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第26話 出逢いは突然に

ケータイでぱちぱち文字をうっていると、指がつりそうになるときがあります。

「犯人の目星はついたが、あの双子はどうするんだ? 集合場所なんか決めてなかったと思うが…」

 裏道から酒場の前に出てくるとウェスが言った。

「それなら大丈夫ですよ。ほら」

 リリアは荷物の中から小さな笛を取り出して見せた。だが、いくら笛を鳴らしたところで、その音が彼らに届くとは限らない。まさか笛をピーピー鳴らしながら通りを練り歩くとでも言うのだろうか。そもそも、この賑やかな街で音がまともに聞こえるとは思えない。

 ウェスとクルリは首を傾げる。

「まぁ、見ててください」

 リリアは笛に口をつけ息を吹き込む。

 しかし笛は鳴らなかった。

「壊れてるんじゃないの?」

「いいえ。これでいいんです」

 リリアはにこりと笑う。

 ウェスとクルリは顔を見合わせた。

 鳴らない笛を吹いてから少し時間がたった。すると、道の向こうに二つの人影が現れた。鎧を纏った二人だ。

「「お呼びでしょうかリリア様!」」

 綺麗に声を揃えて、エイサンとビイサンは敬礼をした。

 ウェスとクルリは開いた口が塞がらないといった風でその光景を見ていた。

 くすりとリリアは笑うと、それがどういう事か説明してくれる。

「二人は犬笛を知っていますか?」

「ああ、犬にしか聴こえない音が出る笛のことだろ? 俺も何度か使ったことがある」

 流石は農場経験者といったところか。ウェスが答えた。

「はい。これはその犬笛で―」

「待って。ウェスさっき言ったように犬にしか聴こえない音なんでしょ? 出しても人に聞こえるとは思えないけど」

「でもこの二人には聴こえるんです」

「そんな馬鹿な」

「エイサン、ビイサン、兜を取ってください」

「「はっ!」」

 リリアに言われ、二人は兜を脱ぐ。

 少し長めの茶髪の髪。兜を被っていたせいか、少しクセがついてしまっている。だが、気になるのはそこではない。小さな角…、いや、耳が彼らの頭についていたのだ。

「二人は《犬人族けんじんぞく》なんです」

「そうだったのか」

 ウェスは納得したようだが、クルリは納得できなかった。

「犬人族ってなに?」

 クルリが尋ねる。

「ん? ああそうか。フォンヘイムには俺たちみたいな《人族ひとぞく》しか居なかったもんな」

「人族?」

「ああ。人族は別名《猿人族えんじんぞく》ともいって、人型の人種では一番数の多い種族なんだ。犬人族はそこから新たに誕生した種族だといわれている。彼らには人族には無い特別な力があるんだ。例えば、さっきのような超聴力なんかがそうだな」

「へぇ。じゃあいろんな種族がいるの?」

「そうだ。まぁ、人族だとか犬人族だとか言うことを差別だという話もあるんだ。それで今の人族、つまり俺達の事だが、それを猿人族と呼んで、人型の人種それすべてを人族と呼ぶようにしようという運動もあるんだ。昔はそういう差別意識が強かったようだから、苦しんだ人も多いらしい。ただ、今は他の種族の数も増えてきて、そういった差別も自然と消えているようだがな。まぁ、人種については今後どうなるかはわからないな」

「なんかややこしい話だね」

「そうでもないと思うんだがな。深く考える奴はには難しい話か。まぁ、そういった連中と話す場合に少し気をつけておけばいい」

「はーい」

 といったところでお勉強の時間が終わる。

「リリア様…」

「あ、ごめんなさい。犯人は見つかりましたか?」

「はい。なんとか行き止まりまで追い込んだのですが、あの女かなり身軽で…」

「壁伝いにひょいひょいと上へ逃げられてしまい、取り逃がしてしまいました」

「そうですか。仕方ないですね。こちらもその女の情報を仕入れたところですから、そこから割り出していきましょう」

「あ、それでまた服装が代わっていたんですね」

「あの老人、いい情報は持っているんですが…」

「私だけならまだしもクルリさんには悪いことをしてしまいました」

「あんまり思い出したくないから話を進めてよ」

 リリアは苦笑すると二人の兵士の話に耳を傾けた。

 彼らが女を見失った場所はとある商店の裏道だったという。そこは行き止まりになっていて、女は壁を軽々と登って逃げていった。盗みを働くにあたって、逃げ道というものをいくつか作っておくのは当然のこと。彼女はわざと行き止まりに逃げ込み、そこから自分のみ使える道を使って逃げていった。つまり彼らはまんまと女の罠にはまってしまったのだ。

 そこで逃げたあと女はどうするか、ということになるのだが。

「当然しばらくは身を潜めることになるだろうな」

「そうですね。そこで、さっきゼペットさんから仕入れた情報が役に立ちます」

「そのじいさんから貰った簡易の地図によると、報告にあった商店に一番近い場所はこの廃屋になるが…。簡易すぎていまいち位置が掴めないな…」

「一応近くまで行ってそれらしき建物を見つけるしかないですね」

 そういうわけで、二人が女を見失ったという裏道のある商店の前までやって来た。

 そこはウェスが財布を盗まれた場所から程近い場所にある宝石店だった。女はこの周囲の道をぐるぐる回った挙げ句に、この裏道へ逃げ込んだという。

「ずいぶん弄ばれたみたいだな」

「申し訳ありません!」

 別に責めているわけではないのだが。まったく律儀な兵士だ。まぁ、そうでなければ務まらない仕事なのだろう。

「このあたりで廃墟なんて見当たらないけど…?」

 クルリの言う通り、この辺りには綺麗な建物が立ち並び、廃墟のようなものはどこにも見当たらない。

 筋が違うのかと近くの通りを手当たり次第に探したが、それでも可能性のある建物はひとつとして見つからなかった。

「この辺りのはずなんだけどね…」

「そういえば、あのじいさん変なことを言ってなかったか? ここと同じような場所もあるから気を付けろとかなんとか」

「そういえばそうですね。ここと同じ場所。ここというのはたぶんゼペットさんの場所のことでしょう。あそこで説明してもらいましたし」

「あんな感じの空き地のことか?」

「でも空き地は逃場にはないですよ?」

「そうだな。あそこはまぁ、分かりにくい場所だったな」

「分かりにくいから見つからないんでしょ?」

「ごもっとも」

「あっ!」

 リリアがポンと手を叩く。

「そうです! 分かりにくいんです!」

「だから参ってるんだ」

「道と言えないような道があるのかもしれません! さっきエイサンとビイサンが女を取り逃がした区画も裏道があって中心に行けるようになってましたから、この辺りにもそんな道があるんじゃないでしょうか?」

「ああ、なるほど。内側も探さないとだめなのか。とすると、どこかにそんな横道が………、あった」

「え?」

 意識した途端に道が見えるようになった。先入観とは恐ろしいものだ。見つけてしまえばなぜ自分達が見落としていたのか不思議になる。

「ここにあの女がいるんでしょうか?」

「さあな。いるかどうかは行けばわかる」

 と、その時、道の向こうから人影がひとつやって来る。

 ちょうどいい。あの人に少し話を聞いてみよう。…とウェスは思ったのだが。

「あ」

「あ」

 ウェスとその人影が呟いたのは同時だった。

 一瞬空気が固まる。

 向こうから来た人影はキリキリと向きを変え、奥へ戻ろうとする。

「まてっ!」

 ウェスはとっさにその人影を取り押さえた。

「な、何すんの?! 人違いだって! 私はあんたの財布なんか盗んでな…、あっ!」

「………」

 ウェスは額を押さえる。

 こんな馬鹿に財布を盗られた自分が情けなかった。

 捕まえた人影は、紛れもなく財布を盗んだあの女だった。

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