表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
46/76

第42話 保護された霊能士

 トトラが次に見た景色は、宿屋の天井だった。外はすっかり暗くなっていた。

 トトラは痛みのする頭でこれまでのことを考えながら横を見ると、筋肉男と長髪女が何かを相談しているのが目に写った。ますます頭痛が酷くなるのを感じたトトラは、彼らを無視するように反対側へ寝返りを打った。

 するとそこには兎人族の少年が心配そうな表情でトトラを見下ろしていた。

 チラリと視線が合うと、少年はその表情を一変させ、声をあげる。

「お兄さん、気が付いたんですね! 僕を庇って気を失ったときはどうしようかと…」

「気が付いたか」

「気が付いたのね」

 余計な声がトトラの耳に届く。

「なんやねん! 自分等ワイにどないせっちゅうねん!」

 いい加減イライラが溜まっていた彼は布団から飛び起き、抗議の声をあげる。

「これからきちんと説明するから、今は話を聞け」

 と、クアクスが制したのだった。




 話をまとめるとこうだ。

 サナスト地方にて、身体中の血液を抜き取られた遺体が発見されるという奇っ怪な事件が多発していた。

 その事件の調査を命ぜられたのがこの二人の王宮魔術士。クアクス・レストーガと、イグナ・ヤッケンハイムだ。

 彼らは地道な調査を続け、ようやく犯人の手がかりへたどり着いた。それが先日の幻の町。高い魔力を持つ者が近づくと人寄せが働き、それ以外は常に人払いが働くという巧妙な仕掛けで犯人は人々を選別していた。そして何も知らずに入ってきた者を襲っていたという。高い魔力を持つ者は、相応の強さを備えていることがあるが、そんな奴もできるだけ楽に仕留めるために音を消すという周到さ。そこに乗り込んだ二人がが相手をしていたクアクスとイグナにとってだがは実はしたっぱで、バックには真犯人が別に居るとか。二人の調査ではそこまでたどり着いたものの、真犯人が何者かまではわかっていないようである。

「なんで血を抜く必要があるんや?」

「魔力は世界を巡り、廻るものだ。体内を巡回する血液は一番魔力を有していると考えられている。真偽は定かではないがな」

「ほんなら、何のために魔力の高いもんを狙うんや?」

「それはわからないわ。不可解。謎」

「で、ワイが狙われる理由は?」

「簡単だ。お前の保有魔力が高いからだ。まぁ、俺達には満たないだろうがな」

「なら、ワイなんかより自分等を狙うのが普通とちゃうか?」

「力の差は昨日見せつけてやったわ。あの手下達は私達より格下。弱いのよ。貧弱なのよ」

「それで、弱いワイを狙うと。根拠はあるんかいな?」

「無い」

 トトラがガクンと傾く。

「せやったら、ワイの相手しとらんと、その手下を追う方がええんとちゃうか?」

「全くその通りよ。だからあなたを保護するの。分かる? 理解できる?」

「ワイが霊能士だからやろ?」

「その通りだ」

「断る。あんたらの変な戦いのせいで、出発が遅れたんや。そんで今日物品調達も済ませて、エエもん拝んで出発しようと思っとったら…。追いかけられるわ、怪我はさせられるわで災難やわ。まさか自分等この宿の差し金とちゃうんか? 宿代ぼったくろうとしとんのとちゃうか?」

「失敬な! 私達はこんなボロ宿ではなく王宮に仕える身だ! 勘違いするな! バカにするな!」

「ボ、ボロ宿ってなんですか! 僕だってこんな乱暴者雇ったりしませんよ! こっちから願い下げです!」

 トトラの発言で喧嘩が始まってしまった。クアクスが間に割って入り、仲裁をしてそれはすぐに収まる。

「霊能士には魔力を見る力が備わっているのだろう? それであの手下共を追ってほしい」

「なんでそんな危険なことに首をつっこまなあかんねん」

「国から相応の報酬が出るが?」

「よし乗った!」

「変わり身早…」

 呆れた様子でイグナが呟いた。

「ワイの夢は商人になることや。今のうちに国家に恩を売っといても損はないやろ」

「調子のいい男だ」

「そんなら、とっとと出発せんとな。追うなら魔力の濃いうちがええしな。あと、ワイは戦闘は苦手やから、出くわした場合は頼むで、王宮魔術士のお二人さん」

「それではこのままチェックアウトなさいますか?」

「せやな。迷惑かけたな、坊主」

「いえいえ。ルコペッテへお越しの際は是非ともうちをご贔屓に。あ、でも覗きはいけませんよ。次は役所に連絡しますから」

「見つからんよう気ぃつけるわ」

 反省する風でもなく、飄々とトトラは答えて自分の荷物を掴んだ。

「またのお越しをお待ちしております」

 部屋を出ようとして、トトラはふと立ち止まる。そして懐をごそごそ探り、紙切れを一枚取り出して少年に渡す。

 ぐにゃぐにゃの線が引かれたその紙を首を傾げながら見つめる少年にトトラは言った。

「商売繁盛のお守りや。少しは効果あるやろ。客の話やクレームを聞いて悪いところは改善していきや。ワイが次泊まるときはもっとええ宿にしといてほしいしな」

「あ、ありがとうございます! 頑張ります!」

「ほな行くわ」

 少年に見送られ、三人は宿屋を出発した。

 早速犯人の足跡を辿ろうかと、トトラは目を凝らす。

「………多いなぁ」

 全てのものには魔力がある。世界は魔力に満ち溢れているのだ。手がかりも無しにその中から特定のものを探すのは難しい。

「手がかりかなんかあれへんの?」

「あの手下の片割れの服の切れ端だが、こんなものしかないな」

 クアクスが小さな布片をトトラに見せる。

「十分や」

「犬みたいね」

「そら犬人族に聞かせられへん言葉やな」

「サナスト地方は人種の坩堝だ。軽率な発言はよせ。大体お前はだな…」

 ぶつぶつと説教を始めたクアクスはとりあえず無視し、トトラは布に残っていた僅かな魔力を見て、周囲からそれと似た魔力を探す。ぐねぐねと町の中を四方八方へ続く魔力の線。それは魔力あるものが通った道筋だ。さらに目を凝らし、そのなかでもよく似た魔力を選び出す。時間が経つと魔力は形が不安定になってしまうので全く同じものは無いのである。

 候補は三本。

 ひとつは民家の中へ続いている線。

 もうひとつは町を出てどこかへ向かっている線。

 最後に、町の中をうろうろした挙げ句、今もまだどこかをさ迷っているであろう線。

 この結果を王宮魔術士二人に報告する。

「プライバシーも何もないわね…。ああ、私は見ないでよ。視界に入れないで。視界に入らないで」

「なんや酷い言われようやな…」

「町の外に出た線はことりあえず置いとくとして、残りの二つの線だな。民家のはすぐ確認できるか?」

「そこの家やしな。迷惑を気にせんなら今からでも見てきたらええ」

 クアクスはトトラが指差した民家の前に行き、扉をノックした。

 するととてつもなく不機嫌そうな老婆が一人顔を出す。事のあらましを伝え、懇切丁寧にクアクスは説明するが、老婆は耳が遠いのか「あ?」とか「は?」とか繰り返すだけで、全く話が通じない。最終的に老婆は大声で怒鳴り散らして扉を閉めてしまった。

 しゅんとしたクアクスが戻ってくる。

「線はあのおばあさんのもんやったで」

「ということはハズレね。あんな老婆知らないもの」

「…町の中をうろうろしている線はどうだ。キリウ」

「定まった場所に居らんことを考えると、野性動物かもしれんな。一応、追ってみるか?」

「そうしよう」

 クアクスが言い、三人は歩き始めた。

 しかし、三歩ほど歩いたとき、トトラは急に歩を止める。

「あ、いや。なんか変やな」

「何が変なのよ」

「うろうろしとるんやけど、全部…、これは、なんや?」

 うろうろしている線。それには規則性があった。それがトトラの歩を止めさせたのである。

「こいつ、ワイらを中心にうろついとるみたいやな」

「当たり、か。だとすると、俺たちは既に見張られていて行動も筒抜けな訳だ」

「このストーカーが後手に回ってるんじゃ最初から意味無いじゃない! 変態! ド変態!」

「なあ、なんでそんなにワイに冷たいん?」

「とはいえ、相手の動きを察知できたのは大きい。気を付けろ」

「気を付けろゆうてもな。ワイは――――――――。――――? ―――――――――――? ―――?!」

 音が聞こえなくなった。

 トトラは耳に手を当ててみるが、声どころか物音ひとつ聞こえない。耳鳴りだけが頭の中で反響するように鳴り響いていた。

 王宮魔術士二人はすぐに身構えた。

 音を消すことができる奴が敵にはいる。その事を思い出したトトラも慌てて身構え、周囲に注意を向けた。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ