第24話 目的地変更
ちょっと短めです。
翌朝。
雨はすっかり止んで、青い空がどこまでも広がっていた。
クルリは布団から体を起こす。
あの贅沢なベッドに慣れてしまったせいか、背中が痛かった。
ふわぁと欠伸をするとクルリは身支度をする。一通り準備を終えると、隣のベッドに目をやった。
そこには昨晩兵士と共にやって来たウェスの妹、リリアが眠っていた。
王宮魔術士。
王宮で働く魔術士の事らしい。王宮で働く魔術士は数多く居るが、この称号をもっているものは僅かに七人だけだという。彼らは潜在能力、才能、保持魔力などがずば抜けて高いと言われている。
リリアは風の魔術に特化しており、また魔力を形あるものに変えられるという特殊な能力を持っていた。
クルリも昨晩見せてもらったが、本当に凄い能力だし、とても面白いものだった。
クルリはふと考える。
リリア。
彼女はウェスの妹だという。
それならウェスにも似たような能力をもっているのだろうか。
潜在能力や保持魔力ならば、遺伝によるところが大きいので、ウェスにも十分その素質はあるはずなのだ。しかし、彼が魔術を行使している姿をクルリは一度も見たことがなかった。
となると、やはり才能によるところだろうか。才能がなければ魔力があっても魔術は使えない。逆にわざと使っていないという可能性もあるが、それもどうだろうか。賞金稼ぎという仕事をする上で魔術が使えることは有利にこそなれ、不利になることはほぼ無い。剣士でも治療魔術くらい使えるものは山ほどいる。才能が無いと言われればそれまでだが、あえて使っていないというのであれば、それこそ宝の持ち腐れである。
―コンコン
ノックの音がする。
すぐに外から兵士の声が聞こえてきた。
「リリア様。出発の準備が整いました」
と言っているが、リリアは一向に起きる気配がない。
「リリアさん朝だよ。出発するって」
クルリがユサユサ揺さぶってみるが、それでも彼女は幸せそうに眠り続けている。
「はぁ、やっぱ起きないよな…。寝ているあの人は隣で戦争しようが起きないし」
外で兵士が話している。
「そのせいで復旧作業の出発も昼からになって半日遅れをとったばかりだって言うのに…」
「あの人の寝起きの悪さは国一だよ」
ずいぶん酷いこと言われてますよ、リリアさん。
だが、彼女はそんなことまるで関知しないように眠っている。にやりと開いた口から少し涎が垂れている。
「どうかしたのか?」
そこへ耳慣れた声がやってくる。
「あ、ウェストール様。おはようございます」
「様なんかつけるな。俺はリリアとは違う」
「しかし、あのウルハインド家の御子息ですし、そういうわけには」
「家のことなんか関係無い」
「は、はぁ…」
なんか凄い家っぽい。
「で、何をごちゃごちゃ言っていたんだ? ここには妹とうちの相方がいるはずだが?」
「はっ! 出発の準備が整ったのですが、リリア様が起きないもので、どうしようかと…」
「…なるほど。まだあの癖が直ってないのか。世話の焼ける妹だ」
―コンコン
もう一度ノックの音が聞こえた。
「入るぞ?」
ドアが開く。
「クルリ、起きていたのか」
「う、うん」
クルリはなんだか聞いてはいけないことを聞いた気がしてまともに顔を見ることができなかった。
「さて、問題はこっちか」
ウェスがリリアのベッドの横に立つ。
口をむにゃむにゃ動かしながら笑っている。変な夢でも見ているのだろう。
それはウェスにとって見慣れた少し懐かしい光景だった。
ウェスは小さく笑うと、大きく息を吸い込んだ。
「リリア! いつまで寝てるんだ!!」
耳をつんざく程の声は外のモクゥも飛び上がるほどの大声だった。
すると、リリアはムクリと起き上がり、眠たそうに目を擦りながら周囲を確認する。そしてウェスの姿をその瞳に映すとこう言った。
「あ、兄さん、おはようございます」
「はい、おはよう」
「おおっ! あのリリア様がすんなりと起きたぞ!」
兵士達が感動している中、クルリは一人浮かない顔をしていた。
「これもどこかで…」
見覚えのある風景が付きまとう。
「やはりウェストール様! 貴方もどうか王都へ! リリア様を起こす役…、いえ、ウルハインド家の御子息なら大歓迎ですよ!」
「意味がわからん。というか、一瞬変な役目を押し付けようとしただろ!」
「に、兄さん! 帰る決心をしてくれたんですか!?」
「いや、だから、なんでそうなる。俺は帰らないぞ!」
「ウェス、私も王都に行ってみたい。うん! 行こう!」
「お、おい、クルリまで何を言い出すんだ?!」
「満場一致で決まりですね! せっかくの機会ですから兄さん、一度家に顔を出してください!」
「いや、俺は…」
クルリは嬉しかった。
何故かはわからないがこれでいい気がした。今フォンヘイムに帰ると何となくよくないことが起きると思った。
だから王都への話が出たとき、彼女も食いついたのだ。それに、彼女自身も王都には行きたいと思っていた。それは彼女にちょっとした目的があったからだ。
王都には《占いの神様》が居ると以前ウェスが言っていた。その神様に会ってみたい。そうすれば自分の事について何かが分かるかもしれない。分からないにしても、占いの力なら何か得るものがあるはずだとそう思ったのだ。
「というわけで次の目的地は王都に決定だね! ウェス!」
「あ、や…」
誰にも話を聞いてもらえないウェスであった。
彼らは一路、《王都グリムヘイア》へ向かう。
「だから俺の意見はっ!?」
無視された。