまるで違和感がない。違和感が無いことに違和感を感じるのだ。

「クルリちゃんの力が働いたのは二回。一つはここ一ヵ月程前。そしてもう一つは一年前」

 既視感は一ヶ月程前の幽霊騒動の一件以後からよく感じるようになっていた。そしてクルリを助けたのが一年前。フォトナの言葉はウェスの心に何かムズ痒いものを残した。

「違和感の正体は紛れもなくあの子の力。恐らく輪廻を一からやり直したんですわ」

「一からやり直す?」

「神術が寿命を消費するのは知っていますわよね?」

 ウェスは頷く。

「輪廻をやり直すということはつまり、人生を最初からやり直すのと同じこと。寿命は消費されませんの」

「それになんの意味がある」

「《記憶の継承》ができるとしたら?」

 ウェスは首を傾げた。

「例えば二手に別れた道があったとしますわ。右に行けば落とし穴があり、左に行けば宝がある。さて、どちらに何があるか判っていたら、あなたはどうしますの?」

「左に行く」

 フォトナは笑った。

「そう。態々落とし穴に落ちるような真似はしませんわ。けれど、もし右に行ったとしても、落とし穴は回避できるのではありませんの?」

「たぶんな」

「あの子はそうやってこれまでの人生を歩んできましたの。間違いがある度にやり直し、最良の道を進んできた。失敗の無い人生。完璧な人生を手に入れられますの。寿命を消費することなく」

 完璧な人生。

 失敗も無く、常に最高の道を選べるということなのだろう。

 だが、人生をやり直すというのは、苦痛ではないのだろうか。全てにおいて最良の道を選ぶのであれば、やり直した回数は計り知れないだろう。記憶を無くす前のクルリは、そんなことをしてまで完璧が欲しかったのだろうか。

「それが違和感となんの関係がある」

「本来、術者以外の記憶の継承はありませんわ。ですがワタクシ達が記憶を引き継ぎ、なまじフェイリアの力を有するあなたまでもが違和感に囚われ、果てにはあなたの周囲に居たものにまで違和感を与え、そしてあの子の記憶が飛んだ。術が不完全だった証拠ですの。不完全が故に記憶の継承に失敗しましたの」

「なぜ失敗したんだ」

「何か強力な負荷が働いたと考えられますわ。あなた、何か知りませんの?」

「強力な…負荷…」

 ウェスの頭に何かが引っ掛かった。先ほどのククロの映像を反芻してみる。

 《誰が斬ったのか》。

 クルリを斬ったのは彼である。操られていたウェスだ。だが、当時の彼はフェイリアとしての自覚も無く、妙な力が働いたとは考えにくい。

 では、《斬ったのはなんだったのか》。

 クルリである。だが、本人の術だ。意図しなければ失敗はあり得ない。

 ならば、《何で斬ったのか》。

 剣である。ウェスが退魔の剣と呼んでいたあの剣。…しかし、あの剣は斬れて精々中級魔術まで。神術が斬れるという保証は無い。

 ………が。

 斬れないという確証も無い。

 一番可能性があるとすればそれであるが、果たしてそうなのだろうか。

 ウェスは更に深く考えてみた。

 《どこを斬ったのか》。

 それはクルリの背中である。

 《その背中には何があったのか》。

「………聖印」

 ウェスはポツリと呟いた。

「何か気づきましたの?」

「フェイリアの俺が退魔の剣で聖印を斬った…」

「あ、あなたがあの子を斬りましたの?!」

 フォトナは心底驚いた様子を見せた後、ウェスを睨んだ。

「ワタクシの見当違いだったようですわね。あなたなんかにあの子を任せられませんわ。デスティクがあなたを引き剥がそうとした理由がよくわかりましたの!」

「ま、待て! 誤解だ! 確かにあいつを斬ったのは俺だが、操られていた! 俺自身の意思じゃない!」

「聞く耳持ちませんの」

「おい」

「……………」

「おい!」

「……………」

「フォトナッ!」

 ウェスはまた彼女に突きつける。

「今、俺が時間を支配していることを忘れるな」

 そして脅すように、そう彼女に告げた。

 そうするしかなかった。

 そして凍りついた沈黙の時間が止まったまま過ぎた。その間、二人は睨み合ったまま。

 状況は圧倒的にウェスが有利である。ただし、相手を倒すことが目的であるならばだ。しかし、今ウェスが欲しいのは情報。目の前にいる神様が口を滑らせて出してくれる情報だけなのだ。彼女を手にかけた場合、それは永遠に手に入らない。そもそも彼女が命と情報を天秤にかけ、情報をとる可能性もあるのだ。

 状況は圧倒的にウェスが不利であった。

 自ら招いてしまった状況に、どう対処するかウェスが考えていると。

「………ますの?」

 フォトナが口を動かした。

「どうして、そこまでしてクルリちゃんの情報を欲しがりますの? あの子の力が欲しいだけ? それとも何か別の理由がありますの?」

 理由は何?

 そう問われても、ウェスはその答えを持ち合わせていなかった。

 彼にとってクルリは金を食い潰す疫病神とも言える存在ではなかったか。相手をするのも面倒くさいと思ったこともなかったか。厄介事を背負ってしまったと後悔したことはなかったか。

 それでいて何故、彼女を求めるのか。

「ワタクシはあなたが何を何処まで演じているのか解りませんわ。ですが、時々見せるあなたの率直な気持ち。この剣もそうですわ。目に見えて伝わってくる。この情報、他人を踏みにじってまで得たいものですの?」

 剣を握る手に力が入る。

「そうだ」

 そう。

 そうなのだ。

 他人を蹴飛ばしてでも、幸せを踏みにじってでも、例え悪に堕ちてでも得たいのである。

 たった一つ、その情報が。

「最低ですわ」

 フォトナは顔を背けた。

「ですが…。そこまでするあなたの思いだけはわかりますの。ワタクシも…」

 国を出て、罪人になり、命を狙われようともクルリに尽力するフォトナもまた同じなのだ。

「少しだけ、真意が見えた気がしますわ」

 フォトナは小さく笑い、「嘘つきさん」と、皮肉を交えてそう付け加えた。

「それなら…」

「構いませんわ。占い的中率100%のワタクシの言葉。しかとその頭に叩き込みなさいな!」

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