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第38話 暇だから特訓する

 ウェスは今日も城へ出掛けてしまったため、クルリはウルハインド家にて与えられた一室でのほほんと過ごしていた。ここに居る間は面倒見てくれる人がいるので、食べ物の心配もしなくていい。

 しかし、暇で暇でしょうがないクルリは、暇潰しにと家の中を探索しはじめた。リリアについてきた兵士達が大層な物言いでウルハインド家などと言っていたが、そこいらの家よりは多少大きい気はするが、実際はなんてことのない普通の家屋であった。

 ウェスの父親レプスンは魔術士。かつては世界を股にかけていたようだが、ニーナに出会い、彼女の生まれ故郷であるこの街に落ち着いたらしい。ニーナもまた魔術士で王宮で魔術の研究をしていたようである。この家系はまさしく魔術士の家系なのだった。その中で魔術を行使していないウェスはやはり異質のようにクルリは思う。

 廊下を歩いていると、休日なのか、いそいそと家の手伝いをしているリリアを見かけた。

 暇をもて余していたクルリは、せっかくウェスが特訓を受けているのだから、自分も何かした方がいいのではないかと思い、そんなリリアを呼び止めた。

「リリアさん」

「どうかしましたか?」

 リリアは洗濯籠を抱えたまま振り返る。

「王宮魔術士って強いんでしょ?」

「ええ、まあ。簡単には負けない自信はありますよ」

「もしよかったら、魔術を教えてくれない?」

 リリアは首を捻る。

「クルリさんはちゃんと使えてるじゃないですか?」

「うん。だけど、魔力のコントロールなんて全然意識してないし、正直なんとなく使えてる程度なんだ。たぶん、記憶を無くす前にやっていたことを体で覚えてるだけだと思う」

「身体で…」

「リリアさん、涎」

「す、すみません…」

「せっかく魔法石を手に入れたのに、まともに扱えなくてこまってるんだ」

「そうですねぇ…。あまり時間はとれないかもしれませんが、それでもよければ構いませんよ」

「ほんとに?!」

「私で務まるかはわかりませんが…」

「十分だよ!」

 クルリはリリアに飛び付いた。

「ああ、クルリさん! 私にそっちの気は…!」

「だから涎」

「すみません…」






 ウルハインド家の庭にクルリとリリアは立っていた。

「ではクルリさん。一番得意な属性はなんですか?」

「一番良く使うから火かな」

「それでは、私に向かってで構いませんから撃ってください」

「で、でも…」

「庭のことも気にしなくていいですから本気で撃ってください。あ、でも魔法石は外しといてくださいね」

 クルリは先日の失敗以来、魔法石は身に付けていなかった。せっかく手に入れたのだが、コントロールできなければ意味が無いと鞄の奥に泣く泣く突っ込んだのである。

「そ、それじゃあ…」

 何を使おうか考えたが、取り合えず初級魔術を撃つことにした。

 手を前に翳して集中する。

『大地を焦がす赤き揺らめき。行け、猛る炎!』

 掌に小さな炎が現れた。

『レッドブリス!』

 炎が放射状に拡がり、リリアに襲いかかる。

 それは無意識の手加減は差し引いても、クルリにとって全力の魔術だった。威力は侮れない。おまけにリリアが得意とする魔術は風。彼女は圧倒的に不利なはずなのだが、流石は王宮魔術士を名乗るだけのことはある。

『ガスティクロス』

 十字の風が炎を吹き飛ばしてしまった。

 本来なら火属性は風属性に強いはずなのだが。驚いているクルリに向かってリリアが言った。

「質の差ですね」

「質?」

「クルリさんの魔術は決して悪いわけではありません。むしろ質は並以上です。ですが、より高位での争いになると、たとえ属性関係が有利でもなんとなく使っているだけでは太刀打ちできません。僅かな差が表に出てきます。今の結果がそうですね」

「そうかぁ」

「使える魔術って何がありますか?」

「火属性三つと水属性一つ。風属性二つと陽属性二つ」

 それを聞いてリリアが驚いた顔をする。

「そんなに使えるんですか!?」

「う、うん。普段は火ばっかりだけど…」

 何かをぶつぶつ呟きながらリリアは腕を組んだ。そして、どこか落ち着かない様子で右へ左へうろうろしている。

「なんか変だった?」

「い、いえ。使える属性は二つか三つが限度と聞いていたので少し驚いただけです」

 まあ、相手は神様だし、四つくらいなら誤差の範囲だろうとリリアは思い直して話を続ける。

「えっと、それでは、使える魔術全部撃ってもらえますか? 具体的にどんな感じか知りたいので」

「わかりました先生!」

 生徒は元気よく返事をして、使える魔術をすべて放った。もちろん本気で放っているのだか、上級魔術も先ほどと同じようにすべて相殺されてしまった。

「特に心配していませんでしたが、基本的なことは大丈夫みたいですね。詠唱にも関連性を持たせて魔術全体の威力の底上げもできています。…他にもいくつかやるべきことはありますが、順序的にクルリさんの気にしている魔力のコントロールに専念してもいいかもしれませんね」

「先生! 何をしたらいいですか!?」

「これです」

 リリアは人指し指をピンと立てると、指先に小さな風を起こし、それを維持してみせる。

「はっきり言ってクルリさんは魔力の放出が安定していません。ですから魔術の威力もまちまちでした。これではここぞというときに効果を発揮できない可能性があります。コントロールは魔術をきちんと使いたいのであれば大切なことです」

「はっきり言われるとちょっと落ち込む…」

「あ…、す、すみません…」

「ううん。気にしないで続けて」

「は、はい。えー、指先というのは最も繊細な部分です。そこからの魔力放出を安定させることができれば、かなり進歩するはずです」

「指先かぁ。そんなやり方もあるんだ」

「クルリさんは火属性が得意なようですから、蝋燭の火程度のものを出せばいいと思います。詠唱は要りませんよ。小さいものですから、たとえ失敗しても大惨事にはなりませんので。ただ火だけをイメージしてください」

「はい先生!」

 クルリは人指し指を立てる。そして指先に小さな火をイメージする。言われた通り蝋燭程度の炎、の、つもりだったのだが。

「おわっ!!」

 蝋燭どころか空を突くような火柱が上がったので、クルリは驚いて尻餅をついてしまった。

「魔力は放出するより抑制する方が難しいんです。私も最初はよく失敗して付き合ってくれた兄さんを吹き飛ばしていました」

 リリアは笑っていたが、ウェスにとっては笑い事ではなかっただろう。

「とりあえずそれは宿題にします。また時間が空いたときにお付き合いしますので、その時にまた成果を見せてください」

「はーい…」

 少し自信なさげにクルリは返事をした。

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